東方十能力   作:nite

220 / 503
二百十七話 言語能力

「ご主人様、皿を片付けておくわよ」

「ああ頼む」

 

晩飯であったパスタを食べ終わり、俺たちは片付けをしていた。

ルーミアはユズが家に来ても俺の呼び方を変えなかった。俺には分からないがルーミアの中にも判断基準があるのだろう。ユズが来たことは呼び方を変える理由に足りえなかったようである。

 

「定晴…さん…お風呂…」

「溜めておいてくれたのかありがとな」

 

対してユズは俺のことを名前で呼ぶ。まあこちらは普通の呼び方だ。俺のことを名前で呼ばないのはルーミアと不動くらいだ。ルーミアの呼び方が例外中の例外なのは当然だが、俺のことを名字で呼ぶ人も中々にレアだ。元々不動は名前でなく名字で呼ぶようにしていたらしいので俺のことも名字で呼ぶらしい。

 

「ご主人様、先にお風呂に入ってきていいわよ」

「んじゃ先に失礼するぞ」

 

ユズも片付けができないというわけではないのだがあまり筋力がないというか、力を入れることができないらしく皿を落とすことがあったのだ。なのでユズの筋力が戻るまでは別のことをしてもらっている。妖怪の筋力はどれだけ弱い妖怪でも人間の成人男性くらいはあるからちゃんと力が戻ればもっと色々できるようになるだろう。

そしてそれはルーミアに一任している。

 


 

ご主人様が風呂に入りに行ったので私たちも行動を開始する。ユズに言語能力を身につけさせようの会である。

現在のユズはゆっくりと話すことしかできない。元々こうなのであればそのケアをするために行動するのだが、本人曰くそうではないらしい。喋ることは苦手でも頷いたり首を振ったりができるので意思疎通が可能なのでそれで分かったことなのだが、どうやら不動に捕まる前は普通に話したりなんだりができる普通の妖怪だったらしい。

 

「知能とかは問題なさそうだからその言葉に詰まってしまう原因が分かればなんとかなると思うんだけど…原因に心当たりはある?」

「…」

 

首を横に振るユズ。

私も別に人体に詳しくない、というかあの永琳が原因を特定できなかったのだから私ができるとは思えないのだけど…まあ仕方ない。

 

「あーって言い続けられる?」

「あーーーーーー」

 

長音を話す分には何の問題もなさそう。ならやはり言葉を繋ぐときに止まってしまうということ。ユズ自身は話そうと思った時には脳内でちゃんと言葉を順序立てて作っているのにいざ話そうとすると詰まってしまうようだ。うーん、肉体が関係しているのだけど…

 

「正直私じゃどうしようもないし…明日体内の状態について調べてくれそうなとこに行こうか」

「…」

 

コクコクと頷くユズ。身長は本来の私の姿のちょっと低いくらいで顔もきれいなので無言のままだと凄い人形みたい。今はご主人様が持ってた女性服(女装癖があるわけではなく純粋に仕事で使うためのものらしい。何の仕事なんだろう)を着ているから見た目だけはただのかわいい妖怪だしご主人様に惚れないようにしないとなぁ…

 

「うーん、永琳のところで分からなかったなら次はそれこそパチュリーに魔術的な検査でもしてもらうしかないかな…」

 

不動の、陰陽師の力の影響によるものなので霊夢に聞くという手もあるが…やっぱりよく分からない。というか治るものなのだろうか。リハビリを続ければ次第に治っていくものなのか、それとも現状が限界なのか。

 

「ご主人様に報告して明日紅魔館に行きましょうか」

 


 

そして次の日。事情を話せばご主人様は快く了承してくれた。まあこの程度のことでこちらの行動を制限するような人ではないのだけど。

ただアポなんかは取ってないので取り敢えず美鈴に話を通さなければ。多分今日も門の前でいつも通り寝ているだろうと…

 

「あれ、起きてる」

「ルーミアさん、失礼じゃないですか?」

 

いや、この評価は何も不思議なところも変なところもない真っ当なものだと思うが。

 

「正直なことを話すと起きたんですけどね。変な気の人が近付いてきたので」

 

そう言ってユズを見る美鈴。もしかして何か分かるのだろうか。

 

「何かわかるのかー?」

「そうですねぇ…気力が弱い、と言いましょうか。あ、一般的に言われる気力じゃなくて純粋に気の力のことなんですけどね。妖力とかは正常なのに気力が弱いせいで体が上手く機能していないみたいですね」

 

まさか美鈴に助けられる時が来るとは思わなかった。

美鈴の言葉を分かりやすく言うならば、燃料は足りているのに着火剤が足りていない状態、だろうか。妖怪としての妖力は足りているのに気力とやらが弱いせいで本来の力を出せずにいるらしい。人間で言えばお腹が空いた状態なのかな。

 

「強くする方法はあるかー?」

「一応私が知っている療法の一つにありますよ。ただ気力ってそもそも本人の内側から出るものなので、この子が変わらないと続かないでしょうねぇ…」

 

ふーむ、まだ私たちの知らないユズ自身の問題も残っているようである。とはいえ解決策がここで見つかるとは思わなかった。気を操るってどんな能力なのかとずっと思ってきたけど、こういう体の内側に作用するものだったのか…

 

「一応その療法を試してもらってもいいかー?」

「咲夜さんに一言伝えてくれれば大丈夫ですよ。ツボ押し式なので準備も必要ありませんし」

 

私は早速咲夜のところに行って事情を伝えた。咲夜も美鈴がそんなことができるなんて知らなかったようで驚いていたが、美鈴のマッサージは効果があると言っていた。やはり体に作用するような事柄に対しては得意な部類なのだろう。

 

「それじゃあ始めますよ」

 

簡易的なマットを敷いてその上でマッサージを始めた。見ている分には分からないけど、ユズには何か分かるのだろうか。気力ってどんなものなのかちょっとだけ説明してもらったけど何もわからなかった。体の内から沸いてくる生物の根源の一つ、らしいのだけど…そもそも根源って一つじゃないのだろうか。

マッサージをすること十分ほど。最後に強めに体を圧した美鈴が顔を上げた。

 

「はい、これである程度は正常な流れになりましたよ。たださっきも言いましたけどきちんとした状態に戻すにはユズさんの内面の何かを解決しないといけませんからね」

 

内面の何か…ご主人様に報告して解決策を模索してみよう。

 

「ありがとうございました」

「はい、どういたしまして。お礼はまた定晴さんにお菓子を作って持ってきてもらうってことで」

 

ユズも流暢に話せるようになっている。それだけでもすごい進歩だ。

どうしてもコミュニケーションで詰まってしまうと中々調査というのは進まないし、ユズに事情聴取をするときにスムーズにできるようになるというだけでも全然違ってくるだろう。

 

「よし、一度帰りましょ」

「…ルーミアさん、その、私…」

「話なら定晴がいるときに聞くから」

 

ユズの状態にも少しだけ光明が見えてきた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。