東方十能力   作:nite

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二百十八話 入山記録

ユズが流暢に話せるようになって戻ってきたことはとても喜ばしい。だがユズ自身がまだ心の準備ができていないのか話そうとしないことがあるので、今はちょっとだけ待ってあげることにする。

そんなわけで今日は一人で妖怪の山に来ていた。現在の妖怪の山のトップである天魔に呼ばれたのだ。なにやら謝罪があるとかなんとか…不動の異変に関することだろうが、別に俺は気にしていないのだけどなぁ…とはいえ無視するわけでにもいかないので妖怪の山を登ろうとしたら見覚えのある姿を見つけた。

 

「雛か?」

「ん?ひゃっ!さ、定晴さん!」

 

鍵山雛。俺が一番最初に妖怪の山に来た時に色々と警告してきた少女だ。あの時は暇つぶしがしたかったというのもあって圧をかけて雛を追い払った。雛は厄神らしく近くに寄るだけで厄をもらって不幸になるらしい。俺には浄化の力があるので関係ないのだけど。そりゃ純粋に日常生活の中で降りかかる幸運だとか不幸だとかは浄化の力でもどうにもならないが、厄というのはある程度実体があるらしい。俺には見えないが実体があるなら俺に害するものであれば浄化できるのだ。

 

「前も言ったが遠い」

「貴方に厄が移らないのは分かったけどそもそも近距離で話すのは苦手なのよ」

 

距離にして大体十メートルほど。厄が移り始めるのが大体六メートルくらいからだと言うから雛からすればこの距離はベストなのだろう。こちらからすれば話しにくいことこの上ないが。

 

「今日は何の用で来たの?貴方が来ても止めないように椛から言われたんだけど…」

 

どうやらここらへんを行動範囲としている雛にも連絡が来ていたようである。別に隠すことでもないので正直に要件を話した。急いでいるわけではないのでここで雛と駄弁っていても問題ないだろう。

 

「へぇ…私はその日ちょうど厄払いのために別のところにいたのよね」

「厄払いをするのか」

「私に溜まった厄を払って、また新しく厄をため込む。そうすることでまた皆が不幸にならずに済むの」

 

聞いているだけだとなんだか悲しい話である。ただ当の本人はその役割について満足そうにしているし、俺が口をはさむのは野暮だろう。幻想郷には色んな種族、色んな仕事をしている者がいる。それぞれの仕事には時に辛い部分や悲しい部分があるが第三者がそのことを言うのは違うのである。

 

「さ、私はもう行くから貴方も行きなさい。用事があるんでしょう?」

「ああそうだな。じゃあまたな」

 

雛と別れて山を登る。

妖怪の山の斜面に沿って飛ぶと天狗から何度も警告される(今日は理由もあるので説明すれば通してもらえるが)のは面倒なので普通に歩いて登る。外の世界では何度も山歩きはしたし富士山を登った回数だって一度や二度ではない上、身体強化を使えば疲労することなく山を登ることができるので山登り自体は嫌いではない。

しばらく歩いていれば河童の集落が見えてくる。天狗たちはもっと高いところに住んでいるので目的地はまだ先だが折角だし寄ってみるのもいいだろう。

 

「誰かいるかー?」

「ぴゅいっ!…あー、たしかにとりの盟友さん?」

 

見たことない河童が反応した。見たことはない、がにとりと俺の関係は知っているらしい。あまり河童と関わらなかったからきっと惰眠異変の時にその場にいた誰かだろう。惰眠異変も随分昔に感じてしまうな…

 

「にとりを呼んできましょうか?」

「あー、いや、まあ暇そうにしてたらで良いよ。特段用があったというわけじゃないからさ」

 

俺がそういうと河童の少女はパタパタと走っていった。なんかジェットブーツみたいなので加速しながら。

その子がさっきまで触っていたものを見てみれば何やら奇怪な装置が置いてある。ボタンやレバーらしきものは見えるが何に使うものなのかはさっぱり分からない。河童の発明品って俺じゃ理解できないものも多いんだよなぁ…

