東方十能力   作:nite

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百九十四話 追跡者

なんとか紅魔館から脱出。狂気と魔女の助言によりフランを日陰に置いてきてしまった。

 

「お待ち下さい定晴様、どこへ行くつもりですか?」

「っ!」

 

霧の湖の畔を走っていたら呼び止められた。

完全瀟洒メイドの咲夜だ。しかしその目はどこか虚ろで声にも抑揚がなく気持ちが悪い。そして彼女の両手にはナイフが。言うまでもなく臨戦態勢である。

 

「いいのか?フランを木陰に置いてきたぞ?」

「……」

 

どうやら都合の悪いことに関しては無視するつもりのようだ。まるで子供の駄々である。

黒病異変の時は一緒に戦ってくれた咲夜も敵か…こりゃどうやら相当によろしくない展開であると言わざるを得ないな。

咲夜がナイフを投げた。召喚した輝剣で弾き、身体強化を用いて距離を…っ!目の前を全力で切り裂く。

キンッ、という甲高い音を立ててナイフが弾け飛んだ。時間停止を用いて目の前に投げ置いたのだろう。殺気と、俺の経験則から来る勘でぎりぎりの反応となった。

それでも咲夜のナイフは止まらない。さながら雨だ。そして勿論ナイフの雨を完全に防ぐ傘なんてものは存在しないのである。

とはいえ投擲されたナイフ自体はなんてものはなく、咲夜の投擲術は一流であるものの鬼が石を投げたときのような速度は出ていない。

俺は一瞬の隙を逃さずに結界を展開、囲うのは俺だけではなく俺と咲夜の二人。咲夜の力では俺の結界を壊すことはできないので、俺と咲夜の二人を囲ってしまえば行動範囲を狭めることができるという算段だ。不意打ちもされにくいし…

 

「はあああ!」

 

身体強化マックス、輝剣と家宝の剣を装備し全力で斬り結ぶ。時を止めることが出来ようとも、当たってしまえばこちらのものだ。咲夜には申し訳ないが、容赦はしない。

 

剣術【五月雨斬り】!」

 

咲夜を倒して、身体強化を保持したまま森を走り抜ける。紅魔館の移動速度最速は咲夜だが、それは能力のおかげであって身体能力という面だけを見れば美鈴の方に軍配があがる。先程の戦闘はさっさと終わらせたが霊力消費も激しいし連戦は避けなければいけない。

ふと、思い出したので先に…

 

「…ルーミア」

 

御札を取り出して式神を呼ぶ。藍は日頃からしているみたいだが、俺は初めてである。元よりルーミアを束縛するつもりもなかったわけだしな。

御札から霊力と妖力が漏れ出し、気が付けばルーミアがそこに立っていた。しかしその姿は封印を解いた本気モードで、それでも服の一部などが破れている。

 

「ご…主人様…」

「ルーミア、どうしたんだ。まさか藍に?」

「ええ、なんだか最初から変な感じはしてたんだけど…急に襲われて…」

 

どうやら藍もいつの間にか咲夜たちと同じ状態になっていたようである。紫は…寝てるのだろうか。起きていたら大変なことになっていた。

ルーミアが随分と落ち込んでいる。俺とて無傷というわけではないわけだしそこまで落ち込むこともなかろうに。とはいえ…どうするか。

雰囲気が違うのであの堕ちている状態なのかはすぐに分かるが…味方はいるのだろうか。ルーミアは多分あの状態にはならない(俺と霊力と妖力が繋がっているからルーミアを堕とすためには俺もあの状態にする必要がある)ので問題ないが、それ以外は分からない。

そしてこれ、確実に犯人は不動である。黒病異変では一部の妖怪のみだったが、今回は人間ですら操れるようになったということなのだろうか。

 

「となると安全な場所は…くっ!」

 

攻撃を視認して回避。

森の奥から出てきたのは野良の妖精たち、そして大妖精である。やはり彼女も虚ろな様子で、俺たちを攻撃してくる。

 

「息づく暇もねえ!」

 

輝剣で弾を弾きつつルーミアを連れて森を駆ける。俺とルーミアの力であれば妖精の追跡は振り切ることが出来るのが救いだったな。

 

「はぁ…はぁ…」

 

なんとか森を抜けて俺達は家の近くまで来た、のだが…

 

「俺の家包囲されてんな…」

 

よく俺の家の周りで走り回ってる獣型の妖怪が数匹。特に強いわけではないので蹴散らすことは容易だが、きっとあれは俺が家の中にいるもしくは家の周囲にいることを確認するためだろう。

不動は一度俺の家を壊している。俺が家に入れば生き埋めにでもする気なのだろう。それで死ぬつもりはないが、面倒なので家から少し離れるとしよう。

 

「さて…どうするか…」

 

拠点なし、味方不明、敵は多数…現在信頼できるのはルーミアだけときた。先に言っておくと、ミキはこういうことに不干渉…というか楽しんでいるので助けてはくれない。紫は寝ている、と思う。

取り敢えずどこか身を隠せそうな場所を探さなければいけない。さしもの俺でも休憩なしで戦い続けられるほどの能力はない。なにも不可能、というわけでもないけど。

 

「お困りのようね」

「誰だ!」

 

いつの間にか背後にいた人物に剣を突き付ける。

 

「…貴方に剣を向けられたのはこれで二度目ね」

「永琳?」

 

そこにはなぜか永遠亭に住む月の叡智、八意永琳が立っていた。その目はしっかりとしていて、敵意を持っている様子はない。

 

「なぜ永琳がここに?」

「そうねぇ…貴方を保護、というとあれだけど捜しに来たのよ。薬売りから帰ってきたうどんげの様子がおかしかったから調べてみて、なにやら貴方に関係することだったから…先日の黒病だって最終的には貴方関連だったわけだし話を聞くついでに永遠亭に連れて行ってしまおうと思って」

 

俺と接触しなかった人物はいつもと特に変わりないようにしか見えないのだが、永琳はどうやって鈴仙の状態の判断をしたのだろうか。依姫曰く、永琳は大体の薬を作ることができるというので検査薬でも作ったのかもしれない。だとしたら薬学って凄い。

今ここで話に乗るのは良い判断だ、と思う。俺とルーミアは頷き合い、永琳に付いていくことにしたのだった。

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