ここで戦闘をしたところで案の定死ぬことは確定しているらしい。となれば俺たちが取るべき選択は逃げることだ。ではどちらに逃げるべきか。それをひたすら探したのだが…どうやら東に行くことが良いらしい。ただしそれで必ず生き残ることができるかは分からない…
「いいわ。さっさと逃げちゃいましょ」
霊夢が先陣を切って東へ向かう。それに釣られるように天子やルーミアがついていく。俺もそれに追従するかの如く飛んでいく。後ろからは不動の…既に軍と言っても過言ではなかろうが…集団がおいかけてきている。俺たちを狙うように弾幕を展開しているようで近づくとそれだけで殺されかねない。どうやらここまで来たら俺たちを逃がすつもりはないらしい。厄介なことだ。ずっと俺たちは探していたというのにその時は出てこず、むこうの準備が終わるまで待たされたという事実が若干俺を苛立たせる。今回の事件、俺たちはずっと後手後手に回っている。
「それで?こっちには何があるの?」
正面から飛んでくる妖怪もいるのでそいつらは都度迎撃しつつ天子が尋ねる。実は言うとこの先には何かあるというわけではない。むしろ何もない。今の俺たちにとっては何もない空間の方が戦いやすいし、ありがたいのだ。ついでに言えば能力で感じた結果この方角以外に逃げても普通に死ぬのだ。
「どこかであいつらまとめて迎撃しないときりがないわよ」
「分かっている。一応考えてはいるんだが…」
案の一つとしてルーミアに全力を出してもらって巨大な闇の空間を形成するというもの。俺たちも手出しはできないがその中にいるやつらはルーミアの闇の餌食となるはずだ。だが不動の謎の力は未だに不明だし水那も向こうにいる。この作戦がきちんと機能する可能性は五分五分といったところだ。
「方角は違うけど迷いの竹林に戻るのはどうなのよ。あそこはだめなの?」
天子がそう言うが、少なくとも今はだめだ。まず不動にあそこの迷いの効果が効かない。どういうわけか知らないがあいつは迷いの竹林の迷いの要素を消せるらしい。あそこは竹がずっと続くという環境と常に出ている霧、そして永琳が仕掛けた少しの術式によって構成されているわけだが、どうも不動はそのすべてを無視できるみたいだ。
迷いの竹林には永琳達がいるから逃げ込む分にはいいだろうが、先にあの数をどうにかしなければ物量で押し負ける。俺たちの未来がほとんどにおいて死ぬ結果となっているのはあの物量のせいだ。逆言えばあれさえどうにかなれば逆転の一手となるかもしれない。
「でもあれをまとめてやるなんてどうすれば…」
霊夢がそう呟いた瞬間正面から高速で何かが近付いてきた。敵かと思えばそのまま俺たちの後ろに行って…
「どでかいのをプレゼントしてやるぜええ!スパアアアアアアク!」
敵の軍に対して言葉通りどでかいレーザーをお見舞いした。こんなことをする人物は一人しかいない。
「魔理沙!?」
「ちょっと魔理沙どこにいたのよ!」
霧雨魔理沙、普通の魔法使い。しかしその火力は軍に少なからず損害を与えたようである。軍の侵攻が止まり様子を窺っている。こちらに来れば魔理沙が来ることを予想していたわけではないが…死なない運命を掴みそうな気がしているのは俺だけか?
