博麗神社から三途の川に向かおうとすると必然的に太陽の花畑を通る必要がある。折角なので幽香に顔を出してついでに情報収集をするとしよう。
この季節の太陽の花畑は空から見ると何とも味気ない。勿論この季節にしか咲かない花が咲くように植えられているのは幽香のこだわりだろうが、それでも夏の向日葵の派手さには遠く及ばないだろう。
「幽香ーいるかー?」
俺が家の前に立って幽香を呼ぶと中からドタバタ聞こえた後にドアが開いた。
「は、はーい。どうしたのかしら定晴?」
「あー…不都合だったら出直すぞ?」
「そんなわけじゃない!気にしないで」
焦った様子の幽香。明らかにさっきの音は何か作業をしていたか何かの途中で中断したような音だったが、本人が気にしないでと言っているのなら俺も気にしないことにしよう。
「誰ー?幽香ー?」
と思っていたら幽香の後ろから少女が出てきた。
黄色の髪で身長は妖精たちと同じくらいの少女だ。その傍にはアリスのように人形が浮いている。彼女も人形遣いなのだろうか。
「やっぱ誰かいるんじゃないか。邪魔したな」
「ちょ、ちょっと待って!メディスン。少し待っててちょうだい」
名前はメディスンと言うらしい。メディスン…薬だろうか。植物で薬を作ることもできるし幽香と接点があるのは不思議ではない。まあ名前がそのまま存在を表しているわけではないだろうけど。
ともかく幽香がやたらと話を聞きたがるから簡単に内容を説明する。わざわざ客人がいるのに俺のために時間を作るというのは変な話だが、幽香はあまりそういった話を聞いてくれない。
俺が説明をすると幽香は少し考えた後に顔をあげた。
「ごめんなさい。私は知らないわね。メディスン、何か知ってるかしら?」
「特に何も知らないわ。私あまり妖怪の山の方に行かないもの」
という返答があった。
その後も少し話をして彼女の名前がメディスン・メランコリーということが分かった。どうやら浮いているのはアリスとは少し違う仕組みらしい。
その後少し幽香と雑談してから三途の川へ向かった。その時幽香から
「また危険な依頼なのね…あなただって不死身ではないんだから…」
と心配された。幽香は俺が外の世界で次期博麗の巫女を探していたことを知らないので、彼女からすれば俺の一個前の依頼は対ルーミアの時となる。確かにあれも危険なものだったわけだし幽香が心配になる気持ちもわからんでもないのだ。
だがまあ…これは俺の仕事だ。外の世界でやっていたときからその在り方は変わっていない。紫や霊夢のある程度のサポートもあることを考えれば待遇はむしろ改善されていると言える。それだけ外の世界は…いや、やめておこう。俺は今は幻想郷にいる。
「さてと…三途の川では何か見つかるかな」
呟きながら三途の川に向かう。
だが正直言って期待はしていない。なんせ死神やら閻魔やらが通る場所だ。もし異変の黒幕がいても何かしらの対処がされるに違いない。それに三途の川に近寄る妖怪もいないわけで、黒病が広がるにしては不可解だ。
岸に降りて周囲を見渡す。前は小町がいたりしたわけだが、今日はきちんと仕事をしているようだ。いや、見えないところでサボっている可能性もあるのだが。
冬、特に年が変わる前のこの時期は彼岸花の開花シーズンである。やはり彼岸が近いためか彼岸花が多く咲いている。九月に咲いて翌年の五月頃に枯れるというのだから生命力は中々のものだ。
…彼岸に近いところで生命力だなんてあまり笑えない話だな。
「うーん…取り敢えず無縁塚の方にも行ってみるか。霖之助とかがいるかもしれないし」
三途の川からもそれなりに近い無縁塚へと足を向ける。
霖之助とて半人半妖だから行けるだけで普通の人間にとってはまあまあ危険な場所だ。妖怪が身を隠す場所にしては丁度いい気がするが…
無縁塚に到着し周囲を見渡すと一匹の妖怪がいた。
「ぐるるるる…」
「おっと。獣妖怪…普通の妖怪だな。関係なし」
妖力量、姿形、状態共に標準。狼のような姿をしている普通の妖怪だ。異変に関係しているとは思えない。
そいつが俺を敵と判断したのか餌と判断したのかは知らないが襲いかかってきた。人型の妖怪は全体的に対話が可能ではあるのだが、たまにこういった理性のないような獣もいる。多分だが無縁塚に流れ着く色々を食べているのだろう。
突進を輝剣で弾く。このような妖怪たちに弾幕ごっこは意味がない。だが弾幕ごっこをしなくても勝てるような相手であるというのが実情である。
二度目の突進を再度弾き輝剣を斬り返した。それだけで妖怪の顔には傷が付き怯ませることができた。普通ならここで逃げるなりする筈なのだが、怪我を顧みずにまたもや突進をしてきた。
よほど空腹だったのだろう。何か妖術を使うような素振りもないので簡単に人間にやられてしまうのだろう。そのためここで食事をしていたらしいが、俺が何も見つけることが出来なかったようにこの妖怪もまた、何も見つけることが出来なかったと見える。
だが、襲いかかってきた以上そこに慈悲はない。
「ふん!」
輝剣を握り強く振った。すると妖怪の体は二つに裂けて鳴き声をあげることなく絶命した。無為に妖怪を殺したくはないが、空腹時の妖怪はそれこそ死ぬまで追いかけてくるのでここは思いっきりやらせてもらった。無縁塚に流れ着くものと共にこいつも土に還ることだろう。
俺の輝剣は浮かせて動かすことが大概だが、それでは力に限界がある。振る速度も身体強化した時よりも遅い。浮かせるよりも握った方が丁度良いこともある。
「にしてもこちらは発見無し、か…」
別方向に霊夢、水那、ルーミアの三人が向かっている。そこで何かを見つける事が出来たら御の字なのだが、あの紫すら見つけられなかった相手だ。そう数日で見つけられるとは思っていない。
俺は探索を中断し博麗神社へ帰った。だが俺の考えとは裏腹に事態は急変するのだった。