ルーミアを連れて不動の元へ。永遠亭にいなかったので所在を聞いてみれば、永琳曰くチヌの家にいるとのこと。しかし俺はチヌの家を知らない。どうやらずっと幻想郷の端に住んでいたそうなので家もそこにあるのだろうが…幻想郷の端ってどこのだよ。
幻想郷は何かの形を成して形成されているのではない。山だとか森だとかを覆うために博麗第結界などは半球状に張られているらしいが、地形の関係上認識やらなんやらに干渉する結界は歪んでいるのだ。まあもし半球状だとしたらそれはそれでどこの端なのか分からないのだけども。
居場所が分からなければどうしようもない…とならないのが幻想郷。あまり借りを作りすぎると後々面倒なことになるのだが、今日は仕方ないので理不尽その一を呼ぶ。
「紫ー!」
「はいはーい。昨日から処理に追われて眠れていない紫さんよ♪労わってくれるのかしら?」
なんだか一晩眠った俺たちに罪悪感を植え付けるかのようにスキマから飛び出してきた幻想郷の賢者。紫の言葉にルーミアも微妙な顔をしている。
「チヌのところに送ってくれないか?俺たちは場所を知らなくてな」
「そんなこと?はいはーい、二名様ごあんなーい」
紫が手を翳すと目の前にスキマが現れる。奥には気持ちの悪い目玉ばかりが広がっているがまっすぐ進めば不動とチヌの場所へと行くことができるのだろう。
俺がスキマを通ろうとすると後ろから紫が呟くように言ってきた。
「労わりもしてくれるわよね?」
「全部終わったらな」
それだけ言って俺とルーミアはスキマの中に入った。
スキマの中に地面らしい部分も何もないがそこで歩くこと数秒、スキマ空間が突然消え去り目の前には一軒の木造りの家が建っていた。簡素だが意外としっかりとした作りであり台風程度であれば余裕で耐えることもできそうだ。チヌが作ったのか前からあるやつを借りたのかは分からないが製作者は中々に建築関係の知識があったらしいな。
流石にインターホンみたいなものはないので(幻想郷でインターホンがある家は俺の家やアリスの家くらいだ)、普通にドアをノックする。幻想郷の人々はあまりインターホンを使い慣れていないのか魔理沙などは屡々インターホンを押さずにノックをしてくる。
しばらくすれば扉が開いた。出迎えてくれたのはチヌではなく不動であった。
「ああ、堀内か。入ってくれ」
そしてそそくさと中へと戻っていく不動。
中も外見と同じく木造りなものの中には洋風な家具なんかも置いてある。どうやら木造りの椅子よりもソファの方が座り心地がよかったようで、ソファが置いてある脇に乱雑に椅子が置かれている。
「よう来たね。取り敢えず座り」
チヌは既に座ったまま待機しており、こういうところで不動とチヌの上下関係が分かる。とはいえ別に雑に扱っているわけではないようだけど。
俺とルーミアが座ったことを確認すると先にチヌが口を開いた。
「まあ要件は分かっとる。そこにいる不動のことだろう?」
そう言うとチヌは不動を睨みつけるかのように視線を移した。中々の眼光だが不動が何も感じていないところを見るとこれがデフォルトなのかもしれない。
俺がそうだと言えばチヌはさらに言葉を続けた。
「私もまあ色々とそいつに聞いた。なんだか情けないよ。こんな奴のこと、さっさと忘れちまえばいいってのに」
「そんなこと…」
チヌの言葉に不動が反応する。チヌからすれば親しい人間程度の認識なんだろうが、不動からすればやはり大切な人なのだろう。
「もちろん落とし前はつけさせる。既に幾人かには謝らせている。ちゃんと迷惑をかけたやつらには謝罪をさせよう」
不動も既に行動原理がなくなった、というか毒気が抜かれたかのようで、チヌの命令はしっかり守っているようである。まあ死人は出ていないし、謝罪でなんとかなるのが今の幻想郷だ。恨みだのなんだのでまた諍い事が起きるのは博麗の巫女である霊夢も本望ではないからこそ今の幻想郷があるのだ。
「それで?他に要求があるのかい?」
「ああ、ある妖怪のことなんだが…」
二人に永遠亭で保護されている妖怪について説明をした。彼女の状態と状況を掻い摘んで話している間、不動は無言だった。
「永琳曰くああなったのは不動が長い間操り状態にしていたからだと言うが…」
「…僕としても驚きだ。あれは言わば思考誘導に近い。なんでもかんでも操れるわけではないし、力の供給をしていたのは事実だが元より彼女はそれなりの知識と力があったはずだ。僕も原因は分からない」
不動の目を見るが嘘をついているようには見えない。まさか不動でも分からないか…やはり紫に確認してもらったほうがいいかもしれない。紫のスキマの力であれば精神の境界を操ることもできるので不動に操られる前の状態に戻すこともできるかもしれない。
「それで?堀内は僕たちに彼女を保護してほしいと言うのかい?別に、それくらいであれば構わないが」
「いや、それは別に求めてない。彼女の状態を改善する方法が分かればと思って聞いただけだ。幻想郷には式神のプロフェッショナルもいるからな。どうにでもなる」
藍が了承してくれるかは分からないが。
今のところ俺は彼女を誰かしらの式神にするのが良いと思っている。勿論操るとかそういうのはなしだ。多分あのまま放置するとそこらへんの妖怪に共食いされて死んでしまう。ある程度自衛のための弾幕を使えるようになるまでは誰かの庇護下にある方がいいはずだ。まあ誰もいなければ最終的に不動に面倒を見てもらうけど。
「幻想郷じゃ異変を起こしたところでそれがちゃんと解決してくれれば首謀者だろうがなんだろうが許すことになっている。しばらくすれば宴会のお知らせが来ると思うからちゃんと参加しろよ」
「ふむ、たまーにあった宴会のお知らせは異変解決のものだったか」
そう呟くチヌ。いや、純粋に飲みたい奴らが人を集めていることも多々あるので一概に全部が祝いの宴会というわけではないぞ。
「まあ安心せえ。不動の面倒は私が見るからな。もうこれ以上変なことはさせんよ」
「ああ、頼むぞ」
若干不動が気まずそうにしているのを無視して俺とチヌは頷きあったのであった。