東方十能力   作:nite

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二百十二話 二つを繋ぐもの

その日はもう太陽も沈み俺たちも疲労が溜まっているだろうからと一度家に帰った。何日も離れていたわけではないのにやたらと久しく感じるのは、昨日がとても濃かったからだろうか。俺もルーミアも自分の部屋には戻らずそのままリビングルームで横になった。ルーミアはソファ、俺は床に。

 

「はぁ、大変だったわね」

「だな…」

 

今までは極限状態だったため気が付かなかったが、いざ意識してみると体は鉛のように重く霊力は底をついている。自分でもよく生きてたなという感じなので客観的に見ても満身創痍なのは間違いないだろう。疲れもあったからか段々と眠くなってきた…

 

 

っ…今何時だ。気が緩んで眠ってしまった。

 

「あ、おはようご主人様」

 

目を覚ますと目の前にはルーミアの顔。どうやら俺は寝かされているらしい。所謂膝枕というやつだ。なんでこの体勢なのかは些か疑問ではあるが、きっとルーミアが床で寝ている俺に気を使ってくれたのだろう。俺がこうしている間はルーミアは眠ることもできなかっただろうに…

起きようとすると体を押さえつけられて霊力もない今の俺には起き上がることもできないので、膝枕のこの状態でルーミアと話す。なんか恥ずかしいな。

 

「今何時だルーミア」

「今は夜中の十時よ。あまり家に食材がなかったからおにぎりくらいしかないけど食べる?」

 

どうやら俺を膝枕する前におにぎりまで握っておいてくれたらしい。なんだか最近ルーミアが丸くなったように感じる。優しくなったというか…周囲を配慮するようになった印象だ。多分封印から自由になったとかそれだけのことではないのだろう。

俺がルーミアにおにぎりを食べることを伝えるとやっと膝枕から解放してくれた。なんだか名残惜しそうに見えるし膝枕をしたかったのだろうか。

俺は申し訳程度に沢庵やら梅干しやらが入っているおにぎりを食べながら今後の予定について考える。取り敢えず今日はこのまま寝るとして、明日の朝永遠亭に向かうのがいいだろう。紫は事後処理に追われているだろうから呼べば出てくるだろうし、永琳には特に俺を言う必要があるからな。永琳がいなければ今回の事件で俺は不動に殺されていたことだろう。数時間で薬を作ってくれたことだし月の頭脳は伊達じゃなかったな。どこかで依姫たちに話すとするか。

それと天子にもお礼を言う必要がある。あまり一緒に行動はできなかったがあの状況での貴重な戦力だった。あの正体不明の妖怪との戦闘では頭上から要石を落としてくれたからこそ勝てたわけだからな。…あの正体不明の妖怪は操られた状態から解放されて今も永遠亭にいるだろう。あの子のことも話し合わないといけないな。

不動との戦闘で死者こそいなかったもののフランのように重篤になってしまった妖怪も少なくない。失ったものはないがやらなければいけないことは多く残っている。まあ少しずつ片付けていこう。

 


 

朝。

俺とルーミアは永遠亭に来ていた。朝と言っても早すぎると迷惑かもしれないので日は完全に昇りきっている。不老不死な月人が運営しているのでコンビニ営業かもしれないが、昨日は大変だったし流石に寝ただろう。というかお互いに休憩できるように昨日は解散したわけだから休んでくれてないと困る。

 

「おはよう鈴仙」

「あ。師匠ー!定晴さんが来ましたよー!」

 

俺が声をかけると大声で永琳のことを呼ぶ鈴仙。彼女はいつも永遠亭の前で掃き掃除をしているのだが、別の仕事もあるんだよな…?少なくとも行商とかしているはずなのだが…

鈴仙が呼びかけてから永琳が出てくるまで数分とかからなかった。永琳もそれなりに準備して待ってくれていたのだろう。俺たちはそのまま永琳に連れられてある一室へと到着した。

そこは昨日正体不明の妖怪を保護した部屋であった。今彼女はベッドで眠っている。

 

「結局会話はできなかったわ。意思の疎通は可能だけど…私じゃ原因が分からなかったのよ。身体的な要因ではないと思うのだけど…」

 

うーむ、分からないことが多すぎるな。一応あとでチヌを通して不動に質問してみるか。答えてくれるのかは定かではないが。彼女をこの状態にしたのは不動なので落とし前は不動につけてもらおう。

 

