東方十能力   作:nite

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十章 黒異編
百五十八話 流行りの病


人里で買い物をしていたら声をかけられた。

 

「定晴さん。新聞きてますけど買います?」

「ん?ああ、そうしようかな。小鈴、一部ちょうだい」

 

声をかけてきたのは本屋の看板娘の小鈴。

俺はたまにここで本を買ったり借りたりして幻想郷の知識を増やしているのだが、それを繰り返しているうちに小鈴とも仲良くなったのだ。その結果こうして声をかけてくれるまでになっている。

 

「はい、いつもの料金ね」

「ほい丁度」

「うん、丁度ね。ありがとうごさいました〜」

 

買ったのは天狗の…というか文の人里向けに書かれた新聞。誇張表現などはありはするものの幻想郷で何が起きているのかを知るには丁度いいのだ。

妖怪の山内部で流通する妖怪向け新聞とは違い人間に向けた内容が多く、能力があるとはいえ専ら人間側での活動が多いので妖怪向けよりこちらの方が色々と都合が良い。

 

「さて、一面だけでも見てみるかっと…ふむ」

 

流石に歩きながら読むのは危ないし迷惑なのでそんなことはしないが表紙となる一面だけはチラッと見ることにしている。

そこには[妖怪の山で流行?謎の病気・黒病]と書かれていた。

 


 

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 

買ってきた食材を戸棚や冷蔵庫に仕舞う。

夕飯の準備をするには早い時間なので俺はソファに座るルーミアの隣に座って新聞を手にとった。ついでにルーミアに訊いて見る。

 

「なあルーミア。黒病って知ってるか?」

「なにそれ?人里でまたなんか流行り始めたの?」

 

ルーミアは知らないようだったので軽く説明をすることにした。

 

「いや、実は流行っているのは人里ではなく妖怪の山らしい。どうやら天狗だけでなく河童やそれ以外の妖怪にも感染るらしくてな。感染すると目の下に深い隈ができるのと皮膚の一部が黒くなることが名前の由来らしい。全身疲労と妖力の乱れを発症し改善の方法は分かっていないが、合計で百数人がかかって誰も死亡していないらしい。人間にも感染るかは分からないってさ」

 

そんなことが新聞の一面に書いてあった。

感染経路、なんて言葉を天狗たちが知っているとは思わなかったが(文が書いているので文だけが知っている可能性もある)天狗たちの医療技術では原因も感染経路も不明らしい。

 

「でもそれってご主人様には関係なくない?」

 

そう、俺には浄化の能力がある。その影響でウイルス性若しくは細菌性の病気などしたことがない。

だがそれは俺だけの話であり…

 

「ルーミア、お前には関係あるだろ」

「まあ…そうだけど」

 

ルーミアは浄化の能力は持っていない。

見たところこの病気は妖力の量や強さに関係なく感染するらしいのでルーミアとて慢心することはできない相手だ。ウイルスなのかは分からないけど目に見えない敵というのはいつの時代も面倒なものだ。

 

「どうやって感染するかは分からないけどマスクはしておいた方がいいかもな」

「でも面倒なんだけど」

「この家は浄化作用が働いてるから良いが外に出たときは付けたほうがいいと思うぞ?俺の傍にいるなら浄化も効くかもしれないが…」

「じゃあ私ずっとご主人様といる」

「そういうわけにもいかないだろ」

 

どうも話が進まない。

にしても黒病か…死亡者はいないにせよ知り合いにかかると心配だな。それに病状を見るに黒病にかかった人が怪我などをするとそのまま衰弱死する可能性がある。妖怪の回復力の源は勿論妖力だ。それが乱れるのであればいつもの回復力は望めないだろう。

 

「取り敢えず注意はしておけよ。人間にかかった場合は浄化で消し飛ばせるが妖怪にかかったやつを消そうとすると妖怪ごと消し飛ばす可能性があるから」

俺の浄化能力の欠点。それは対象だけを指定するってことが出来ないことだ。

例えば俺の目の前にルーミアがいて、その直線上に敵の妖怪がいるとしよう。もし俺が浄化能力を付与した弾を撃ち出して敵に当てようとすればルーミアも巻き込まれることになる。俺の式神たとしても妖怪である以上浄化能力の的となってしまうのだ。外の世界で仕事に使う分には何も困らないだろうが、妖怪が大半である幻想郷では問題でしかない。

言うなれば敵味方関係なく吹き飛ばす爆弾のようなものだ。紫に使用を制限するように言われたのはこのあたりも原因であろう。

 

「…」

「ルーミア?」

「…なんでもない」

 

そう言うとルーミアは自分の部屋に戻っていった。

自分の部屋と言ってもルーミアはそこを寝る時くらいしか使わない。先日まではこいしと話す時に使っていたようだが、こいしが地底に帰った以上ルーミアの部屋はただの寝室に逆戻りだ。

そんな部屋に戻っていったと言うことはルーミアは何か思い悩むことでもあったのだろうか。そんなにマスクをしたくないのだろうか…

 


 

ああ、私は本当にだめそうだ。

まさか、そんな…病気にかかったらご主人様が看病してくれるかな、なんて…

不純だ。マスクをつけたくないのは面倒だから、それは嘘偽りない言葉だ。でも話しているうちにご主人様に看病されるのも良いかなって思い始めてしまった。そしてそれを想像した。

途端幸せな気持ちになってしまったのだ。

いつか消えるだろうと思っていたこの想いはかえって日々強くなっている。それこそ最近では劣情すらも抱いてしまうほどに。

 

「はぁ…」

 

彼のことを見ているだけで揺れ動くこの心は、頭は途中から話なんて聞いていなくて…

黒病のことなんてすっかり消え去っていた。

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