「どこって、私は普通に家にいたぜ。こんな面白いことになっているなら呼べよな!」
「だって洗脳されているか分からないし…」
「魔法使いならこれくらいの洗脳は反魔法でどうにでもなるぜ」
あの、紅魔館の魔法使いとか人形遣いとか洗脳されてるっぽいんですが。
「なに?あいつら平和ボケしてんじゃないか?またこの魔理沙さんの方が強いってことが証明されちまったな」
同じ魔法使いとして洗脳されたことに若干呆れているようである。というか洗脳に対する反魔法なんてのもあるんだな。反魔法とは対抗用の魔法のことで、例えば炎の攻撃に対して水の障壁を張るなどが当てはまる。結界は魔法ではないが、分類でいえば反魔法と同じものに含まれるだろう。
「むむ?結構でかいのぶつけたんだがあまり効いてないな」
魔理沙がもう一発を撃ってこないと分かると軍はまたもや動き始めた。
「堀内、いい加減諦めたらどうだい?」
妙に広がって聞こえる不動の声。拡声器を使っている様子もないしそういった魔術を使っているのだろうか。それとも陰陽道に同じことができる術が存在しているのだろうか。どちらにせよ不快になる声だ。
「取り敢えず距離をとるわよ」
霊夢が動き出す。
俺たちに並走するように飛ぶ魔理沙に事情を説明する。ついでに打開策がないかを訊ねてみた。
「打開策ぅ?そんなもん紫でも起こせば解決するんじゃねえか?」
そういえばあいつ今寝ているんだったな。だがルーミアの話を聞く限りその式神である藍は洗脳されているようである。藍も強大な大妖怪であるわけだが紫はそれとは比べ物にならないくらいの化け物級大妖怪であるわけで、はてさて彼女は洗脳されているか否か分からない。自由意志をまるっきり奪われるわけじゃないようだからなんとか能力を使って自分自身を検査してもらえば洗脳されていてもなんとかなるような気もするが…この状況で紫が敵側に回るとそれこそ死ぬ未来は確定することになる。
「うーん、じゃあ定晴の友達っていうミキはどうだ?」
「あいつは別の時空が干渉してくるみたいな事件でもない限り物事には関わらないようにしているからな…」
まあそれはあいつ自身が言っていたことだけど。幻想郷でも先日リリーの願いを聞いて春日にしていたしあいつの中でどこまでが「関わらない」なのかいまいち分からない。俺が死ぬようなことになっても傍観するとは言っていたけど…まあいいや。あいつのこと考えても無駄になるし。
「んじゃ打つ手なしだな☆」
「ちょっと!」
魔理沙がウィンクしながらそう言う。霊夢がそれに怒っているが…俺たちも打開策が思いつかないので魔理沙を怒る権利などない。
「こう言ってはあれだが私たちもあいつに加担してやれば終わるんじゃないか?」
「それは論外よ。そもそも今定晴さんが死んだところであいつが幻想郷に関わらなくなる保証は一切ないんだから。あんな風に人間も妖怪も関係なく洗脳して操れるとか心配事の種にしかならないわ。そもそもスペルカードルールを無視してくる時点で面倒なんだから!」
不動は普通に殺し合いを挑んでくる。今の幻想郷では霊夢が考案し広めたスペルカードルールで決闘をすることを決まりにしているため殺し合いをしようとする不動は本来の幻想郷の在り方からしても面倒なようである。
「衣玖に手伝ってもらうように頼む?」
「今更一人増えたところでどうしようもないだろ」
天子の一言に魔理沙が反論する。衣玖というと確か最初に天子と会った時一緒にいたやつだよな。天子が言うには竜宮の使いらしいが…まあ一人増えたところでどうしようもないっていうのは賛成だな。やはり紫に頼ることになるか…?
「定晴さんの秘密の…いえ、本当の能力でどうにかならないのかしら?」
霊夢がそんなことを言う。博麗の勘か、それとも憶測か…俺の能力の秘密についていつか自力でたどり着きそうだな。だが本当の能力というのは少し語弊があるな。
俺の【十の力を操る程度の能力】も本当の能力であることに変わりはない。なんせ能力名は自己申告制だからな。それに十の力を使えるのは間違いないわけだし。ただそれ以外にも能力があるというだけで。
今回の異変において何度も使ってきた他の世界線を元に未来へと続く道を知る力もその能力の一部である。そんでもってその能力で今の状況はどうのかできるかというと…どうにもならない。以上閉廷。
「なによそれ。打つ手なしじゃない」
霊夢の独り言。だがその通りなので俺たちの中に沈黙が流れる。
途中で一度だけ方向転換し南下。もちろん何かが変わるわけではない。ただひたすらに逃げているだけだ。だが結界を張ったり迎撃していても後ろからは致死性の弾幕が常に追いかけてきている。疲労の影響もあってかみんな結構ボロボロの様相となっていた。このままではいずれ落ちるだろう。
そして逃げ続けること十分。戦況は一気に変化することになる。そのトリガーは俺たちの真下にあった森から聞こえた声だった。
「ミツケタ」