執筆後のメモ:案の定超えたしなんなら6千もある。
異変解決から一夜が明けた。一度寝るくらいでは疲れが取れないものの、幻想郷は既に平常運転らしく朝から文が俺の家に訪ねてきた。
「おはようございます定晴さん」
「おはよう。どうした?」
「伝言ですよ。今夜には宴会をするらしいです。場所は博麗神社ですよ」
博麗神社で戦闘があったにも関わらず、紫が守るように動いていたため建物は無事。宴会はいつも通りの場所で開催するらしい。
「それと…個人的に定晴さんに質問がありまして」
「なんだ?取材の時に話しただろ色々と」
確かにあの時から随分と時間が経ったので話すことがないもないというわけでもないが…と思ったらどうやらメインは俺ではないらしい。
「ええまあ、ただ…ルーミアさんってここにいません?どうも私の記憶が正しければルーミアさんが定晴さんのことをご主人様と呼んでいたような気がしましてね?それでそこらへんについて質問をしたく…」
こいつ起きていたのか。
だがまあ文を気絶させるためにルーミアは結構能力を使ったらしい、違和感を覚えるには十分だったであろう。
「宴会の時に話すよ」
「おお!これは特ダネの予感!期待していますよ」
そう言って文は飛び去って行った。
面倒なことになったものだ。さっさとルーミアとの本契約を済ませておくべきだったな。紫がこの時期はよく休眠するので藍が忙しく後回しになっていた。あとで時間がある時に頼むとしよう。紫は今回の異変のせいで起こされたらしく暫くは休眠することができないらしい。
「ん…おはよ、ご主人様」
「おう、おはよう」
ルーミアが寝ぼけ眼を擦りながら起きてきた。
「ルーミア、どうもお前の発言が文に聞かれてたらしいぞ」
「はつげん…?」
「俺を呼んだ時既に文は起きていたらしい」
「呼ぶ…?ご主人様を…?えーと…っ!?」
あ、目が覚めた。
「えっ…それどうするのよ!っていうかなんて言ったの?」
「宴会のときに話すって。どうせ異変のことについても文に聞かれるんだからそれと一緒に話しちゃおうかなって。俺もうそろそろルーミアのこと隠しておくの難しいと思うんだが」
「それは…!そう…!だけど…!」
そう言えば明確にルーミアから理由を聞いたことがなかったと思い出す。前に聞いたときも大雑把というか、理由になってるかってものだったのでもう一度聞いてみるか。
「なあ、なんでそこまでバレたくないんだ?」
「それは…だって経緯も恥ずかしいし…き、キスとか…それに…」
それに…の後は聞き取ることが出来なかったが、要はルーミア個人の気持ちの問題なのだろう。流石に不動の力の影響はもう受けていないだろうから案外式神解除をしてもいいとは思うけど、それを提案するとルーミアが万が一を押してくるのでルーミアには気持ちの整理を付けてもらうしかない。
「え…本当に言うの?」
不安そうにこちらを見てくるルーミア。ルーミアがこんな表情をするのはレアである。
「うー…うー…はぁ、私も覚悟を決めるしかないわね」
「でもルーミアが思ってるほど騒がれないと思うぞ?霊夢たちだって普通に許容してるし」
「そこじゃないのよご主人様。ご主人様は女性の感情の機微に疎いし仕方ないか…」
なんか溜息つかれた。乙女心はわけが分からん。
「それで?宴会のときに持っていく料理は?」
「藍から今回は休んでいいと言われたがそれだと申し訳ないから簡単におにぎりとか持っていくつもりだ」
「私も手伝って…あ、でもご主人様のやつと比べられるか。んー、必要があるなら呼んで。買い出しとかなら行ってくるから」
おにぎり一つで出来を比べられるなんてことはないと思うが…それに宴会料理など食べれればいいみたいな考えの奴らばかりだ。そこまで味とか見た目を意識する必要はないと思う。
とはいえ海苔が若干足りなさそう、というか足りたとして今後必要なときに使えなくなるので海苔と一部調味料を買ってくるように頼んで俺はおにぎりを作り始めた。
さて、宴会の始まりというのはいつもマチマチだ。一応一斉に騒ぎ出す前に一言乾杯の音頭などはあるのだが、それより先に萃香たちは酒を飲むし腹が減ってる奴は飯を食う。自由なのはいいことだが協調性はどうしたのか。幻想郷とは凄いバランスの上に成り立っているとつくづく実感する。
「おーい、霊夢来たぞー。おにぎりも持ってきたぞー」
「あら、今回はいいって言ったのに。まあ作ってくれたなら食べないわけにはいかないわね。あの台の上に置いておいてくれないかしら」
霊夢が指さした台の上におにぎりを置く。と同時に感じるおにぎりを狙う気配!
