東方十能力   作:nite

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深夜テンションで調子に乗って書きすぎました


二百十一話 嫌いじゃなかったよ

定晴の輝剣は不動の腹を裂いた。その衝撃で不動は吹き飛ばされ竹にたたきつけられる。見るからに致命傷。不動の持つ陰陽師の力も、開放する能力も、その傷を癒すには全く役に立たなかった。

 

「終わりだ、不動」

「堀内いいい!」

 

最後のあがき。腹の傷を顧みることなく不動は隠し持っていた短いナイフを突き出しながら定晴の体に突っ込んだ。吹き出す血。不動が通った跡ははっきりと血だまりとなって残っている。

全力の、最期。不動がひねり出したその攻撃は…

 

「私のご主人様に何してるのよ」

 

ルーミアの闇によって弾かれた。再度竹にぶつかる不動。もう体を動かすこともできないようだ。まるで不動が今までに狩ってきた人々のように。

不動は目の前の二人が近寄ってくるところを見た。自分は殺されるのだろうという確信を持って、最期に何かしてやろうという意識もなく、そして不動の視界は黒く沈んでいった。誰かの声を、脳内に反響させながら。

 

「まったく、私の道具は好き勝手する」

 


 

目の前で不動は倒れ伏している。まだ息はしているようだがこのままでは確実に死ぬであろう。その横には見慣れぬ妖怪…それでも知っている妖怪の姿があった。

 

「まったく、私の道具は好き勝手する」

 

そしてその隣には寝坊助も寝坊助。こんな大事件が起きていながらもいつも通りの大遅刻をした大妖怪の姿。

 

「はあ、探すのに手間取ったわ」

「紫、起きたのか」

 

藍と橙の姿はない。気絶させたのか、はたまたどこかに隔離しているのか。紫の力であれば、スキマの能力であれば洗脳程度は簡単に解除できるのかもしれない。だとすればどこかに待機しているのか。どちらにせよ彼女を紫は連れてきたのだろう。どうやら不動とこの妖怪は知り合いのようであった。

 

「本当は定晴の方に援護に行きたかったのだけど…不動がこうして動けなくなるのを待っていたのよ。定晴ならできるって、私信じてたからね」

 

だとしてももっと何かできなかったのだろうか。俺の能力をフルで使ったせいで俺の霊力は底をつきかけている。と、ルーミアが妖力を流してきた。どうやら俺の霊力の少なさに気が付いて力を分けてくれたらしい。霊力ほどではないが妖力も使えるようになった今なら再生の力も行使できる。自分自身と、そしてルーミアに再生の力を使う。ずっと戦闘と隠密ばかりで気が付かなかったが俺もルーミアも見た目は既に満身創痍だったのである。

ずっと不動の近くにいた妖怪が立ち上がりこちらを向いた。

 

「最後に会ったのはあの時以来だね」

「そうだな。知り合いだったのか?」

「そうさ。不動は私の道具で、大切な人なのさ」

 

彼女の名はチヌ。俺が外の世界で出会い、倒し、そして()()()妖怪の一人である。

 


 

不動が立ち去ったあと、チヌは定晴の方へと向き直った。

 

「さあ、一思いにやりな。苦しむのは嫌なんだ」

「散々人間のことを苦しめながら殺したっていうのに何を言っているんだ」

 

確かにとチヌは内心で笑った。今まで何度も苦しめながら人間を食らったというのにここで苦しみたくないとはなんと傲慢で滑稽なことか。チヌの全力を出しても勝てなかった相手に何を求めようというのか、チヌはもう分からなくなっていた。

 

「さっき向こうに人間の気配がしたが…獲物か?」

「いや、ただの人間だよ。気まぐれで助けてあげた、ね」

 

定晴はその言葉に驚いた。報告によればチヌの元へと向かった人間は誰一人として帰ってこず、また式神での通信も来なかったことから危険度は最高とされていたのだ。そんな彼女が人間を助けるなど…定晴はとある考えが浮かびさらに質問を投げかけた。

 

「陰陽師のやつか?」

「まさか。ただの青年さね。森に迷い込んだらしい、一年前にな」

 

つまり彼女は一年前にその人間を助けた後ずっと一緒にいたということだ。

確かに危険度は最高。戦闘力も今までに定晴が相手にしてきた中でも強者の部類であったのは間違いない。戦闘の初めの方で罠が発動していたのはその青年の助力があったからだろう。そのやり取りに、なんとなく無理やり従わせているわけでもないようであると定晴は感じた。定晴は最後の質問をした。

 

「人間と妖怪の間に信頼関係は生まれると思うか?」

「さあね」

 

要領を得ない答え。しかしチヌは、だが…と続けた。

 

