時間よし。体調よし。寝る準備よし。
「さ、寝るとしましょ」
私の名前は宇佐見菫子。今日も今日とてベッドの中で刺激を求めて目を閉じる。
私は夢を通じて幻想郷という不思議な世界に入り込むことができる。実際に入ろうとすると巨大で強大な結界のせいで弾かれてしまって中々難しいのだけど、ちょっと昔に私が起こした色々の結果こうやって夢で入ることができるようになった。まあ少し危険な部分もあるんだけど。
超能力者の私は人間の中でも特別であり、ただの学校生活なんて退屈だ。授業中でも幻想郷に来るためによく寝ているから態度の評価は酷いことだろう。成績は落としていないから全然問題ないんだけどね。ちゃんと学校を卒業さえできれば周囲の目とか興味ないし。
今日は一日休みの土曜日。実のところ夜の間の夢でも幻想郷に行くのだけどまあこっちでも起きないと体に悪いってことで一応の朝ごはんだけを食べてまた眠る。二度寝なんて私にとっては初歩である。
「ん…あ、博麗神社だ」
いつ眠ったのか分からないが、気が付いた時には博麗神社の鳥居の下にいた。奥の方から霊夢の声がする。
「いつまでそこに突っ立ってるのよ」
「え?」
「ん?ああ、今来たのね。失礼したわ」
どうやら少し前からずっと私はここにいたらしい。
私の幻想郷に入るプロセスは幻想郷の賢者をもってしても異常らしいが、幻想郷にいる間の私もまた異常だ。なんせ私本人が幻想郷に入っているのではなく幻想郷にいる私のドッペルゲンガーに憑依しているのだから。まあ憑依っていうのもちょっと違うけどね。
「お茶でも飲んでく?」
「あ、飲む飲むー」
霊夢に呼ばれたので私は速足で縁側の方へ。霊夢がお茶を用意してくれているところを横目で見ながら今日のメンツを確認する。あうんちゃんと魔理沙、そして…誰?
「お?見ない顔だな」
「それはこっちのセリフよ。あんたこそ誰よ」
向こうも私を知っているわけではないようなので本当に初対面である。幻想郷で男性の知り合いだと香霖堂の店主さんくらいなんだけど…見た目は一般の日本人といったところ。霖之助さんもそうだけど顔が整っている。幻想郷の住人はみんなかわいいとかかっこいいばかりだから顔に自信のない私はちょっとだけ羨ましくもある。
「こいつは堀内定晴。私よりも強い純人間だぜ、多分」
「へー魔理沙よりも…魔理沙よりも!?」
私ほどではないが魔理沙も中々の実力者。私とて何度も負けている相手であり、そんな魔理沙が負ける相手など霊夢くらいしか思いつかないんだけど…
「というか多分ってなんだよ多分って」
「だってお前本当に人間なのか?私は甚だ疑問だぜ?」
「れっきとした人間だ」
どうやら魔理沙からしても人間離れした能力持ちということらしい。まあ彼も特別っていうことだろう。私には超能力があるから彼にも負けないだろう。魔理沙の戦闘スタイルはひたすらの火力だから相性というものもあるだろうし。
「あ、定晴さんに喧嘩をうるのはやめておいた方がいいわよ」
と思っていたら霊夢にまで警告をされた。
あうんちゃんは懐いているようだけど二人とも妙に警戒しすぎじゃない?ここまで警戒されているのって紅魔館の妹吸血鬼くらいしか思い当たらないのだけど。
「あなた、何したのよ」
「いや別に」
一応訊いてみたけど別に嘘をついているようには見えない。
「別に定晴さんが危険ってわけじゃないわよ。ただ私たちみたいな物量を持たない人だと相性が悪すぎるってだけよ」
物量?魔理沙も物量タイプなのではないのだろうか?
いまいち要領が掴めないまま霊夢が用意してくれたお茶を飲む。ああ、美味しい。
「少なくとも弾幕ごっこじゃない本当の戦闘においてなら今のところ幻想郷最強は彼かもね」
「そんなに?」
「俺だって勇儀みたいな純粋な力相手だと不利だぞ」
霊夢の言葉に定晴さんが反論する。しかしその反論は逆を言えば純粋な力ではない者相手であれば余裕ということか…なんだか妙に腹が立つ。他の人間をなめているんじゃなかろうか。
「確かに弾幕ごっこで言えば彼は中の上くらいよ。だってどういうわけか今の幻想郷で弾幕ごっこの経験の方が乏しいのだもの」
霊夢がそんなことを言う。現在の幻想郷では決闘方法が弾幕ごっこであり、それ以外の戦いはあまり行われていない。私とてあまり弾幕ごっこ以外はしたくない。鬼とかどれだけ重いものを飛ばしても無視して突っ込んでくるのだから恐怖以外の何物でもない。
「あなたって…変な人?」
「直球ありがとう。変ではない」
「変じゃないけど奇妙だよな!」
「それは変ということでは…?」
魔理沙の言うとおり奇妙な人なのだろう。
うーん、珍しく純人間ではあるけどあまり関わりたくないタイプだ。霊夢たちのようないわゆる異変解決組っていうやつだろう。
「なんで俺は初対面の人に警戒されなきゃならないんだ?」
そりゃ霊夢さんと魔理沙さんが警戒してるんだから私も警戒するでしょ。