「噂になってるじゃないか定晴。いや、事実と言ったほうが正しいか…あのフラワーマスターが告白したとね」
香霖堂に入って最初に言われたのがそれだった。今年になって初めて会うのだから相応の挨拶もあるとは思うのだが、一番先に出たのが俺と幽香のこととは…
あの宴会以来幽香とは会えていない。なんだか気まずくて自分から花畑の方へ行く勇気がないのだ。これは…ヘタレだな。
「そうそう定晴。面白いものを入荷したんだ」
「面白いもの?」
「君にぴったり…かもしれない一品さ」
そう言って霖之助は棚に並んでいたものを取ってこちらに見せてきた。
それは一つの石のようなもので大きさは手の平に乗る程度、形は歪だが緑色の光沢を放っている。何かの鉱石なのだろうか。
「名前は魂封石。用途は魂を納める…魂なんて僕には分からないし、魔法使い達の研究に使われるのがオチかとも思ったけど君が魂に関する力を持っているのを思い出してね。一応とっておいたのさ」
なるほど。魂のことを知らなくても名前と用途が分かる能力があれば何に関するものなのかが分かるのは便利なのかもしれない。
さてさて、それにしてもこの石…なんとなく気配が…
『おい、これ既に何か入ってるぞ』
狂気がそう忠告してきた。
果たして何の魂が封印されているのか。だがまあ封印されたということはそれ相応の脅威があったのだろう。危険なものだと言って処分した方がいいかもしれない。
と思いきや狂気が更に助言をしてきた。
『どうやらそういう危ないやつじゃないみたいだぞ』
『どういうことだ?』
『封印されているのは確かだが、狂気的な感情は何も感じねえ。むしろ優しさとかそういう類のもんだ。俺とは正反対で気持ちがわりい』
どうやら危ないものではないらしい。
ふむ…霖之助からすれば価値のないものなのか値段は全然高くない。ミスティアの屋台で何本か串物を食べた方が高くつく値段である。痛い出費というわけではないし、知的好奇心という面では惹かれるので…
「よしそれ買い」
「分かったよ」
香霖堂から真っ直ぐ帰ってきた。俺が持っても何も反応を示さない魂封石は幻空の中である。
一応俺が持っている本でこの石に関する文献がないかだけ調べてみることにする。とはいえ俺は大体の本を読破しているため石の名前を聞いてもピンとこなかったので書いてある可能性は限りなく低いだろう。
『どうするつもりだお前』
『さあね』
どうするかは未定だ。狂気曰く危険ではないらしいし解放してみるのも面白いかと思うんだが…
『異変を起こすつもりか?』
『異変が起きるような代物なのか?』
『危険ではないことと異変レベルの何かが起こらないことはイコールじゃないんだぞ』
まあ最悪俺の魂の中に取り込んでしまえばいい。危険ではないなら魂の中に入れてしまうことは問題ないだろう。
俺の魂は狂気という部分と俺自身という部分がある。元を辿ればどちらも同じ堀内定晴という人間なのだが、魂の力のおかげである程度他者の魂も取り込めるのだ。一度だけ外の世界にいた魂を俺の中に取り込んで対話することで依頼を解決したこともある。なので必ずとは言えなくとも成功する確率は高いと言える。
「ただいまー。ご主人様、それなに?」
するとそこで買い出しに行っていたルーミアが帰ってきた。俺が頼んだもの以外も袋に入っているため私物も色々と買ってきたのだろう。
「おかえり。これは魂封石って言うらしい。取り敢えずその荷物置いてきたらどうだ」
「ええ、そうするわ」
ルーミアがキッチンに食材を置き、残りをルーミアの部屋に持っていった。
俺はササッと食材を戸棚や冷蔵庫など所定の場所に収納し、ついでに本も本棚に戻した。やはり魂封石という石はどこにも書かれていなかった。
魂を封じる、と簡単に言うが実行するのは困難を極める。相当手練の術者が特殊な媒介を用いなければ完全に封印などできない。それにわざわざ封印するということはそれ相応の理由があったはずなので、大体は文献として残ってることが多いのだが…
「パチュリーのとこ探せばあるのかねぇ…」
「戻ったわよ」
ルーミアが戻ってきた。
何かあったらルーミアにも助けてもらうとして、封印を解除してみるとしよう。
魂の力と結界の力を併用して魂の在り方を定義…まあ難しいことは俺自身もよく分からん。狂気の補助があってのこれだからな。
「せいっ!」
封印が解けた。魂封石から魂が出てきて、一時フワフワと浮いている。ルーミアには見えていないだろうから、俺が処理しなければならない。
魂を誘導して俺の中に取り込んで見る。中から暴れられたらまずいが、狂気の言うことを信じて進める。魂が俺の中に入った。
と同時に俺は気を失った。