 

「やあ定晴、久しぶりだね」

「にとりか久ぶ…!?」

 

にとりが、なぜか、銀色になっていた。ただの銀ではなく、所謂メタルってやつだ。はぐれメタルと融合でもしたのだろうか。

 

「驚かせてしまってごめんね。ちょっと実験で失敗しちゃって体が光沢を放つようになっちゃったんだ。しばらくすれば治るから気にしなくていいよ」

 

気にしなくて、と言われても気になるものは気になる。どんな実験を失敗すれば体全体が銀色になるのだろうか。やはりはぐれメタルの研究でもしていたのではなかろうか。多分はぐれメタルを頭から被ればこんな感じになるはずだ。

 

「それにしてもここにいるのは珍しいね。どうしたんだい?」

 

雛にした説明と同じ内容を話す。

天魔直々に俺を呼び出したという点には驚いていたがすぐに興味は薄れたらしく、すぐに俺の話題になった。

 

「河童に作ってほしいものとかあるかい?賢者様に怒られない程度のものなら外の世界のものだって再現しちゃうよ?」

 

賢者とは紫のことであり、紫に怒られない程度というのは現在の幻想郷にも適した科学技術のことを指す。

例えばスマホはNGだ。まあスマホが完成したところでネットワーク環境が整っていない幻想郷では無用の長物と化すが、それでもだめである。理由は、今の幻想郷には過ぎた技術だから。現代ではスマホは大人から子供まで幅広い年層で所持率が高いが、実際のところスマホがここまで普及したのは十数年前のことである。文明レベルで言えば精々明治時代が限界となる幻想郷ではスマホはまだ早い。

しかしながらゲーム機なんてのは問題なかったりする。まあ最新ゲーム機ではなくゲーム&ウォッチくらいの古いゲーム機だが。ここらへんの基準は幻想郷に流れ着いているかどうかで決まる。そして流れ着いたかどうかは基本的に香霖堂の商品でわかる。

 

「うーん、正直今の生活で苦しいとか大変だとか思ったことないんだよなぁ…元々外の世界でも現代技術で謳歌するような生活はしてこなかったしな」

 

仕事柄、野宿や狩猟は当たり前。狩猟免許を持っていて、なおかつこの能力がなければ野垂れ死んでいただろう。勿論スマホなどのデバイスは持っていたが使用頻度もそこまで高くなかった。今の幻想郷の生活と利便性は然程違いはない。

 

「あ、じゃあシャワーノズルかな。今使っているシャワーノズル、もうガタがきてて水の出が悪いんだ。今日は無理だが明日にでも持ってきて修理もしくは新しく作ってもらうことは可能か?」

「そんなこと余裕だよ。じゃあ明日待ってるからね」

 

にとりはそのままキラキラしたまま自分の工房へと戻っていった。周囲の河童たちもにとりのことを奇妙な目で見ているし、やはり気にしないなんて出来ない。

ともかくにとりと約束した俺は元の道に戻りさらに足を進めた。そして歩くこと二十分ほど。やっと天狗たちの長、天魔がいる屋敷へとたどり着いた。

 


 

天魔からの言葉は予想通りであった。前にも同じ事象で天狗たちが操られ俺に迷惑をかけたのに再度同じ過ちを繰り返しうんたらかんたら。

あの時は天狗だけではなく幻想郷中の妖怪が洗脳されていたのだから天狗だけが悪いわけではない。と俺は説明したのだが納得してもらえず、俺は結局妖怪の山の入山証をもらった。これを見せることで天狗たちに説明する手間なく妖怪の山に入ることができるらしい。中々に便利そうなものだったので俺は素直に頂くことにした。貰えるもので態度を変えるのもいかがなものかと思うが、まあ向こうは謝罪のためにこれを用意したのだし俺は悪くないはずだ。多分。

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