「ふー、意外にあの中は気持ち悪いな」
周囲よりも少しだけ丘だった地面の上に降り立った彼は、空間の中の情景について文句を呟く。
「あれは他の奴らに力を示すためなのよ」
その横には
そんな彼らの眼前には、現代日本じゃ考えられないような大自然が広がっていた。木々が生い茂る山々や、霧がかっている大きな湖。そしてなにより、まったく人の手が入っていない森。
「にしても凄い眺めだなこりゃ。まず家の場所でも探すのか?」
「いいえ、まず神社に向かうわ」
青年の質問に、否定で返す少女。
男は眉をあげつつ、その意図を問う。
「何で神社なんだ?家の方がいい気がするんだが」
「ここに来たら最初に行くべき場所なのよ」
「ふーむ…まあ、俺はここについて分からんしお前が言うなら行くか」
女性はただこの場所を見せたかっただけとばかりに、すぐに空間の裂け目を開く。
そうして二人はもう一度スキマに入っていく。
二人は大きな山の麓に来た。青年は降り立った目の前にとても長く、若干木々がはみ出してきているような階段があることに気付く。その上には神社の象徴とも言える鳥居が立っている。
「あれが神社なのか?」
「ええそうよ」
「なら何であそこに開かないんだ?」
当然のごとき質問をする青年。鳥居に向かうまでの参道も大切だとは思うけれど、ただ神社に行くだけなら階段の上に繋げた方が楽だ。そして、それは目の前の少女には簡単なことのはずだった。
少女は若干困った顔をしつつも弁明を行う。
「巫女と少し話をしないといけないの。だから先に行ってるわね」
「時間稼ぎのための階段かよ…じゃあ早めに終わらせてくれよ、紫」
ええ、と返事して紫と呼ばれた少女はスキマの中に戻っていく。今度は階段のうえに繋がっているスキマだろう。
さて、じゃあ歩いて登ろうかと青年が階段の方を向き、そして軽い絶望をした。
歩いて登ると何分もかかりそうな階段がそこにはある。登れば筋肉痛も視野に入ってしまう階段からは圧すらも感じる。
「…登らずに紫が戻ってくるのを待ってもいいかもなぁ…」
そして彼は疲れた顔をしながらもこの長い階段を登り出した。
見た目よりも何倍も長く感じた階段を登り切ったところでは、二つの声が聞こえてきていた。
どうやらまだ話は終わっていないらしいと結論づけて、青年は賽銭箱のほうへと歩く。
「ここ参拝客来るのかよ…一応神社だし参拝しとくか」
青年は文句を言いながら、ポケットの中の財布を取り出した。
「紫に両替して貰ったけど何がどんくらいの価値なのか分らんな。教科書とかに書いてある昔の日本と同じなのか?」
本来そこに入っているはずのお札やカードの類は一切なく、代わりに古めかしい銭が入っていた。現代的な財布とのミスマッチ感は否めないが、この場所ではこれが共通貨幣なのである。
青年は頭の中から頑張ってレートを引っ張り出して、銭を何枚か取り出した。
「確か一文二十円だっけか…まあいいや、あまり考える必要もないだろう」
そして賽銭箱に
「やっと参拝客が来たのね!」
「うわっ吃驚した」
「ちょっと霊夢待ちなさい!」
赤い巫女服に、頭の大きさと同じくらい大きな赤いリボンが特徴的な少女だ。霊夢と呼ばれた彼女は、境内にいるのが青年だけであることを確認すると、彼の手を掴んだ。
「貴方ね!」
「え?まあお金入れたのは俺だけど」
「やっぱり参拝するならお金を入れるべきよね!あなたわかってるわねー」
鬼気迫る様子の霊夢が青年のことを褒めたたえるが、神社なら当然のことをしただけに、青年は困惑の表情だ。
困り顔をしつつ、青年は霊夢を声で宥めた。
「全然状況が分からないんだが」
「あら、定晴早かったわね」
神社の奥から姿を現した紫。彼女に定晴と呼ばれた青年は、引っ張るかのように手を掴んでいる霊夢を必死に止める。
「とりあえず説明してくれ!」
「ちょっと待ってて…霊夢、彼がさっき言った人よ」
紫が声をかけると、霊夢は今までのハイテンションを抑えて、定晴のことを眺める。
「ふーん貴方がねぇ」
胡乱な目で見てくる霊夢に若干の気まずさを覚える定晴だったが、そこに紫が声をかける。
「定晴、奥まで来てちょうだい」
霊夢に連れられ、神社の裏手まで回る。そこには、いかにも居住スペースといえる空間があった。どうやら、霊夢はここで寝泊まりしているらしい。
三人は畳の上に座ると、紫が定晴に声をかけた。
「ひとまず自己紹介ね」
「俺は堀内定晴だ」
いかにも日本人といった風貌だが、しかし、霊夢はその目線を緩めることはしない。
「まあ賽銭を入れてくれたからいい人だと思うんだけど、それにしたって感じる力が…「霊夢ー!遊びに来たぞー!」…はぁ」
霊夢がため息をついた原因は、空の向こうから飛んできた少女にある。跳んだのではなく、飛んでいるのだ。
いかにも魔女らしい服装に、帽子。トレードマークのごとく箒にまたがった少女は、霊夢に大声で声をかけている。その後ろには、箒に横座りしているこれまた洋風な服装を着た少女。
「本当に魔理沙はタイミング悪いわねー」
霊夢が不機嫌そうに呟く。
魔女の女の子…魔理沙が降りて霊夢に弄るような口調で問いかける。
「お?誰だぜそいつは、恋人か?」
「何でそうなるのよ!外来人に決まってるでしょ!」
魔理沙がシシシと笑うと、箒に乗ってきたもう一人の少女が霊夢のことを宥める。
「まあまあ霊夢、魔理沙だって冗談で言ったんだしそんな怒らなくても…」
「まったく、いっつも魔理沙は間が悪いわ」
魔理沙は定晴のほうを向きなおすと、どこからか取り出した小さい道具…八卦炉を向ける。
「外来人ならあれも知らないってことだな!」
「あれとは?」
「それはもちろん…」
知らないことについて「もちろん」と言われても定晴にはなんのことだかまったくわからないが、魔理沙は小さくためを作ってから宣言した。
「弾幕ごっこだぜ!」