定晴さんが私に必要だからと人里に連れ出してくれた。
私はユズ。冬に保護されたからユズ。果物の方を意識していたらしいし柚子って書いてしまってもいいかもしれない。今の私は定晴さんのところに保護されているただの妖怪だ。
しばらくの間上手く体を動かすことができなかったけど紅魔館の美鈴さんにマッサージをされてからは調子がいい。まだちょっと定晴さんたちに言わないといけないことがあるのだけど、待ってくれると言うから少しだけ甘えさせてもらおう。
あれからもたまに美鈴さんの所に行ってマッサージを受けさせてもらっている。あの人のマッサージは的確で、効果が出ているのがはっきりとわかる。私もああいうことができればもっと役に立てるのかな…
「さて、買い物もそうだが人との関わりだとかそういうのも諸々含めて人里に来てみたわけだが…大丈夫そうか?」
「はい、問題ないです」
「んじゃ俺は予定もあるし、ルーミア頼んだ」
そういって定晴さんはどっかへ行ってしまった。どうやら仕事をしているみたい。
男性が一緒だと大変だろうからと今日はルーミアさんと一緒になった。別に私は定晴さんなら気にしないのだけど…
「じゃあ行くぞー!」
「あ、はい!」
ルーミアさんは外では幼い性格をするらしい。なにやら不動さんが色々と関わっているって言ってたけど、あまりここに来る前のことは思い出したくないので分からない。ただ、いつもはクールな感じなのに外では子供の言動をしているものだからなんだかギャップがすごい。ギャップ萌え、なのかもしれない。
「と、言ってもどこに行く?って初めて来て何があるかも分からないか」
「すみません…」
「謝ることじゃないよ。うーん、私なら大体ご飯屋に行くんだけど…何か欲しいものとかある?」
欲しいもの、欲しいものかぁ…正直言って今の私に必要な物なんて何もないんだけど。
服とか日用品とかは前に買ってもらったし、本だってなぜか定晴さんの家にはいっぱいあるから今のところ困ってないし…
「まあじゃあ適当に歩けば何か欲しいものが見つかるのだー」
そう言ってずんずん進みだすルーミアさん。やっぱりギャップ萌えである。
一応人里の中にはあまり妖怪は入らないようになってるらしいけど、ちらほらと妖怪らしき姿も見る。案外人間と妖怪の境目なんてどうでもいいのかな。
「あっちで妖怪が暴れてるってよ」
「慧音先生を呼べ!」
と思ったら走ってる人間たちがそんなことを言った。どうやら人間に害をなすかどうかで決めているらしい。私は定晴さんについてきただけで人里に入れたけど、それは定晴さんが信頼されているからだろう。門番の人にも明らかに私が妖怪であるとバレていたようだけど何も言われなかったし。
あ、さっきの人間たちが走っていった方向から光が。これは…定晴さんの霊力だ。きっと暴走していたという妖怪を鎮圧したのだろう。私自身もそれなりに強いと思っているのだけど…不動さんに操られていない状態だとどうなるかな。
「なんだか今日も平和ね」
「え?」
向こうで爆発があったにも関わらずこの光景を平和だと言い切るルーミアさん。なんというか肝が据わっている。こういうところは定晴さんにも似ているのかもしれない。
ルーミアさんが爆発などなかったかのように進むので私も気にしないようにしつつ道を進む。道中本屋やら食事処があったけど、やはり欲しいとは思わない。ふと、ルーミアさんが足を止めた。
「ごめんけどここに寄ってもいいかー?」
「はい、構いませんよ」
むしろルーミアさんに付いて適当な店に入った方がいいものが見つかるかもしれない。ルーミアさんが入ったのは服屋。幻想郷には元々呉服屋しかなかったらしいのだけど、最近は洋服を着る人も増えたおかげでこうして普通の服屋も存在している。
どうやらルーミアさんはおしゃれに気を使っているらしい。私は最近来たばかりだから分からないけど、どうやらルーミアさんがおしゃれを気にしだしたのはここ数か月かららしい。前はほとんど同じ服しか着ていなかったと聞いているし、実際ルーミアさんの部屋にある服は同じデザインのものばかりだった。しかしそれとは別にルーミアさんは普通の服を集めているのも私は知っている。
きっと定晴さんに意識してほしいんだろうなと思うけど口には出さない。ルーミアさんが封印を解くと大人状態になるらしいのだけど、その時のために大人用の服も集めているのがなんともかわいらしい。どうやら元々ルーミアさんが着ていた服であれば体の大きさが変わっても大丈夫らしい。特殊な服、ということなのだろう。
「うーん、良いのがなかったのだー。ユズは何か見つけたかー?」
「特にありませんね」
確かにかわいい服というのは女性として興味がないわけではないが、今は定晴さんが用意してくれた服で満足している。定晴さんはスタイリストをした経験もあるらしく凄いかわいい服を揃えてくれた。なんか本当に何でもできるんですね、あの人。
「じゃあ次だー」
ルーミアさんは気を落とした様子もなく道を歩き出した。
しばらく歩いていたら正面から定晴さんと一人の女性が歩いてきた。定晴さんは戦闘があったはずなのに全然汚れていない。
「あ、ユズ、挨拶しておけ。人里の守護者だ」
「そんな大層なことをしているともりじゃないんだが…私が上白沢慧音。君がユズだな?」
「は、はい!ユズと言います」
さっき通行人が言っていた慧音先生とはこの人のことだったのか。まさか女性だったとは思わなかったけど今思えば幻想郷の強者は女性であることが多い。
定晴さん曰く人里で過ごすなら必ず世話になるである人物らしい。あまり人と触れ合うのは得意じゃないのだけど…と思ったらこの人妖怪?
「ふむ、その顔はなぜ妖力を持つ私が人里にいるのかといった顔だな。私は半人半妖なんだ」
半人半妖…狼人間みたいなやつだろうか。私の知っている人物に当てはまりそうな人がいないので詳細は分からないものの、半人半妖だからこそ人間にも妖怪にも慕われるのだろうと思う。
「さて、私はこれから寺子屋で用事があるからな。定晴はどうする?」
「んあ?慧音がもういいってんなら俺はフリーになるが」
「じゃあユズと一緒にいてやれ。ルーミアもなんだかんだ顔が知られているが定晴がいたほうが対外的にも好印象だろう」
どうやら定晴さんの用事は慧音さんに関係することだったらしい。もしかしてさっきの暴走妖怪に関係しているのかな。
それにこれからは定晴さんが一緒に来てくれるらしい。なんだか嬉しい。
「んじゃ行くか。邪魔だと思ったら言えよ?」
「そんなことないです!」
ちょっと強く言い返してしまった。
その後は私とルーミアさん、そして定晴さんの三人で人里を巡った。結局欲しいものは見つからなかったけどなんとなく楽しかった。