堀内定晴
…本作の主人公。【十の力を操る程度の能力】持ち。式神にルーミアがいる。黒髪の男性でモテるが非常に鈍感
博麗水那
…次期博麗の巫女。外の世界で家無しのまま生きていたところを定晴が保護。巫女修行中の身だが、巫女になってから負けが多いことを気にしている
不動成
…第一部の黒幕。【開放する程度の能力】持ち。現在はチヌと幻想郷の端っこで同居中
チヌ
…正体不明の妖怪。高度な術などは持たないが純粋な力では大妖怪レベル。現在不動と共に同居中
???
…不動に使役されていた妖怪。詳細不明
空那
…水那の姉。幻想の力との親和性が高い。現在は外の世界で頑張ってる
ミキ
…定晴の友人。時空神。既婚者。
二百十五話 ユズ
不動とのあれこれも終えて俺は久しぶりの休暇を家で過ごしていた。ルーミアはいつものように本を読んでいる。題名は【ヒト種はなぜ妖怪に勝てないのか】である。なんだか難しそうな題名だし、その本って本来人間が妖怪対策として読むものではないのだろうか。ルーミアが読んだらそれこそ人間が妖怪に対してどんなことをしているのかとか筒抜けになるわけだし…まあ最近は人間を襲っていないようだし大丈夫かな。
かくいう俺は何もせずに椅子に座っていた。いや、客観的に言えば何もしていないのだが実際は魂の二人と話している。これを機に二人のことを知るのもいいかと思ったからだ。とはいえ狂気とは今まで散々会話をしてきたし魔女はあまり自分自身のことを言いたがらないのでほとんど収穫などなかったが。
そろそろ昼食でも食べようかと思った時、チャイムが鳴った。
「へーい」
ルーミアが立ち上がろうとしたのを制して自分で出迎える。
先日のこともあって鍵も結界も厳重にした家の玄関を開ける。幻想郷に来て俺も相当力が強くなったからできる限りの結界を施したのだが、ミキと紫は平然と侵入してきた。しかも同時に。お前らが敵じゃなくて本当に良かったと思ったのは仕方ないだろう。
閑話休題
扉を開けた先にいたのは水那であった。いつもの霊夢とお揃いである巫女服を身に纏い礼儀正しく立っている。服装も身長もそこまで違うわけではないのになぜここまで受ける印象が違うのだろうか。やはり立ち姿か…それとも内なる性格の部分が出ているのか…
「定晴さん?」
「え、ああ。すまん。何の用だ?」
怪訝な目をされたので思考をどっかに放り投げて水那に向かい合った。
「霊夢さんが呼んでるので、私が伝えに来ました」
「霊夢が?」
この際水那がパシリにされているのはツッコまないとして、どうして霊夢が俺を呼ぶのだろうか。あの霊夢が呼んでいるということは多分あまり利益になるようなものではないだろうな…でも断ったらあとで面倒そうだし、仕方ないか。
「分かった。先に戻っててくれ。すぐに準備して行くから」
「はーい」
そう言うと水那は飛んで行ってしまった。幻想郷に来た頃は飛ぶのにも難儀していたというのに成長速度が半端じゃないな。聞くところによると霊夢よりも少し早く飛べるという。俺は風を使って飛んでいるので分からないのだが、どうして飛ぶ速度が変わるのだろうか。霊力の質か?
