「な、なぜ貴方がここに!?」
依姫が声を出す。永琳を見るとまるでしてやったりという顔だ。実際に俺がここにいることを教えずに俺をこの部屋に通したのだろう。驚かれるのも当然だ。
「っていうか…ああ、薬はちゃんと効いたのですね…」
「久しぶりね、定晴さん」
永琳に事情を聞く。どうやら二人は俺が幻想郷に来る前に起きた異変で霊夢たちと争ったようである。その後は幻想郷にたまに降りてくるようになったという。前に俺が永遠亭に来た時点で度々二人は幻想郷に降りてくるような生活だったらしい。
「ん?穢れとやらはどうしたんだ?」
「月の技術だって進化するものなのよ。と言っても堂々と来ることもあまり出来ないから地上へ来るときの七割はお忍びなんだけど」
それでいいのか月の姫。
依姫を見ると何かを言いたそうにしている。しかし口をパクパクさせるだけで何も音にはなっていない。
「ほら依姫、前にまた話したいって言っていた人が目の前にいるわよ?」
「あっ…えっと…お久し振りです」
どうも依姫は緊張してるようだ。
突然昔の知人が現れたら驚きもするだろう。どうもそれだけではないようにも思えるが、今は取り敢えずいいだろう。
「貴方は知らなかったのでしょうけど、人里にも普通に月のウサギがいるわよ?団子屋をやってるわ」
永琳が補足で説明してくれた。
俺も人里全てをまわったわけではない。むしろ買い物の時以外は人里には赴かないので滞在時間は少ないと言える。未だに人里全てを把握できていないのはそれが原因だろう。そろそろ本格的に人里探索もする必要があるかもしれない。
「まあそういうわけで貴方が思っているより幻想郷は月と近いのよ。そんな気まずくそうにしなくても良いわ」
永琳にそう諭される。
確かに俺の方から距離をとっていただけなので、もっと早くここに来ていればもっと気楽になれていたかもしれない。ここに引っ張り出してくれたルーミアに感謝だ。
俺が見ていたことに気が付いたのか、ルーミアが耳打ちしてきた。
「ご主人様はあまり嫌われるようなタイプじゃないんだから、もっとどっしりしていなさい」
「あ、ああ」
嫌われるとか嫌われないとかは個人の感想なのでは?
まあいい、幻想郷の人々と仲良くなっていて損は何もない。
「んじゃまあ私は席を外すから二人は好きなように定晴と話していなさい」
「ありがとうございます」
二人ともとても綺麗な所作で礼をした。
前に月で戦ったときは依姫は武闘派の印象を受けたのだが、やはり姫としての美しい所作も身につけているようだった。
二人と話して十数分、ルーミアを式神にしたことを話していたら突如扉が開いた。永琳か鈴仙か、それともてゐか…と思ったらそのどれでもない人物だった。
「聞いたわよ!貴方ね、初対面で永琳に剣を突き立てたのは!」
身長は低め、一昔前の平均身長くらいだろうか。外の世界での一昔前というのは幻想郷での通常かもしれない。
「輝夜様、落ち着いてください」
「何よ依姫、邪魔しないでちょうだい。永琳に剣とか…幻想郷じゃありえないでしょ!」
まあ、そうだな。今の幻想郷では戦いは基本的に弾幕ごっこだ。
外の世界の水那関連で紫と殺りあった時は弾幕ごっこではなく、普通の殺し合いとなったが大体は弾幕ごっこで終わらせる。スペルカードルールのもと、負けたらちゃんと負けたことを受け入れて決闘を終わらせるのが常だ。
それを俺は無視し、永琳に斬りかかった。
…冷静でいられないとはこんなにも…
「落ち着きなさい輝夜、私は怪我してないし剣で斬られたところで死なないわ」
「でも痛いじゃない!」
「あなたが妹紅と殺りあってるときの方が痛いでしょうに」
永琳がため息をつく。
にしても輝夜…月の国の輝夜?それってもしかしてあの有名な竹取物語のかぐや姫だろうか。
俺の思考を読んだのか永琳が本人の代わりに紹介してくれた。
「彼女が蓬莱山輝夜、月の姫で貴方が思っている通り日本で有名なかぐや姫本人よ」
まじかよ。なんでもありだな幻想郷。
もしかして幻想郷には日本の伝説がいっぱいいるのか?今度捜してみようかな…いやいや、伝説ということは力もそのまま、俺では襲われても対処できない可能性がある。じゃあルーミアを連れて行くというのも…
「定晴、また考え事」
「え、ああ、すまん」
ルーミアに注意された。
だめだな。いくら意識していても考え事をしてしまう癖が抜けない。戦い中なども体は自然に動きながら考え事をしてしまうので、どうすれば癖をなくせるのかわからない。
「そこの二人は今も月に住んでるけど、輝夜は地上に住んでるの。外に出たがらないからあれだけど、出会ったら優しくしてあげてね」
「優しくなんてしてもらわなくて結構よ」
どうやら中々にわがままというか、面白い性格のようである。
「失礼なこと考えてない?」
「いや、何も?」
睨まれた。
「うーん、そろそろ帰ろうかしらね」
豊姫が時計を見てそう呟いた。今は昼が過ぎて二時くらいを短針が差していた。
豊姫たちも長居するわけにはいかないのだろう。今日がお忍びの日なのか、公務の日なのかは知らないがずっと地上にいるというのも難しいのだろう。
「じゃあ豊姫、依姫、またな」
「ええ、またね」
「また話しましょう。私はもっとあなたと話したい事があるんです」
そう言うと二人は永遠亭の奥へと歩いていった。
この建物も紅魔館のように時空が歪んでいるような感覚がする。ミキが来たらどう思うのだろうか。
もう既にいない二人のあとをルーミアが睨んでいる。
「どうした?」
「…なんでもないわ」
二人に対して何か思うことがあるのだろうか。
「定晴たちは鈴仙に付いて行って竹林を出なさい。今から薬を人里に売りに行かせるから」
そう言えば人里でよく効く薬を売ってる人がいると噂を聞いたことがある。
…人?
「何か?」
「なんでもない」