「フランはどうだ?」

「あっちは大丈夫よ。昨日の時点では結構やばそうだったんだけど、貴方の再生をかけてもらってからは全然問題ないわ。よければまた再生をかけてあげてちょうだい。暇しすぎて暴れそうなのよ」

 

流石の永琳もフランに暴れられるのは困るらしい。物質とか大きさとか関係なく破壊するフランの能力には手を焼くようだ。俺も無効化がなければあまり善戦できる気がしない。

多分再生をかけてあげることよりもフランのストレスをどうにかしてほしいという方が真の願いだろうからフランの病室にも訪れる。到着すると俺たちよりも先に一人来ていた。

 

「咲夜、お前は動いて大丈夫なのか?」

「ええ。妹様以外は既にある程度治療が終わっていますから」

 

紅魔館のメイド、十六夜咲夜。メイドの仕事のために永遠亭まで主張中。

昨日怪我がひどかった咲夜とレミリアを除いて紅魔館の面々は帰宅。レミリアも夜の間の吸血鬼パワーにより回復して残りはフランだけということだ。吸血鬼という種族の力で夜の間であれば自然治癒力が大幅に上昇するらしいのだがフランの傷はそれだけで癒せなかったのだろう。もしかしたら狂気の影響もあるのかもしれないが。

 

「フラン、調子はどうだ?」

「…元気」

 

というには随分と返事が弱々しい。枕に顔をうずめたままこちらを見ることもなく寝ているフラン。

 

「狂気に呑まれてしまったことと不動に負けたことがショックだそうです」

「ちょっと咲夜!」

「怒るのであればせめて定晴様の方を向いて話してはどうですか?」

 

フランは元々狂気に呑まれやすかったわけで、しかも不動にその狂気を開放状態にされたのだから抗うのも無理だったような気がする。そしてこれはフランの戦いを見ていないので憶測だが不動とフランの能力は相性が悪い。フランは自分の能力のことを話すときに『きゅっとしてどっかん』という言葉を使うことがある。実際フランに原理を説明してもらったが、実在する物質が必ず持っている目と呼ばれる弱い部分を手の中に移動させて握りつぶすことで破壊しているらしい。まあ要は弱い部分を握りつぶしているわけだ。

不動がその部分を開放してしまえば握り潰すことはできない。握りつぶすという行動に対して開放しているという状態が付与されるのだ。言葉で説明するのは難しいがフランは握りつぶそうとしても握りつぶしたという事実に至れないという状況に陥るということだ。

 

「だってー、冷静さを失っていたとはいえあそこまで負かされるのはやっぱり嫌なんだもの」

 

昨日と違って傷が何もない不満顔で呟くフラン。夜の間に小さい傷は全て癒えたのだろう。永琳曰く昨日は骨が折れていたらしい。足を少しパタパタしているところを見ると骨は癒着したようだがまだ安静に、ということだろう。

 

「あ、あと…お兄様、ごめんなさい」

「え?なんでだ?」

「私またお兄様に攻撃しそうになっちゃって…」

 

確かにフランは狂気に呑まれて冷静さを失い俺たちを攻撃しそうにもなっていた。しかしフランは不動の攻撃を優先し、結局俺たちには何の被害もなかったので特に何も気にする必要はない。と説明したがどうやらフラン自身それ以外にも思うところがあるようだ。

 

「お兄様が昔私の狂気を浄化してもらった時、まだ少し狂気が残ってること言わなかったの。もっとちゃんとしてたら私もお兄様に協力できたのに…」

 

フランは自分の中にある感情、概念の部分を感じ取れるのか。まあ制御はできないようだが、しかし俺に言わなければいけなかったというわけでもあるまい。

というか俺に言ったところで浄化できない可能性が高い。フランと狂気を完全に引き離すのは多分不可能だろう。紫とかミキみたいな反則的な人物でもない限り無くすことはできないに違いない。だってフランはずっと狂気と共に生きてきたはずだから。

 

「そんなに気にするな。結局フランの奇襲のおかげで俺たちもこうして生きてるわけだし。俺以上にフランは怪我をしたからな。そう卑下するもんじゃないぞ」

「うん…えへへ、ありがとお兄様!」

 

ちょっとは元気も戻った様子。行かないといけないところもあるしここらへんでお暇させてもらおうかな。

 

「じゃあ安静になフラン」

「うん!ばいばーい!」

 

手を振るフランに別れを告げて次に向かうのは…不動のところだ。

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