素早く手刀で出てきた影を叩いた。
「ひぎゃん!」
「もーチルノちゃん。だから無理だって言ったじゃん。すみませんね定晴さん、チルノちゃんがイタズラをすると聞かなくて…」
出てきたのは毎度お馴染みチルノと大妖精。二人も危険なときに駆けつけてくれたわけだし今日のところは許しておいてあげよう。つまみ食いは許さないが。
ミスティア達も含めてお礼をしたいところだがはてさて何をすれば喜んでくれるだろうか…あとで考えておこう。
ついでに好奇心まじりで大妖精に質問する。
「大妖精はイタズラとかしないのか?」
「普通にしますよ?ただチルノちゃんと違って無謀なことはしないだけです。定晴さんとか霊夢さんにイタズラ仕掛けても返り討ちにあうだけですし」
なんともまあ引きどころが分かっている妖精だ。というか猪突猛進なチルノよりも質悪くないか?要は出来ると思った相手を集中して狙うということで…大妖精が非道なイタズラをしていないことを祈ろう。というかこの性格で非道なことしてたらイメージ像が崩壊してしまいそうだ。
「あ、定晴さーん。話を聞きに来ましたよ!」
「待て、まだだ」
「いけずー!」
文は早速ネタ集め。とはいえ文々。新聞の一面は異変のことになるだろうし、今は細々したネタ集めといったところか。
結局文は催眠状態から脱した後普通に活動を再開した。どうも記憶のあやふやな部分は残っているようだが特に問題はないとは紫の弁。
不動は撃退されたあと回復するためなのかはたまた効果が切れたのか分からないが幻想郷中に掛けられていた催眠を解いたらしい。そのおかげで永琳が作っていた薬が無用の長物と化したという。とはいえ永琳が作った薬の一つに妖力の乱れの解消なんてのもあるので何の意味もなかったというわけでもなさそうだ。
「は〜い、定晴さん」
「こんばんは定晴さん」
幽々子と妖夢がやってきた。妖夢は大きな風呂敷を抱えている。どうやら色々と食材が入っているのだろう。大きいと侮ることなかれ、これ全て幽々子の腹の中に消えるのだから。
妖夢たちもまた助けてくれた人々の内の一人だ。お礼をせねばなるまい。妖夢は謙虚だから断りそうだから食材でも差し入れるか。いつもより多く。幽々子も料理を作ってあげれば喜びそうだ。とはいえ実際に何が欲しいかは分からない。ミスティアたちが来たら皆まとめて要望を訊くとしよう。
「こんにちはー、定晴さん!」
「よう早苗」
着々と人が集まってきた。早苗は元気そうだが、神奈子と諏訪子は若干気不味そうである。俺と魔理沙を攻撃したことを気にしているのだろうか。俺は全然納得しているし構わないんだが…まあ何かあれば早苗が気にかけるだろう。
「こんばんは、定晴さん」
「水那か。手伝おうか?」
「いえ、お構いなく」
水那がせっせとシートを運んでいる。
宴会は基本的に地面に座る方式なのだが、シートがよく敷かれている。土が服に付くことを嫌う人もいるわけだし、当たり前といえば当たり前だ。最終的にシートの上に料理を置くので台も仮置場みたいなものだし。
そういえば水那は宴会が初参加となる。霊夢たちは普通にお酒を飲むし水那にも勧めるだろうけど…大丈夫だろうか。霊夢たちも外の世界の法律で言えばアウトなんだが、水那は法律云々よりも健康状態への心配がある。霊夢が抑えてくれることを祈ろう。何かあれば俺が割って入るしかあるまい。
「おにーさまー!」
「ぐっ…よう、フラン」
声が聞こえた瞬間に身体強化をしてよかった。これがなければ即死だった。フランは突撃してくるときに声を出すのでマシだ。こいしはたまにサイレント突撃をしてくるので気付かなければ腹痛に苛まれることとなる。
「久し振りね定晴。咲夜は期待に沿えたかしら?」
「ん?ああ、助かったよ。感謝する」
「だったらまた何か変わり種のデザートを作ってもらえるかしら。フランが貴方の料理も食べたいってたまに言うのよ」
今回はレミリアから先にお礼として出来そうなことが提示された。料理は趣味の範疇なわけだし幻空に入れておけば家から自由に持ち出せるので楽なお願いである。
と思っていたらレミリアが近付いて耳打ちをしてきた。
