「そういえば定晴さん?」
館に続く庭を通っていたら美鈴が言おうか言わないか迷っているような様子で聞いてきた。
「ん?何だ美鈴?」
「此処が誰の館か分かっていますか?」
誰の館か…こんなに大きな館を持つくらいなので貴族かもしれないが、どのみち俺は事前情報無しでここに来ている。ここは正直に答えておこう。
「いや。幻想郷ではデカイ建物だから来たんだ。興味があるからな」
「そんな興味本位でこういう所に来るのは今後やめといた方が良いですよ」
「何故だ?」
「此処はお嬢様…レミリア・スカーレット…吸血鬼の館です」
咲夜が美鈴の代わりに答える。
まあ確かに興味本位で気軽に行けるような場所は幻想郷には殆ど無いと聞く。なんせ行った先に大妖怪、なんてこともザラにあるからだ。
それにしても吸血鬼か…今まで会ったこと無い種族で逆にテンションが上がってきた。どれだけ危険であろうとも好奇心には勝らないのだ。
吸血鬼、国によってドラキュラだとかヴァンパイアだとか言われている種族。人の生き血を吸って生活している。血を吸われた人はその吸血鬼の眷族になるとか。勿論どれも文献からの情報なのでどこまでが正しいのかは不明だ。今から確認できるけれども。
吸血鬼と言うと危険な存在の一例として挙げられがちだが、俺には浄化の力があるのでもしもの時はその力を使って逃げれば良い。印象は悪くなるだろうが、命を捨てるほどのものでもない。
「今お嬢様は睡眠中です。起こされると大層不機嫌になられると思いますが」
「あー、そうか昼間だもんな」
吸血鬼は太陽の光に当たると灰になるとか聞いたことある。だから昼間は寝ていて、夜になると行動を開始するらしい。本当に吸血鬼がそんな存在であったとは。
つまりここには真夜中にしか挨拶することが出来ないのか。それではいつまで経っても会うことが出来ない。真夜中に幻想郷を移動するのは流石に遠慮したい。
「ただあと三十分程で起きられるのでもうしばらくお待ち下さいませんか?」
おっと、意外にも早起きらしい。どうやら幻想郷で生きるためには昼間に行動できる方が良いと判断したため昼から夜にかけて起きているらしい。
「もう起きてるわよ。咲夜」
「おや?」
気が付いたら館の扉の前に幼女が立っていた。身長は外の世界の小学生と同じくらいだろうか。しかしその身に宿る妖力はただの幼女ではないことを物語っていた。
「お嬢様!どうされましたか?」
「とても大きな霊力を感じて起きたのよ。霊夢かと思ったら違うのね。まあ霊夢の霊力とは似ても似つかないのだけど」
もしやこの子がレミリアなのか?メイドである咲夜がお嬢様と呼んでいたのできっと間違いないだろう。館の方から感じていた大きな妖力とは彼女のものだったらしい。
「ねえ、貴方は誰かしら?幻想郷でそんなに大きな霊力を持っているのは霊夢位なのだけど?」
疑問をぶつけられる。俺の霊力ってそんなに不思議なものなのだろうか。自分では分からない。
「俺は堀内定晴だ。あんたがレミリア・スカーレットか?」
「ええそうよ。定晴?聞いたこと無いわね。新入りかしら?」
「そうだ。なんせ一週間とちょっとくらい前に幻想郷に来たばかりのもんでな。逆に知ってたらビビるわ」
幻想郷にはテレビ等の電子機器がないからそんなに早く情報が出回るとは思えない。そういえば紫が新聞は有るって言ってたな。何が幻想入りして何が幻想入りしていないのかが不明すぎる。
「ふふふ、はははは!貴方まだ一週間しか幻想郷に居ないのにここに来たのね?その勇気は凄いわ!」
すると笑いだしたレミリア。知りたいことはとことん知りたくなる質なのだ。
「実は此処が吸血鬼の館だなんて知らなくてな…」
「普通の人は私達が出す魔力に耐えられなくて近寄らないわ!だから今までここに来る人間は霊夢と魔理沙くらいのものだったけど…ふふ、貴方気に入ったわ!ちょっと来なさい、貴方の霊力の謎も気になるし」
とりあえず主にも許可を得たので紅魔館の中に入ることとする。紅魔館という名に恥じない色の扉を開けると、そこにはまたもや紅い光景が広がっていた。