「少なくとも彼は私を信用してくれていたようだよ。私も…彼を信頼していたのかもね」

 

他の妖怪のことは知らない。他の人間のことは知らない。どこかの誰かの関係など知るはずもない。それでも、身近にいた人のことは知っているとチヌは言った。私たちの間であれば信頼関係もあったのだろうと、そう告げた。

 

「だからなんだって言うんだい」

 

定晴は答えず頭上に視線を向けた。それにつられてチヌも頭上を見上げた。するとそこにはいつの間にか大きな裂け目があった。強大な妖力の気配を感じたチヌはその肌がびりびりしていることにも気が付いていた。チヌとは比べ物にならないような妖怪のお出ましである。

 

「どう思う、紫?」

 

定晴は裂け目に向かってそう声をかけた。すると裂け目は大きく開き、中からその妖力の正体である大妖怪が姿を現した。

 

「ええ、合格よ。私もすべての妖怪と人間が信頼関係を築けるとは思っていないわ。それでも誰かと信用しあえる、そのことを知っているのなら大丈夫でしょう」

 

チヌには何か分からないやり取りが交わされる。分かることと言えば、彼らがどうやら人間と妖怪の信頼について重きを置いているということだけであった。

 

「貴女には二つの選択肢があるわ。ここで殺されるか、幻想郷という場所に来て生きるか」

 

幻想郷という場所がどこのどんな場所であるのかは分からない。目の前の大妖怪はなぜか妙に胡散臭いようにも感じる。だが与えられた選択肢は大きく言えば生きるか死ぬか。ただただここで黙って殺される、というのはちょっとばかしチヌにはできなかった。チヌは差し出されたその手を、苦笑いしながら取ったのである。

定晴と紫、特に定晴の方は外の世界で幻想郷に送ってもいいような妖怪を探すのも目的としていた。外の世界にいる妖怪は大半が残忍で人間を食料としか思わず殺すことに喜びを感じるような奴ばかりだ。それでも中にはこうして人間のことをある程度なら信頼できる妖怪も存在する。そんな妖怪であれば幻想郷で生きることもできるだろうと紫と協力しながら探していたのである。それは犠牲を出したいわけではない定晴と、人間と妖怪の共存を望む紫の両者の願いを叶えるためのものであった。

 


 

まさかあの時の青年が不動だったとは。流石に何年も前のことだし霊力の気配など覚えているはずもない。不動が俺に何度も言っていた罪というのはチヌ関連のことだったわけだが…思い出すのは無理がある。

 

「お前、堀内って言ったね。不動を回復してやってくれないかい。事情は紫から聞いている。お前にたくさんの迷惑をかけたのは分かっている。それでも殺すのは…」

「当たり前だ。元より俺は最初から言ってる。殺すつもりはないってな。幻想郷じゃあ常識だ」

「そうよチヌ。幻想郷に来ても端っこの森の中で過ごしていた貴女には実感があまりないでしょうけど、幻想郷じゃ殺し合いっていうのはあまり認められないわ」

 

宿敵であるというのに殺すつもりはないと断言した俺と紫に苦笑するチヌ。やはり彼女は人間を信頼することができる側の妖怪だ。

俺は残った力で少し不動を再生する。気絶から復帰するほどではないが、少なくとも死んだりすることはないだろう。どうやらチヌも傍にいてあげるようだしな。

さて、不動の問題はこの際後回しにしよう。チヌがいるのであれば問題はない。先にしなければならないのは事後処理だ。俺が気絶させた霊夢たち共々、妖怪たちが竹林の至る所。なんなら幻想郷のあちこちに転がっているはずなのである。フランたちの状態も気になるし回復しなければならないのは確かなのだが…

 

「定晴、あとは任せなさい。大妖怪の本領を見せてあげるわ。隠岐奈ー!見てるんでしょー!手伝いなさーい!」

 

俺が知らない妖怪の名を呼ぶ紫。どうやら妖怪たちの回収は紫たちが担当してくれるようだ。俺もルーミアも再生したとはいえ全力ではないし、力も足りなかったので所々に傷が残っている。代わりにしてもらえるというのであれば任せることにしよう。

俺が休憩すべくルーミアと共に影で休んでいたら一人こちらに近づいてきた。先ほどまで不動によって操られ、ルーミアによって吹き飛ばされた水那だ。どうやらルーミアも手加減したからか他の誰よりも早く目が覚めたようである。俺が声をかけようとするとその前に水那は深々と頭を下げた。

 

「ごめんなさい。私、また油断しちゃって…」

 