「それと咲夜にも個人的なお礼をしてあげてちょうだい」
「そのつもりだが…改まってどうした?」
「いえ、それだけよ」
よく分からん。最近の身近な女子達の思考はよく分からん。いや、レミリアは五百年は生きているらしいし女子というより普通に大人か。
「やあ久し振り定晴」
「にとり?久し振りだな」
河童のにとり。にとりも妖怪の山に住んでいる妖怪なので催眠状態であっただろうけど、今回博麗神社に襲ってきた軍の中に姿が見えなかったので何をしていたか訊いてみたところ…
「確かになんか使命感?みたいなのがいつの間にかあったような気はするけど、私の発明が佳境だったからね。そっちを優先したんだ」
恐るべし開発欲求。妖力を介した催眠を、自分の発明を開発したいという気持ちで上回るなんて面白い話だ。確かに思い返してみると妖怪の中に河童の種族は少なかった。まさかにとり以外も開発欲求の方が優って研究していたのだろうか。
「同胞が迷惑かけたみたいでごめんね」
「気にするな。お前らのせいじゃないし」
妖怪の山では今朝の段階で事の顛末がある程度語られたようだ。とはいえ俺と面識のある妖怪はそう多いわけでもなく、語られた部分は体調不良の原因と解決報告。直接俺を襲った妖怪にはもう少し詳しく話をしたようである。にとりはどこかで盗み聞きでもしたのだろう。盗聴道具も簡単に作ってしまいそうだし。
「ほらほらー定晴さん。そろそろ始めるから前に立って頂戴」
「俺か?」
「貴方以外誰がいるのよ。まあ私達的には解決だけど貴方にとってはまだシコリがあるわけでしょ?複雑だとは思うけどよろしくね。それに…ルーミアのことも話すらしいじゃない?」
俺は紫と藍にルーミアのことを話すことを先に伝えておいた。多分霊夢にも話が回ったのだろう。
俺はルーミアを連れて賽銭箱に背を向けて立つ。少しだけ高くなっているここからなら境内の様子が一目で分かる。俺の後ろにいるルーミアに怪訝そうな目を向けている人もチラホラと見受けられる。宴会において壇上扱いをしばしばされているのがこの賽銭箱前である。
「えっと、乾杯の音頭をする前に軽く異変について話すのと一つ報告がある」
俺の報告という言葉で少しざわめき出した。萃香が籍でもいれたかと笑っている。籍に入れたとして宴会の場で言う事はない。
「まず異変なんだが、霊夢や魔理沙、妖夢たちのおかげで無事黒病は治った。だが犯人は逃してしまって今も逃走中なんだ。まあ警戒してくれってことだな。んでこれは異変とは関係ない報告なんだが…しばらく前にルーミアが式神になった。以上。んじゃ乾杯の音頭を…」
「「「ちょっとまてーい!」」」
軽く行こうとしたら止められた。流れるような報告作戦失敗。
だがここで長話しても面倒なので…
「詳しく聞きたい奴は俺のところに来い。だから文は身を乗り出すな」
「ここで身を乗り出さずしていつすると!?いやはや今日はちょっと気まずいので参加を控えようかなとも思いましたがやはり定晴さんは面白いネタを提供してくれますね!」
文がカメラで俺とルーミアの写真を撮りながら興奮したかのように話す。
ええい、埒が明かない。
「ほらいくぞ!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
乾杯をしたらささっと移動する。出来るだけ境内の端っこの方に。宴会が続いて盛り上がってくれば俺とルーミアのことなど忘れてしまうだろう。
「なんて思ってませんよね?しっかりと取材は受けてもらいます!」
文からは逃れられない。仕方ないので受けるとしよう。
また、文につられてやってきた奴もチラホラと。そこに…
「やっぱりお兄様とルーミアちゃんはそういう関係だったんだね!」
「ん?どういうことだ?」
「前にお兄様の家に泊まったじゃない?その時になんでルーミアちゃんは居候してたのかなって疑問に思ってて」
フランはいつもは無邪気ではあるが、実際のところ紅魔館で大量の本を読み、そもそも五百年近く生きている。ああ見えて鋭いところは鋭いのだ。
「お姉様があまり他所の事には追及はしないようにって言ってたからね」
「なんというか…フランは大人だな」
