東方十能力   作:nite

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百五十六話 地底へ帰還

それから数日が過ぎてこいしが帰る日になった。

こいしは二日ほど前から帰りたくないと駄々をこねだし宥めるのが大変だったのだが、また地底に遊びに行くことを約束して一応は納得してもらうことにした。こいしの性格はさとりも分かっているだろうが、約束を違えることはこれ以上してはいけない。

 

「んじゃ行ってくる」

「またねルーミアちゃん」

「ええ、また会いましょ」

 

こいしが泊まっていた一週間。度々こいしとルーミアは同じ部屋に集まり話していたようですっかり二人は仲良くなっていた。どうにも共通の話題があったらしいけど、それについては二人とも教えてくれなかった。

今日は元々お燐が迎えに来る予定だったのだが、急遽お燐の仕事ができてしまい他にこちらに来させることができないということで俺が地霊殿まで送ることになった。こいしは放浪癖(無意識でふらふらするので放浪とは少し違うが)があるので一人で地霊殿まで帰すのは不安だという俺とさとりの意見が一致したのでこうなった。

正直に言うとさとりに会うとルーミアとの関係がバレてしまうのであまり会いたくはないが、まあルーミアのことを考えなければ問題ないだろう。最悪無効化を使えばなんとかなる。

 

「じゃあ行くぞこいし」

「はーい」

 

博麗神社の近くにある間欠泉跡が地底に繋がっているので帰りはそこを通って帰る。来るときもここをこいしは通ったらしく迷うことはないそうだ。

博麗神社に着くと霊夢と萃香とあうんがいた。どうも萃香が何かをまき散らしたようでそれを霊夢とあうん、怒られた様子の萃香が片付けていた。一応挨拶だけはしておくか。

 

「霊夢」

「あら定晴さん。こいしが帰るのね」

「…一応聞くが萃香は何をしたんだ?」

 

俺がそう聞くと霊夢は集めていたものの一つを拾い俺に見せてきた。

これは…豆だろうか。大豆の大きさの豆のようだ。

 

「萃香が神社に置いてあった豆を酒のつまみとして持って行こうとしたの。でもあうんがそれに気づいて萃香に声をかけたら萃香ったら驚いて全部落としちゃったのよ。それで私は萃香を叱って掃除させているところよ」

 

霊夢に酒と一緒に食べるから頂戴などと言ったところで貰えない事は萃香も分かっていたのだろう。それで内緒に持って帰ろうとして落としたのか。結局豆は誰の口にも入ることなく捨てられることになるだろうしもったいない。

 

「ま、残念だったな萃香」

「うー…」

 

しょんぼりしている萃香。

可哀そうだが自業自得でもあるので特にフォローはしない。会話もほどほどに俺とこいしは間欠泉跡へと向かった。

 

「ここを通ってきたのか?」

「うん、ここだよー」

 

地面にぽっかりと開いた穴。底が見えないのは妖術でものんでもなく純粋に日光が届いていないだけであり、それだけでこの穴が如何に深いのかを物語っている。

空を飛べるのであれば何ら怖いこともないが、もし空を飛ぶことのできない人がこの中に落ちたらと思うと…子供が巫山戯て柵を乗り越えたりしないことを祈るしかあるまい。

俺とこいしは同時に飛び降りた。俺が魔術で周囲を明るく照らす。空を飛べるとは言え壁面には凹凸があるので誤ってぶつからないようにするための処置だ。

 

「楽しかった〜」

 

降りる途中、こいしがポツリと呟いた。

 

「今までは日帰りだったっていうのもあるけど…それ以上に色んな人と関わったのが楽しかったな。私、あまり認識されないから」

 

無意識でふらふら、意識的にもふらふらしているこいしは基本的に能力が発動している。無意識に発動していることも多々あり、そのせいで道行く人に認識されないのだ。

勿論消えているわけではないので会話したりぶつかったりすれば気付けることもあるが、それでもここまで他人と触れ合うこともなかったのだろう。

 

「それにフランちゃんと同じくらいルーミアちゃんと仲良くなれちゃった」

「結局何が二人を結びつけたんだか」

「秘密ー」

 

