横から妖怪が突撃してきたので魔術で撃ち落とす。後ろから攻撃されたので結界で弾く。不動が術を行使しようとしたので物を投げつけて妨害する…
今日の連戦という連戦により霊力は本来の三分の一にまで減っている。もう無効化の連発などはできそうにないし、魔術やら結界やらを使うにしても効率的に行使しなければならない。さもなくばジリ貧で押し負けてしまう。不動もそれが分かっているのかチマチマとした攻撃しかしてこない。厄介この上ないな。
「ルーミア!」
「せいっ!」
ルーミアに都度声をかけて闇を使ってもらう。
ルーミアもルーミアで今日だけで何度も戦闘している。だが俺のように多大な力を必要とするような技は使っていない。なので俺が後衛、ルーミアが前衛になって俺が再生やらで補助をしてやるのが理想的なのだが…俺の狙った通りにはさせてくれないのが不動。全方位から攻撃をしかけてくるせいで前衛後衛を分ける暇すら与えてくれない。
斬る、斬る、斬る、斬る…霊力が尽きかける。
「そろそろ諦めてもいいんじゃない?こっちも面倒なんだよね」
「残念だが死ぬわけにはいかないんだよ」
こんなやつに殺されるわけにはいかない。
しかしこのままではいつか死ぬ。殺される。能力なんて使わなくともその未来は分かり切っているのである。
せめて不動の後ろにいる水那をなんとかできれば向こう側の補助も消せるのだが…一か八か行ってみるか。今のルーミアは浄化が効かないので例え水那に浄化結界を張られても問題ないはずだ。今思えば俺の三千世界でも問題ないかもしれないな。まあなんかあったときが怖いからしないけど。
「ルーミア、隙をついていけるか?」
何にとも何がとも言わない。俺の視線と思考をきちんとくみ取ってくれたのか返事もせずに頷くルーミア。よし、あとは俺がその隙を作るわけだが…霊力もギリギリで身体強化も切れそうだが…この際仕方ない。ルーミアに託すとしよう。
「でっかく壁をどうぞっと!」
今となっては懐かしい美鈴との初戦で俺が使ったスペカをそのスペックを大きさに全振りした結界だ。妖怪の突進を数回受けただけで崩壊するだろうが、今は目くらましになってくれてさえいればいい。
ルーミアが駆けて水那に近づいた。水那は浄化結界を張るがルーミアには一切の影響を与えない。今のルーミアは俺の浄化の力を常に若干受けているので半分は清浄な存在となっている。妖怪の本質の部分に影響しているけどルーミア自身は特に気にしていないというか、問題なさそうなので大丈夫だろう。
ルーミアの闇が水那を吹き飛ばした。流石に闇は若干浄化されるようだがそれでも攻撃性を持ったまま水那を吹き飛ばすことに成功している。
水那は吹き飛び、ルーミアは一時的に戦線離脱。周囲にいた他の妖怪も大体気絶させた。今この場にいるのは俺と不動のみ。とうとう一騎打ちとなった。
「不動、お前のことは許せない。だが殺しはしない。どうしてお前が俺を憎んでいるか知る必要があるからな」
「そうかい。ここに来ても余裕だね堀内」
身体強化と風で高速接近、そして輝剣で不動の腹に剣を突き刺そうとする。だがその寸前に俺は少しバックステップを踏まざるを得なかった。不動が俺との間に爆弾らしきものを投げたのだ。
閃光…
どうも火力よりも目眩ましのための爆弾だったようだ。であれば問題はない。目眩ましにかまけてこれ以上逃げられるわけにはいかないのだ。未だに目は眩んでいるが気配でなんとなく分かる。俺は光の中に飛び込んだ。
不動は三歩先にいる。ナイフか何かを持っているかもしれない。だがここまでくれば引くことはできない。即死でなければ再生をフルに使って生きながらえることもできるだろう。俺はそのまま剣を振って、確かに肉を切り裂いた。
不動…本名は
それはとある森の中。誰にも見つかるはずのない場所にその妖怪はいた。たまたま森の中で迷子になってしまった不動は最初その妖怪を美しいと思った。そう思ってしまうほどにその妖怪は神秘的で、迷子となり心が折れかけていた不動にとって女神とさえ思えた。なにせ不動はその当時妖怪という存在を知らない。想像物であると思っていたのだ。故に彼女が妖怪であることも知る由もなかったのである。
不動はゆっくりと近付いて声をかけた。彼女は不動の方へ向き微笑んだ。不動はそれだけで恋に落ちたのだ。その微笑みは[獲物]に向けてのものだとは知らずに。
ある程度の距離まで近付くと彼女は不動に飛びかかった。そして首元に喰らいついた。それは妖怪の身体能力で起きたもので、不動にとっては何があったのか理解することもできなかった。そのまま不動は気を失ったのだ。
数時間後、不動は生きていることを知った。知らない家屋の中で目が覚めたのだ。その隣には飛びかかってきたはずの妖怪がいた。首元はまだ痛むものの不動は彼女にまた話しかけた。
「あなたは…何者ですか?」
誰か、の前に何者か、を訊ねた。それが不動が妖怪という存在を知る原因となったのだ。