「ご主人様、出かけるの?」
「ちょっと博麗神社に行ってくる。ルーミアはどうする?」
「私はここで待ってるわ」
そう言うと本に視線を戻したルーミア。どうやら結構読んでいる本が面白いらしい。妖怪と人間の生態系は違うようだし案外興味深いのかもしれない。人間にとって妖怪とは基本的に恐怖の対象となるが、妖怪にとって人間は脅威でもなんでもないので面白く見ることもできるのだろう。
俺はさっさと準備を終えて博麗神社に飛び立った。
博麗神社に到着すると水那と霊夢、そしてあうんが待っていた。
「萃香たちは寝てるだけだから気にしなくていいわ」
「そうか…」
幻想郷のグーたら生活の最たる例は萃香なのだろう。霊夢はめんどくさがりではあるものの朝早くに起きて境内の掃除はしっかりしているようなのでグーたらとは言えない。幻想郷の文化レベルは一部を除いて江戸時代あたりのものなので早朝に起きて生活するというスケジュールもそのままなのだろう。
「それで、何の用だ?」
「ええ、定晴さんに面倒ごとを押し付けようと思って」
オブラートなど知らないとばかりに直球で要件を伝えてきた。霊夢が面倒ごと扱いしているということはこちらからしても面倒なのは間違いないのだが、それがなぜ俺に回ってきたのだろうか。
「拒否権はないわよ。簡単に言えば彼女を預かってもらいたいと思って」
霊夢がそう言うと奥から出てきたのは不動に操られていた反動で言語能力を失っていた正体不明の妖怪だ。確か彼女は藍のところに預けようみたいな話になっていた気がするのだが…
俺の表情を読み取ったのか俺が訊く前に霊夢が答えた。
「今の藍は忙しいのよ。定晴さんも知ってると思うけど博麗神社はお金がないし、かといって不動のところに預けるのは不安が残る…というわけで貴方よ。今や幻想郷頼れる人ランキング、紫よりも高いんだから」
なんだそのランキング。
まあ事情があるというのなら仕方ない。不動にああ言った手前無下にしたくはないしな。とはいえ女性なので世話はルーミアにしてもらった方がいいだろうか。
「よろ…しく…ねがい…ます…」
「お?」
「一応ある程度言語能力は回復させたらしいわ。とはいえ聞いて通りまだまだ拙いからそこらへんはサポートしてあげてね。できれば日常会話ができるくらいには回復しているのが望ましいのだけど」
ここにきて霊夢から追加注文。まあ頑張ってみるけどさ。
「今日の要件はこれだけよ。なんかあったら聞きに来ていいから」
「へいへい」
妖怪を連れて飛び立つ。まだ飛ぶことも少し不安定だが、まあ数日でこれなのだししばらくすれば安定して飛ぶこともできるようになるだろう。
「ただいまー」
「おかえりなさい…ってなんでその子がいるのよ」
「霊夢に押し付けられた」
本人の前でそういうのもどうかとは思うが、まあいいだろう。
「藍が落ち着くまでって話だから。それまでな」
「ふーん、まあいいけど。女性だし私が世話するわよ?」
「ああ、頼もうと思ってたところだ助かる」
率先して世話してもらえるならありがたい。無理にさせるのは俺にもルーミアにもよくないからな。それに彼女にも…
「そういやお前名前はないのか?」
「…ない」
うーん、名前がなければ流石に呼びにくいな。ない、と言っているからには霊夢たちに仮名をつけてもらってもいないということだろう。勝手に名前を付けてもいいのだろうか。
「いいんじゃない?どのみち呼び方がないと困るでしょ」
「それもそうか…じゃあユズってのはどうだ?まあ冬だからっていう理由しかないけどさ」
年明けてまだ一か月も経過していない。まだまだ冬の真っただ中だ。ユズというのは不思議なもので冬だけの果物でもないのだが、まあそれは今は置いておこう。ちなみに数ある冬の果物の中でもなぜユズなのかと言うと最近柚子湯に入っているからだ。連想しやすかったというのが簡潔であろう。
「それで…いいです…」
「よし。それじゃあ俺は昼食の準備をするからルーミア、ユズの案内をしてやってくれ。空いている部屋ならどこでも使っていいぞ」
そうして俺はキッチンに立った。
ご主人様が新しい子を連れてきた。名前はさっきついたばかりでユズというらしい。
ユズは警戒しつつも興味深そうに部屋の中を見ている。私はユズの部屋まで連れてきていた。ご主人様の家は明らかに一人で住むには大きすぎるうえ部屋もたくさん残っている。物置と化している部屋も片付けることができればもうあと二部屋くらいは空き部屋を作ることができるだろう。
八雲藍が忙しくなくなるまで…と言っていたけど、この子どうしようかしら。別に退行しているわけではなさそうだし日常生活を送る分には問題ないだろうけど、如何せん言語能力が拙いのがネックだ。一応現在の幻想郷では弾幕ごっこさえできれば何とかなることが多いのだが、それもどうか危うい。まずは発声練習と弾幕ごっこの練習をさせる方向で…
「ルーミア…さん…」
「なにかしら?」
「ありがと…ます」
途中不自然に言葉が切れたが、きっと感謝の言葉を述べられたのだろう。私も式神じゃなければ関係のない妖怪など放置するが、今はご主人様の下にいるしこれくらいはなんてことない。まあ少し言うとすれば、ご主人様と二人っきりじゃなくなって…少し寂しいかも。
ご主人様の優しい部分は非常に好ましいけど、これ以上厄介ごとは増やさないでもらいたい。特にもう命に危険が及ぶようなことには首を突っ込んでほしくないのだけど…きっと無理なんだろうな。ユズを前にしてそんなことを思うのであった。