東方十能力   作:nite

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遅くなりました


百九十二話 魔女の魂

「っ…」

 

頭がぼんやりする。

未だに思考も定まらないまま周囲を見渡した。そこは何もない白い空間。

 

「起きたか」

「うわっ!」

 

そして俺に瓜二つの男が立っていた。唯一違うのは髪の色だけだ。いや、よく聞くと声も俺の方が若干高く、部分的に違うところもあるということなのだろう。

 

「狂気か…?」

「ああ。まさかお前がこっちに来るとは思わなかったがな」

 

俺の鏡写しみたいな姿をした狂気がそう言う。狂気がいるということは、ここは魂の中…ということなのだろうか。俺の意識がここにあって現実ではどうなっているか心配だが、ルーミアもいるしきっと大丈夫だろう。

 

「んで、お前が呼び覚ましたのが奴だ」

「…」

 

大きな石。しかしそこから漏れ出す魔力量は通常のものを遙かに凌駕し、もしかしたらパチュリーまでとは行かずとも魔理沙くらいの魔力を有している。

 

「どうせあの石によって引きずり込まれたんだ。さっさと封印を解きやがれ。俺は最初止めたからな」

「分かってるよ」

 

俺は少し不機嫌な狂気に苦笑しつつ石に近付く。どうやら魂の中にいても俺の力は扱えるらしい。結界、そして無効化の力を使い石に掛かっている最後の封印を解いた。

 

「っ…!」

 

閃光。

目も眩むほどの光が去ったあとには石があった場所には一人の女性が立っていた。白い服に白い髪、身長は女性の平均ほどだろうか。俺や狂気よりも随分と低い。

 

「…」

「えーと…」

「…ふふ、大丈夫です。魂の中に取り込まれた時にある程度状況は把握しました。あなたが定晴様ですね」

 

どうやら俺の中に入ったためか知識などが俺と同程度まで同期したらしい。そのため俺が説明せずともこの場所のことや俺のことは理解できるらしい。しかし俺はこの女性と同期していないので説明を求めた。

 

「私は魂の端くれ。元の体では自分で言うのもなんですが凄い魔法使いでした。私は人助けのみをしてきましたが、この魔力量を恐れた者たちによって封印されました。私もいつかはこうなると分かっていたので抵抗しませんでした」

 

その後何度か封印を解く者はいたものの、その体や魂の器が足りずに崩壊していたという。パチュリーほどの魔法使いでもなければ封印を解くこともできないだろうし中々壮絶な経験であろう。

 

「封印が解かれた以上私はここにいるので魔力もどんどん使っちゃってください」

 

そして俺はその魂を受け入れることに成功したため俺の魔力量が増えたらしい。どれくらいかと言えば、普通の魔法使い(魔理沙を指すのではない)程度には。

 

「…定晴。魂に変化があってお前でも結構楽にここに来れるようになったから。寝る時にでも試してみろ」

 

狂気からの一言。

どうやら俺は更に人間らしさから離れてしまったようである。元より普通の人間を名乗るわけにもいかないような感じではあったが。

 

「んじゃ意識しろ。現実を。そうすりゃ戻れる」

 

狂気がぶっきら棒ながら説明してくれた。

俺は現実へ、魂の外側へと向かうように意識を強める。段々と頭の中がすっきりとしていき…

 


 

「っ…」

「ご主人様!」

 

目が覚めるとルーミアが俺の顔を覗き込んできた。なぜか大人状態だが、とても心配そうにしているのが分かる。俺は大丈夫であることと魂で起きたことをルーミアへと説明した。

 

「…なるほどね。ご主人様、また力を抑える練習をした方がいいわよ。魔力が凄いことになってるから」

 

今までの魔力であれば問題なかったが、魔法使いレベルにまで昇華された魔力は抑えきれていないのだろう。早めに対策しなければ幻想郷に来たばかりの時と同じ経験をするハメになるであろう。

 

「はぁ…急に倒れるから驚いたじゃない。子供の状態だったら支えにくいから大人状態になって…」

 

ああ、だから大人の姿になっているのか。まあ大人と言うよりもお姉さんと呼ばれるくらいの見た目だが。

 

『…ん…繋がりました』

「うおっ」

「どうしたの?」

 

急に声をかけられて口に出してしまった。

ルーミアになんともないと伝えて魂に意識を切り替える。

 

『これで私も狂気さんと同じようにここから情報を伝えられます』

『そんなこともできるのか。それで…お前のことはなんと呼べばいいんだ?』

 

確か生前の名前もあるはずである。話を聞いた限りではヨーロッパ方面の出身のようであるので、フランたちのような名前だろうか。

 

『…いえ、私の事は魔女とでもお呼びください』

 

どうやら生前の名前は嫌いらしい。

というよりも今はもう生前の名前を使えないと思っているらしい。そして結局人に封じられたから自嘲気味な魔女という言葉。幻想郷では魔女も普通の存在なので特に軽蔑的な意味を為さないが。

 

「ご主人様、料理できる?」

「あー…」

「よし、私が作るからご主人様は座ってて」

 

俺がどうしようかと悩んでいたら俺が答えるよりも先にルーミアが決断してしまった。そしてルーミアは備え付けのエプロンを着けて楽しそうに料理を始めた。最近はルーミアも料理を楽しいと思えるようになってきたようで嬉しいばかりである。

 

『それじゃあこれからよろしくおねがいしますね、定晴様』

 

従者…とは違うだろうけど、俺は密接な仲間をまた手に入れたようである。

 

 

…魂封石は粉々になっていた。パチュリーの知的好奇心を揺さぶれるかとも思ったけどうまくいかないものだな。

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