俺達の頭上には不定形の黒い影が浮いていた。確実に太陽光を妨げているにも関わらず俺達が隠されることはない。眩しいとは感じないのに太陽に照らされているという感覚になるから不思議である。
闇といえばルーミアだ。俺の隣で影を見ているルーミアに尋ねる。
「ルーミア、あれ何か分かるか」
「…分かんない。私の能力の範疇じゃないから」
影はぐにゅぐにゅと揺らめきながら浮いている。目は無いと言うのにまるで俺たちが見られているような感覚に陥る。生物なのかもわからないのになぜここまで威圧感を覚えるのだろうか。
そも意識するまでいたことも感じなかったほどだ。いつ現れたのだろうか。
霊夢が何を感じたのか急に叫んだ。
「来る!」
その瞬間今までは揺らいだままだった影だったのに急に触手のように伸びてきて俺の足元を穿った。霊夢の声と今まで戦ってきた中で得た勘によって回避行動をしていたので俺は無傷だ。どうやらあれも俺のことを狙っているようだ。ということはあれも妖怪の一種なのだろうか。
「紫、あれなんだ」
「私に訊かないでちょうだい。知らないわ。定晴こそ外の世界で何か似たバケモノ見たとかないの?」
「あったら訊いてねえよ」
ともかく奴も敵だ。
魔理沙が先手必勝とばかりにマスタースパークを放った。だが影に効いているようには思えない。端っこで寝ていた大妖精がいつの間にやら目を覚まし魔理沙の攻撃について報告する。どうやら大妖精の位置からは影の上の空も見えているらしい。
「影が吸収しています!」
どうやら貫通、素通りというわけではなく影自体が魔理沙の攻撃を吸収してしまったようだ。魔理沙のマスタースパークは光と熱の攻撃もそうだが衝撃を伴っている。衝撃力という点で言えば今ここにいる誰よりも反作用が大きいだろう。それを全て、影を崩すことなく吸収しきってしまったのだ。ただものではない。
「大妖精!チルノたちを連れて離れてくれ!」
「えぇえ!?」
「どうもこいつは今までとは一味違うみたいだ。危ないから離れてくれ」
大妖精たちに注意喚起。妖精はもしピチュンしても自然の力とやらで復活するらしいのだが、ミスティアたちは妖精ではないし、なにより魔理沙のマスタースパークを吸収したのだ。妖精の力とやらも吸収されてしまう可能性がある。
「では子供たちは人里近くにごあんな~い」
紫がスキマを開き大妖精たちを連れて行った。
大妖精はルーミアのことを気にしている様子だったが、ルーミアは戦力として欲しい。それを言えばチルノたちもれっきとした戦力ではあるのだが、先程の戦いで気絶してしまうようならもう休んでもらった方がいいだろうという判断だ。
「さてと…紫、一応聞いてみるがあれってスキマ収納とかできないか?」
「無理ね。あれはなんだか境界があやふやなのよ。時間かければいけるかもしれないけどすぐには無理よ」
まあ紫のスキマ送りとてその問題を先延ばしにしているだけだし、退治する分はささっと退治してしまおう。
輝剣を召喚。光を吸収するのか、それとも力を吸収しているのか。まずは奴の能力を見極めなければいけない。これで触れたもの全てを吸収するなんていう能力では迂闊に動くと自分たちが丸ごと吸い込まれてしまう。
またもや影が形となって攻撃してきたのでそれを避けて一気に接近。接近する間にも触手が伸びてきたが、霊夢がお札で吹き飛ばした。どうやら影全体を攻撃用の触手に変形することができるようである。とは言え攻撃は単調。避けることも容易い。
「おら!」
輝剣で斬る。だがまるで水を切っているかのような感覚。それに攻撃を与えたという感覚もしない。輝剣は吸収されることなく形を保っているが、なんとなく輝剣が当たる瞬間に自ら裂けて攻撃に当たらないようにしたという感じがする。
