東方十能力   作:nite

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二百二十六話 チョコレゐト

「あ、あの…ご主人様…」

 

朝、ごはんを食べ終わったらルーミアから声をかけられた。いつもと違い随分と緊張しているようである。どうしたのだろうか。

 

「えっと…これ…」

 

ルーミアがどこからか出したのは包装された小さめの箱。少しばかり甘い匂いがするがこれは…チョコレート?

 

「今日はバレンタインデーでしょ?それで、あげようかなって」

 

そういえば今日は二月十四日、外の世界でのバレンタインデーだ。

バレンタインデーにチョコを送るという文化自体日本独特のものではあるのだが、贈り物というものは海外でも行う。幻想郷は別世界のようになっているとはいえ日本の中にあるのでチョコを渡す文化も存在しうるのかもしれない。

 

「ありがとな、受け取るよ」

「日頃のお礼よ。些細な、ね」

 

それだけ言ったらルーミアは席を立ち部屋へと速足で戻っていった。いつもは部屋なんて使わないのに珍しいな…と思っていたらユズからも声をかけられた。

 

「一応ルーミアさんの手伝いで私もチョコを作ってみました。受け取ってください」

「ああ、ありがとう」

 

どうやら俺の知らない間に二人とも手作りでチョコを用意してくれていたようだ。幻想郷に来てからは俺が家にいる時間も増えたが、それでも外で活動する機会も多いので家を空けがちにしている。俺が出かけている時間に作ったのだろう。道具とか材料とか動かした痕跡に俺が気付かなかったということは相当隠すための努力をしながら作ったと思われる。

 

「そういえば去年は幽香から押し付けられたんだよな…」

 

思い返すのは去年のバレンタインデー。あの頃はまだルーミアが式神ではなかったし、そこまで外に出なかったので家に直接押しかけてきた幽香と紫くらいからしか貰わなかった。告白されたあとに思ってみると幽香にとってバレンタインデーは逃せないイベントだったのだろう。幽香はたまに外の世界に出ているというしそこでバレンタインデーのことも知ったのだろう。

今年はどうだろうな…ちょっとまだ気まずい感じではあるんだけど…まあ自分から行くようなものでもないから待っておくことにするか。

ユズも部屋に戻って俺一人になったリビングルームでコーヒーを飲んでいたら少し顔が赤いままのルーミアがやってきた。

 

「別に特別な意味はないんだけど、恥ずかしいわね」

「まあそういうものだろバレンタインデーなんて。というか幻想郷にはそういう文化は広まってるのか?」

 

俺が尋ねてみると、どうやら広まり方はそれなりといったところらしい。幻想入りした人間というのは俺だけではないのでそういった人が伝えることもあるし純粋に外の世界の文化に興味を持った妖怪がなにかしらの経路でバレンタインのことを知ることもあるらしい。ルーミアの場合は幻想郷にやってきた外来人から聞いたらしい。

 

「まあご主人様のことだからいっぱい貰うだろうけど」

「それは期待しすぎじゃないか?」

「…それなら、いいんだけど…」

 

それだけ言うとやっぱり部屋に戻っていった。

今にして思えばバレンタイン以外にもハロウィンとかクリスマスとか、本来の日本にはない文化が幻想郷に流入しているのは結構あるのでバレンタインが流入していても不思議ではない。

と、そこでドアが叩かれた。インターホンならあるがまああまり使ってもらえない。

ドアを開けてみるとそこには紫の姿が。

 

「紫?」

「ほら、今日ってバレンタインでしょ?だからチョコレートよ!」

 

どこか緊張した様子の紫。いつもならスキマを家の中に直接開いてやってくるというのにドアから入ってきて、インターホンを知ってるのにノックをしているあたりあまり冷静ではなさそうだ。

 

「ありがとう紫」

「ええ!ええ!私の気持ちよ!」

 

それだけ言ったら紫はスキマの中に逃げ込んでしまった。ルーミアといい紫といい、必要なことだけしたらさっさと退散してしまう。そんなことで俺はなんとも思わないので全然構わないのだが。

ふと上から声が聞こえた。

 

「ふむ、やはりリア充はここにあったか…」

「うわっ!ミキ、いつの間に…」

「紫がここに来たときくらいかな。メイドたちからチョコ貰いまくって疲れたからお前の様子を見に来た」

 

いつの間にやら屋根の上に座っていたミキ。その手には従者から貰ったのであろうチョコレートがある。ミキは俺の幻空など比べ物にならないくらいの空間を作れるのできっとそこに他のチョコも置いてあることだろう。

 

「何の用だよ」

「見に来ただけだって。まああとはからかいに来た」

「帰れ!」

 

そしてそのまま姿を消したミキ。どうせまだどこからか見てるのだろうけど気付くことができないのでどうしようもない。

俺の声に驚いたのかユズが後ろから声をかけてきた。

 

「えっと、大丈夫ですか?」

「ああ心配いらない。害虫を追っ払っただけだ」

 

ユズとそんなやり取りをしていたら近くに人の気配がした。そちらを見てみるとおずおずとした様子の幽香が立っている。

 

「幽香?」

「えっと…分かってると思うけど、はいチョコレート。もちろん貴方にだけのね」

 

きれいにラッピングされているチョコレートの箱は可愛らしくデコレーションされており、幽香が手間暇かけて作ってくれたことがよく分かる。

 

「それじゃ私はそれだけだから。返事、待ってるわよ」

 

そしてそのまま日傘を差して飛んでいってしまった。

なんというか、こういうことをされると返事に困ってしまう。今の俺は恋愛などできそうにないし正直なところこれ以上幽香を困らせないためにも断る方がいいと思うんだが…

と、思っていたらすぐ横で幽香を見ていたユズが俺の服を引っ張った。

 

「ちゃんと考えて。しっかり」

 

諭されるように…いや、実際のところユズからの軽い説教なのだろう。もっとよく考えろってことか…

 

「定晴さんは妖怪と人間の恋愛は成立すると思いますか?」

 

ユズからポロッと口にした言葉。あの日の宴会で幽香が俺に問うてきた質問。

なぜユズが…と思うが、きっとたまたま思っただけだろう。しかしそのたまたまが今、俺の言葉を奪ったのだった。

 


 

ご主人様にチョコレートを渡すことができた。そして今は恥ずかしさのあまり寝るとき以外滅多に使わない自分の部屋のベッドの上で固まっている。

 

「ふふっ…」

 

羞恥心はマックスだというのにご主人様からの言葉を思い出しては笑顔になってしまう。ああもう!私はそんな乙女な妖怪じゃないでしょうに!

と、足をバタバタしていたら気がついた。なんだか外の雰囲気がおかしい。なんというか不純物が混ざっているような…

なんとなく胸騒ぎを覚えつつ、ご主人様の言葉を脳内で反芻させたためにそんなことすぐに忘れてしまうのだった。

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