正月が過ぎて一月も中旬。まだまだ寒い日は続くが、なんとなーく春の気配も感じるような…いやまだあまり感じない、そんな季節。
俺の部屋には一匹の妖精が来ていた。
「春……」
「流石に気が早いだろ」
春の妖精、春告精であるリリー・ホワイトである。
春告精という種族だからか彼女はとても春が好きらしい。それこそ春の季節には興奮しすぎて弾幕をばら撒くくらいには。
そんな彼女がなぜこの家に来ているのかと言うと…
「なんとかできませんか…?」
「何でもとは言え自然の摂理を動かすという依頼は出来ないなぁ…」
どうやら俺のなんでも屋の話をどこからか聞いたらしく、春をなんとか出来ないかと言い出した。
今までも色んな仕事をしてきたが、春を来るようにしてなんて言われたのは初めてである。なんというか…世の中にはまだまだ知らない仕事があるなと思った。これを仕事の一つにカウントしてもいいのかという疑問にはノーと答えざるを得ないが。
「せめて春らしい何かとか出来ないんですか〜」
「春らしいことなんて春が来たらするだろ。そりゃ五月とか六月になっても春が来てないと言われたら調査するが、まだ一月だぞ?ずっと一年待ってたんだからもう少し待てないのか?」
そういえば過去に起こった春雪異変は確か春が来ないとかで霊夢たちが幽々子を倒しに行ったんだよな…でもまあ今年は始まったばかりで、まだまだ雪も降る季節。さしもの幻想郷も旧暦で読んではいないだろうから皆も冬の気分だろう。
「うぅ〜」
「こればかりは流石に無理だ。ミキにでも頼めばいいかもな」
とは言え奴を捕まえるのは難しい。紫のスキマを使ってもコンタクトをスムーズに行うことは不可能なのだ。妖精が頑張ってできる話ではないだろう。
「分かりました…」
しょんぼりしながら飛んでいくリリー。
出来ないことは出来ないと言うようにしているのでこればかりは仕方の無いことである。
「んじゃルーミア、ご飯にしようか」
「分かったわ」
…
…
「面白い話を聞いたぞ」
次の日…
「なっ…桜!?」
博麗神社の周囲及びその参道に桜が咲いていた。俺の家も参道の途中にあるので俺の家は現在桜に囲まれている。
冬の早咲きとかそういうレベルではなく満開である。それになんとなく気温も高くて…
『幻想郷ラジオのお時間です。本日は異常気象が発生しており、幻想郷全体が春の陽気に包まれ…』
香霖堂で買ったラジオからは知らない妖怪がニュースを伝えている。
すると俺の家の外から声が聞こえた。
「定晴さーん!春ですよー!」
「リリー!」
俺は扉を開けた。
そこにはとても嬉しそうなリリー・ホワイトと、明らかな今回の犯人である男の姿が…
「またお前かミキ!」
「またってなんだよ。まだ幻想郷じゃ騒ぎ起こして無いだろ」
ミキにとっては季節をまるまる変えることなど造作もないことだ。紫も季節の境界を弄れば季節を変えることができるだろう。
紫は最近になって落ち着いてきたが、こいつはいつまで経っても問題を起こす癖がある。本人曰く神は暇だからというが、神奈子や諏訪子とて暇だからとポンポン問題を起こすことは無いだろう。ただこいつがうざいだけなのである。
「まあまあ落ち着けや。リリーには言ったがこの春の陽気は一日限りで、紫には既に話を通してる」
「…この季節の紫に?」
「寝てたから枕元にメッセージを残してきた」
それは絶対に話を通したとは言わない。
完全に事後承諾を取ろうというか、そもそも許可を取るつもりもなかっただろう。こいつに迷惑をかけないという言葉は通じないのだろうか。
「リリーがこんなふうに喜んでんだから今更戻せと言うなよ?」
「はぁ…本当に一日だけなんだな?」
「そそ、じゃ、あとよろしくぅ!」
そう言うとミキはどこかへ転移した。きっとどっかで花見でもするつもりなのだろう。
リリーは博麗神社の方へと飛んでいった。そっちへ行くと問題起こしたとかで霊夢にボコボコにされないか心配である。
「私、あのミキってやつが話してるの見るの初めて見たけど、ウザいわね。なんであんなのと友人やってるのご主人様?」
「あれでも頼れる時は本当に頼れるやつなんだよ…」
それに度が過ぎたことをすればあいつの妻が止めに来るはずなので、今回のはセーフなのだろう。あいつの中では。
「仕方ない…今日は特別な春の日ってことで桜餅でも作ろうか…」
「あらそう?じゃあ私は餅でも買ってくるわね」
季節が飛ぶとかは幻想郷ではたまにあることらしい。
…俺は少し幻想郷が怖くなった。
ミキ「いやー、春は良いねぇ」
定晴「お前勝手に来て勝手に餅食うなよ。自由過ぎるだろ」