東方十能力   作:nite

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二百二十三話 進歩、停滞

定晴さんと修行を始めて何か月経っただろうか。定晴さんの教え、というか指摘は的確でそれなのに伸び悩んでいるのはやはり私の努力不足だろう。それでも一応始めた頃に比べて純粋な剣戟で定晴さんに食いつけるようになったのは成長、なのだろうか。

 

「どうしたの妖夢そんな難しい顔して…お腹が減るわよ~?」

「それは幽々子様だけです。今日は定晴さんとの剣術修行じゃないですか」

 

幽々子様はなぜかやたらと食事をする。亡霊の体のどこにあれだけの量が入っていっているのか甚だ疑問ではあるのだけど、残すよりはよっぽどいい。食べるというのなら従者として食事を作るのみである。ただ幽々子様に対する食費のせいで白玉楼のエンゲル係数が常に常軌を逸する値になっているのは頂けない。

 

「ああ、定晴さんとの関わり方ね?大丈夫よ~妖夢は魅力的だから~」

「そうじゃありません!」

 

それと事あるごとに私と定晴さんをくっつけようとするのはやめてほしい。まだまだ半人前の私が恋模様なんかに現を抜かしている暇などないし、定晴さんも最近やたらと忙しそうだし…というか仮に私が誰かと婚約したら幽々子様はどうするつもりなのだろうか。少なくとも幽々子様の従者である以上誰かとそういう関係になることはないだろう。

 

「あ、彼が来たみたいよ~」

 

幽々子様の声で顔を上げると白玉楼の入口に紫様のスキマが開いていた。そしてそこから出てきたのは定晴さん、と…誰だろう、あの女性。身長は私とほとんど変わらないし髪色も私と同じ白色。それでいて髪が長いからなんとなく儚い印象を受けるけど…

 

「彼女はユズ。訳あって今は俺の家で保護してるんだ。修行の様子を見たいって言ったから連れてきた」

 

前に定晴さんに付いてきたルーミアさんみたいなものかな。あの時はまだルーミアさんが定晴さんの式神になってたことは知らなかったけど、もしかして彼女も式神に…?いやでも保護してるだけみたいだし…うーん?

 

「修行を始めようか」

「え、あ、はい」

 

ユズさんが幽々子様に連れられて縁側の方に移動した。あれ、幽々子様はどうやらユズさんのことを知っているみたい。ユズさんの方は困惑しているみたいだから幽々子様が一方的に知っているだけなんだろうけど…あまり他人に興味を示さない幽々子様が知っているなんてもしかして何かやらかしちゃった人なのかな。どうにも年末年始は冥界が忙しいのであまり幻想郷の方の情報は入ってきてないんだけど…

 

「んじゃ今日は前回課題になってた弾く動きからしようか」

 

定晴さんの指導が始まったのでユズさんのことは一旦置いておき、修行に集中する。

弾く動きとは所謂パリィ、らしい。多分外の世界ならわかりやすい言葉なんだろうけど、私からすれば普通に弾く動きと言った方が分かりやすい。実際定晴さんがそう説明したときに私が困惑顔を浮かべたものだから定晴さんも困ってしまってたし。

コツは敵の攻撃に完璧に合わせること。そして攻撃の意図を把握すること。どこにどう攻撃してくるのかを予め予測し構えることができれば文さんの攻撃ですら簡単に弾くことができるらしい。弾幕を斬るのは結構邪道とされているけど、定晴さんは結構その技術を多用している。

 

「斬るにしても弾くにしても攻撃に当たっているにも関わらずそれをなかったことにするわけだから相手にあまり良い印象を与えないのは理解しとけよ。だが実際先日の戦いで弾を斬ることで身を守ることもできたのは事実だ」

 

どうやら私が知らない間に定晴さんは異変に巻き込まれていたらしい。じゃあユズさんもそれに関係しているのだろうか。

 

「んじゃ俺が弾撃つから弾いてくれ。斬るなよ?」

「斬れませんって。どういうか、だめ、なんですか」

「後々のことを考えた結果だ。今は気にしなくていい」

 

よく分からないけど、練習にも段階があるからそれが関係しているのだろう。どのみち私は静止した弾じゃないと斬ることもできないからどうしようもない。

定晴さんが生成した弾は大体私の顔と同じくらいの大きさ。弾速はそこまであまり早くないので普通に弾く。弾く、弾く、弾く…あいたっ。

 

「緩急にも対応しろー」

「ぬうぅ…」

 

もう一度楼観剣を構えなおして弾をはじ…あいたっ。

どうやら見た目は変わらないけど密度が違う弾が混じっているようである。他のやつと同じように弾こうとしたら捌ききれずに腕に当たってしまった。

 

「はぁ…定晴さんよりも長い間剣術をしているはずなのに…自信無くすなぁ…」

 

ポロっと弱音を吐いてしまう。

私の先代、祖父はいともたやすく様々なものを斬っていた。斬れないものはあまりないこの剣だけど、やはり使い手の私が未熟だからか思いのほか斬れぬものが多い。祖父から聞いた話だといつかは時すらも斬ることができるというけど…先は長いなぁ…

 

「どうした?」

「あ、いえ、続けてください」

 

よし、弱気タイム終わり!

結局のところ続けるしかないのだ。剣術は時が解決してくれるようなものではない。私が成長しようとしなければ、ただ停滞のまま数十年、数百年が経過してしまう。私とて半人前とはいえ剣士なのだから中途半端のまま終わらせるつもりはない。それにわざわざ来てくれている定晴さんにも悪いし。

 

「はぁ…はぁ…」

 

その後約三時間ほど。完全に身に着けることができたわけではないが、ある程度形にはなった。

 

「お疲れ様です二人とも」

 

ユズさんが疲れた私の代わりに水を持ってきてくれた。今はそれに甘えてコップに入った水を一気に飲み干す。ふう、まだまだ寒い季節でありながら何時間もの運動で火照った体に冷たい水がしみわたる。

今まで何回か異変解決にも動いたことがあったけど、半人前を抜けるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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