フランとこいしは仲良いと聞くが、精神年齢ではフランの方が高い気がする。言うこと聞かずに突撃してくるのは変わらないけど。
「それじゃ説明お願いしますね」
文に聞かれて仕方なく事の顛末を話す。まあキス云々はそれこそはネタにされるから言わないが。結構掻い摘んで省略しながら話したので説明は十分程度で終了した。
「なるほど…いやー特ダネをゲットしちゃいましたよ。それにしても…話を聞く限りルーミアさんが居候する理由は分からないんですけど…ルーミアさん?」
文の一言でビクッと体を揺らすルーミア。これは、俺も、よく分かってない。確か式神として…とかなんとか言っていたが。藍や橙がその主と基本的に一緒にいるのであまり不思議にも思わなかったのだ。
「それは私も不思議だったのよね。まあルーミアがしたいふうにすれば良いと思ってたし特に気にしなかったんだけど」
「ふーん、魔法では使い魔って基本的に一緒にいるから私は不思議と思わないぜ」
「そうね、パチュリーの所の小悪魔も一緒の空間で生活してるものね」
「魔理沙とアリスの言う通りよ。使い魔と式神は、召喚するか元からいるかの違いくらいだし私も式神が一緒にいることに違和感は覚えないわ」
どうも魔法陣営は思うところがない模様。紫や藍も不思議そうな顔をしてないので式神使い的にも問題ないようだ。巫女は式神も使えるときくが霊夢は特に使わないのだろうか。
「私も、まあ分かるけどね」
「フラン?」
フランは何故か納得してレミリアがフランを不思議そうに見ている。
「ちょっと待ってフランちゃん?…」
「さあなんのことー?」
ルーミアとフランの間で謎の会話が起きる。ルーミアが狼狽えているがフランはどこ吹く風である。本当に謎だ。
ルーミアの話をする時に実は強い力を持っているということは便宜上仕方なかったのだが、口調の話はしていない。ルーミアが変えるというのなら話すのだが…
「どうする?」
「別にしなくていいわ。今更普通で話すの、恥ずかしいもの」
ということでルーミアの口調はそのままだ。
「なるほど…定晴さんと同居ですか…」
「早苗あんた何する気だい」
早苗たちが何かを話し合ってる。何かはよくわからないけど。
文は満足気な顔をして酒を飲み始めた。明日には新聞となって幻想郷中に配布されるだろう。文とは秘密の会話っていうのが出きなさそうだ。すぐに知るところになってしまう。
「そういえば定晴殿。式神の本契約はしないんですか?」
「ああ、藍。毎回しようと思ったら色々面倒事が重なってしまって言えなかった。近日中に出来ないか?」
「でしたら三日後に行きますよ。明日明後日は紫様の手伝いをする必要がありますので」
ということは三日後にはもう少し強い力が俺達の間に働くということか。もうちょっと具体的に場所が分かるようになったり力の受け渡しが多くなるらしい。俺がもう少し多く妖力を持つようになるということだな。
俺と藍のやりとりを見て霊夢が藍に質問を投げかけた。
「なんであんたは定晴殿って呼び方なわけ?」
「紫様の友人だからだ。霊夢たちとは呼び方を変えているんだ」
「でももう幻想郷の仲間よ。普通に呼んであげればいいじゃない」
どうも霊夢は俺が殿付けされているのが気持ち悪いようだ。俺は特に気にしないんだが、まあ一応俺も言っておくか。
「藍がそう呼びたいなら良いが俺は別になんて呼ばれても気にしないぞ」
「まあ年上の吸血鬼にお兄様って呼ばせてるくらいだしね」
霊夢からツッコまれた。そこは俺もなんとも言えん。フランのよく分からん感性によって俺はお兄様呼びなのだ。俺が呼ばせているわけではないとだけは言っておく。
「むむむ…では定晴さん、でいいですか?」
「構わない。自由に呼んでくれ」
「呼び捨てでいいじゃないの」
「それは流石に…」
どうやら紫と前からの友人というのが藍にとって気にするところらしい。霊夢たちも紫の友人ではあるのに何が違うのだろうか。
「んじゃ聞きたいことも聞いたし後は飲むぜ!ほら定晴酒を持て!」
「はいはい。んじゃ改めて乾杯」
そして夜は更けていく。
俺を襲った妖怪も俺を守ってくれた妖怪も一堂に会してさわぎは続いた。