どうやら不動に操られたことがショックだったようである。確かに博麗の巫女が敵に操られるなどあってはならないことではあるかもしれない。だが今回の場合はほとんどが操られていたのだ。そこまで責められることでもないと思うのだが、そうではないらしい。

 

「私、いつまでたっても博麗の巫女としての務めが果たせなくて…悔しいです」

 

水那は泣いていた。不動に操られたことも含めて自分が未熟であることが不甲斐ないと思っているようである。水那の頑張りは俺たちも分かっているのだが…霊夢が天才肌過ぎるのがいけないのかもしれない。少ない練習量と直感で霊夢は技を使ったりできるからな。その霊夢と比較してしまい落ち込んでいるのだろう。

 

「…今は休め。話はいくらでも聞いてやるし、霊夢たちも水那を責めたりはしない。宴会の時にみんなも交えて今後のことを話そう」

 

どうせ今回も誰かが主導して宴会をやるのだ。異変の主犯も解決者も全員を交えて騒いで、そして信頼するのだ。それが今の幻想郷の在り方だ。水那をここに連れてきたのは俺だ。ここのルールに従いながら、水那を導いてやらないとな。霊夢も水那のことを気にかけてくれるだろうが、俺も見守らなければ。

水那は俺の隣、ルーミアの反対側に座った。気づけばそこらへんに転がっていた魑魅魍魎たちは回収されてしまっている。一体どこに飛ばされたのだろうか。スキマの中はある程度の空間になっているようだし少しずつ送り出して永遠亭で治させるつもりなのだろうか。だとすればしばらくは永琳が眠れないことに…不老不死って眠る必要がなかったりするのだろうか。でも不死とはいえ病気にかからないというわけではないような気が…分からん。

 

「定晴、これからどうする?」

「俺たちも協力しながら怪我人の治療だな。あと不動をどうするか。多分チヌが死んだと思っていたからこその行動だと思うんだが…」

「私もそう思うよ」

 

カラカラと笑いながらいつの間にかすぐ近くにいたチヌ。全然足音も気配もなかったな。森の中で獲物に逃げられないようにするには必須のテクニックなのだろう。

その背には不動。未だに気絶したまま目を覚まさないようだ。チヌが不動の方をちらりと見て言った。

 

「本当に、馬鹿なやつさ」

「にしても不動は度々幻想郷に来てたんだぞ?会わなかったのか?」

「さっき言われたけど私は端っこの森の中で生活してたんだ。こっちの方に不動が来てれば気配で私に気が付くこともあったかもしれないけど…まあ過ぎてしまったことは仕方ないさね」

 

さっきから思っていたが特徴的な話し方だ。方言でもなく、かといって訛りなのかというとそうでもないような…妖怪の在り方を決めるのは人間なので多分どこかの誰かがこの口調であると思ったのだろう。普通に生活していれば出会うことのなさそうな言葉遣いだが…どこかの集落ではこういった口調だったのかもしれない。どうやらチヌはそれなりに昔から生きているようだしな。今後も幻想郷で生き続けるのなら大妖怪になることもあるかもしれない。暗黙の了解として、迷い込んだ人間は食ってもいいらしいし。

 

「よければ不動は私のとこで保護しとくよ。また昔みたいに二人で過ごすのもいいかもねぇ」

「不動のことが気に入っているのか?」

「少なくとも…嫌いじゃなかったよ」

 

朗らかな顔をして言うチヌ。それは一年という妖怪にとっては短い、それでも長い月日を過ごしたからこその笑みだろう。

しばらく何も言わずに休んでいたら紫がスキマから現れた。どうやら回収作業が終わったようである。

 

「吸血鬼の妹が少しやばそうよ。定晴、来てくれる?」

「はいよ」

 

紫に言われてスキマを通ればそこは永遠亭の一室。ここは…救護室だろうか。

そこにフランが横たわっていた。全身傷だらけで、息は細い。狂気に支配されていたからか無茶なこともしたらしく火傷跡や打撲痕も残っている。見るからに痛々しい様相だ。だがそれでも生きている。紫に訊ねてみると、どうやら森の中で他の紅魔館の面々共々気絶していたらしい。誰も死んでいないようでなによりである。

俺はルーミアに妖力を分けてもらいながらフランに再生を行使した。しかも魂にいる魔女が魔力の補助もしてくれたのでその余力で浄化も使う。元々静まっていた狂気を不動によって開放されたようなのでもう一度浄化するのは簡単だった。一応俺や狂気が感じ取ることができるものは浄化したのだが…多分まだ残っているのだろう。これはフランたちと話しながらした方がよさそうだな。

 

「流石ね定晴。あとは藍達にも手伝ってもらいながら事後処理といきましょ」

 

さあ、異変完全解決まであと少しだ。

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