一度距離を取って魔術を発動。スペルカードルールではないので宣言する必要はない。その代わりちゃんとした魔術を使うという意味で技名を言う必要はあるのだが。
「フレア!アイス!ウィンド!」
基本属性火、水、風。その基本的な魔術だ。
外の世界で魔術を使うためにちょっとだけ裏情報で学んだ魔術だ。その方法では中級魔術までしか知ることができなかったうえ、悲しいことに俺は初級魔術しか使うことができなかった。パチュリーの図書館で上級以上の魔術や禁忌なんて魔術が書いてある本を見つけたので時間があれば読んでみるだけでもしてみようと思っている次第だ。パチュリーに教われば中級くらいまでなら使えるとは思うし。パチュリーが手伝ってくれるかは分からないけども。
閑話休題
この影はどうやらこの三属性も吸収してしまったようだ。影の大きさが変わったようには見えないし、衝撃があったようにも思えない。こいつにダメージを与える方法が全く分からない。
「タイフーン!」
俺に適正のある風、その中級魔術だ。ダメージを与えられないなら影ごと吹き飛ばしてしまおうと考えたわけだが…
「効果なしか…どうすっかなこれ」
どうにもこいつは魔術にも物理にも耐性があるらしい。耐えているというか吸収しているので耐性という言い方が正しいのかは分からないけども。
「定晴さん!」
霊夢が俺の名前を呼ぶ。
俺がこうして時間を稼いでいる間に早苗と霊夢は結界を作っていたらしい。魔払いの結界のようである。
「いきます!」
早苗の声で結界が起動した。範囲は博麗神社の境内上空百メートルまでの範囲。
影の様子は変わらない。どうやら魔払いの結界が効いていないようである。
いや、どうも効いてはいないようだが形が変わってきた。不定形だった影が少しずつ恐竜のような形になっていき…
「きゃあ!」
幽香の近くに着地。幽香は急いで回避したようだ。
さきほどまでは当たり判定などないかのように見えたのに、今はティラノサウルスのような見た目で重力の影響も受けているようだ。だがそんな形をしているにも関わらず体からは触手のようなものが伸びてきて攻撃を仕掛けてきた。先ほどと違い上からではなく横からなので少しだけ避けにくい。
変形した理由が結界のせいなのかそれとも他の要因なのかは分からないけど狙いやすくはなった。
触手を躱しつつ一気に接近。今度は妖夢も一緒に接敵する。俺と妖夢は同時に敵を切り刻む。しかし先程の同じように斬った感覚はしなかった。地面に立っているので当たり判定も生まれたかと思ったが、どうやらそこらへんは自由にできるらしい。触手が横から腕を振るように飛んできて俺も妖夢も躱しきれずに直撃する。今は俺と妖夢に触れているからと輝剣で斬ってみたが、この触手にも当たり判定は存在していないようだ。
吹き飛ばされている間に体勢を立て直して妖夢を支えて地面に立つ。
「大丈夫か妖夢」
「あ、ありがとうございます」
基本的にやつの狙いは俺なので吹き飛ばされている間も攻撃される。だがこうして安全に着地できたのは他のみんなのサポートがあったからだ。結界を霊夢や早苗が張って触手を防いでくれている。
それに…
「スパーク!スパーク!スパアアアアク!」
魔理沙が伸びる触手を吹き飛ばしている。どうやら触手よりも太い魔理沙のレーザーは吸収できないようである。
ということは…
「伸びた触手を斬れ!」
「はい!」
妖夢に指示。剣の先端が反対側から出るほどの細さの触手ならば切り落とせるようである。
好調かと思われたその時、影に変化が起きた。
「きゃ!」
「ぐぅ…」
触手が伸びて霊夢と魔理沙を捕まえた。
「霊夢!魔理沙!……っ!」
途端に俺を襲う謎の力。これは…
「やあ堀内、やっとのチャンスだ。君を始末しにきたよ」