顔を赤らめつつそう言うこいし。乙女の秘密とやらだろうか。あまり踏み込むと嫌われるのでここらへんで打ち止めにしておこう。

 

「ちゃんとさとりに感謝しろよ。そもそも無許可なんだし」

「でも一週間の外泊は認めてくれたよ。もういっそのこと地上に戻ればいいのに。もう昔みたいに私達のことを忌み嫌う人は少なくとも幻想郷にはいないのに…」

 

こいしも本気で言っている訳ではないだろう。さとりには地底の仕事があるわけだし、今更地上に戻ることなど出来そうもない。だがそれでもこいしの声が、表情が寂しげに思えたのは、後半の部分は本気で思っているからだろう。

 

「ほらこいし。到着だ」

「はーい」

 

こいしが地面に着地し俺もその隣に降りる。

地底に足を着けるのは久し振りだ。だが忘れたわけでもないので覚えている道に出れば地霊殿まではすぐだった。

地霊殿の入口にはさとりとお燐が立っていて、こいしの帰りをまっていた。

 

「こいし様おかえりなさーい」

「おかえりこいし。迷惑はかけてないわね?」

「ただいまー!」

 

こいしが二人に抱きついた。何だかんだ言って寂しかったのだろう。

さて、これで俺の仕事は終わりなので地上に戻ろうとしたらさとりに呼び止められた。

 

「定晴さん、休んでいきません?え、あっ…話も聞きたいですし」

 

何か知らんが心を読まれたようだ。さとりがどこまで心を読めるのかは知らないけどさとりの前だと心の中まで意識しておかないといけないから緊張する。

 

「定晴!休んでって!」

 

こいしまでそう言うので少しだけ休むことにした。

地霊殿は紅魔館と違ってメイドや執事のような使用人はおらず、ペットが多くの場合仕事をしている。お燐やお空もペットの内の二匹だ。

その影響もあってか地霊殿には紅魔館ほど飾り付けがないので例えこいしがふらふらしていても危ないことはない。ペットたちからすればヒヤヒヤするものなのだろうけど。

 

「お燐、温かいお茶を用意して」

「分かりました〜」

 

お燐がパタパタと走っていった。

こいしが俺の隣に座る。最初こそ朝食の席順が固定だったのだが、こいしは四日目の朝あたりからコロコロと席を変え始め最終的に俺の隣に座っていた。こいしが言うには落ち着くらしい。

 

「へぇ〜?」

「さとり?」

「んっん…何でもありません」

 

咳払いをするさとり。さとりは現在進行系で心を読んでいるのだろうけど、何か思うところがあったのだろうか。

 

「それで…一週間ほど泊めていただいてありがとう御座いました。こいしったら何時の間にかいなくなってて地上に行っていたものだから…」

 

まあそれはこいしの癖みたいなものだろう。今回はお燐がついていながらっていう前置きがあるのでその限りでもないが。

 

「ええ、お燐にはきつく言っておきました。こいしはどうでした?」

「特に問題を起こすこともなく生活してたぞ。妖怪の山とかにも連れて行ったがマナーは守っていた…と思う」

 

ルーミアもついていたし大丈夫だろう。少なくともこいしは今回怪我らしい怪我はしていないはずだ。弾幕ごっこで多少気絶したくらいだろうか。

 

「お茶ですよー」

 

お燐がお茶をくれた。言い方がリリーの春ですよ〜に似ていた。

オリン・ブラック…なんて、服の色の話で腹黒いとかではない。

 

「っふふ…」

「どうしましたさとり様」

「いや…定晴さんはたまに変なこと考えますよね」

 

どうもオリン・ブラックが妙なツボに入ったらしい。声を押し殺しながらも笑っているのが目でわかる。

お燐は何でさとりが笑っているのかも分からないまま疑問顔で立ち去った。仕事でもあるのだろう。

 

「ふぅ…さて、じゃあ地上での話でも聞きましょうかね」

 

そして俺とこいしの二人がかりで地上での思い出を話し始めたのだった。

 

 

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