二百二十七話 賽の河原
バレンタインも終わり数日後、俺は珍しく霊夢に呼ばれて博麗神社に来ていた。
「いらっしゃい定晴さん」
「こんにちは定晴さん」
俺が居間で待っていたら霊夢と水那が現れた。そして霊夢の隣に見慣れないものが浮いている。これは…幽霊だろうか。妖夢のいる冥界にいる幽霊とは違うような気がするが…
俺が疑問に思っていたら霊夢が口を開いた。
「こいつのことも含めて説明させてもらうわね」
紫もいないのは本当に珍しいなと思いつつ、霊夢の説明を聞く。
曰く、霊夢の隣に浮いているのはカワウソの霊だと言う。現在非常に多くの動物霊が三途の川の更に奥にある地獄から幻想郷を支配するために侵入してきているらしく、このカワウソの霊はその暴走を止めるためにここに来たようだ。霊がよく見られるようになったというのは藍から聞いていた話であるし、少なくとも幻想郷に多くの動物霊が攻め込んできているというのは本当なのだろう。個人的になんとなくこのカワウソは胡散臭いのだが、こいつ以外にソースもないので取り敢えず今は信じるとしよう。
霊夢はこれからその三途の川の向こう側に乗り込むので俺にも同行してほしいそうだ。なお水那は緊急要員として博麗神社で待機とのこと。
「貴方がいれば私はそれなりに楽できるしね。式神のルーミアも連れてきていいけど…ユズのこともあるからその点はそちらに任せるわ」
地獄には今もふよふよ浮いているカワウソの霊が案内してくれるらしい。
霊相手だし俺の浄化の力を使えばそこまで苦はしないような気はするが…ルーミアたちには留守番してもらおうかな。ユズはまだそこまで戦闘できるわけではないし、ルーミアが傍にいてくれた方が心強いだろう。なんというか、久しぶりの弾幕勝負なのでちょっと緊張気味。
「まああまり心配しないでちょうだい。私がいるんだから」
博麗霊夢、博麗の巫女。異変解決のプロフェッショナル…確かに心配するような要素はないな。
異変解決なんだからもっと人員を増やしてもいいとは思うのだけど、霊夢曰く魔理沙たちは競争相手らしい。じゃあなんで俺はいいのか聞いてみると俺には依頼の形にしておけば最終的な手柄は霊夢に回るからだという。外の世界ならいざ知らず、幻想郷では別に名声を欲しているわけではないし全然いいのだが…なんとも打算的というか…霊夢らしいと言えば霊夢らしいのかもしれない。
「今日中には出発するわよ。三十分以内に準備を整えて三途の川のところまで来なさい」
地獄に行くにはいくつか世界を跨ぐ必要があるらしく、まずは三途の川から向こう側まで飛んでいかないといけないらしい。三途の川は飛んで渡れないと聞いていたが、カワウソの霊がいるからだろうか。
いつもとは違い早速準備を始めた霊夢を横目で見つつ俺は一度家へと戻った。
「と、いうわけで俺はちょっくら地獄なるところに行ってくる」
家に戻ってすばやく要件を二人に話した。
「一応聞いておくけど、異変関係かしら?」
「ああそうだ。ルーミアにはユズの傍にいてほしいからここで留守番な」
ユズは首を傾げているが、ルーミアには伝わったようだ。ルーミアがいれば大体なんとかなるし、この家自体にも結構な術を施しているから簡単には襲われない。ユズは戦闘慣れしていないわけだしルーミアには護衛として役立ってもらうつもりだ。とはいえ俺も数日空けてくつもりはなくすぐに戻ってくる予定だけど。
「というわけで俺はもう出るから」
だって必要なものは大体幻空の中に入れてるし。
「ええ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ定晴さん」
飛ぶこと十数分。三途の川へとやってきた。今日は…小町が寝ている様子はないな。
「あ、こっちよ定晴さん」
妙にぽわぽわしている霊夢に声をかけられて近くに降り立つ。あれ、霊がいないな。
「カワウソは今の私に憑依してるの」
「それ大丈夫なのか?」
「力も上がったしなんも問題ないわ、なんか気分がふわふわするけどね」
いつもの霊夢の鋭利さがない。狐憑きも性格が豹変するというしカワウソの霊が憑依したことで性格に影響を与えたと考えていいだろう。霊夢は神降しができるというし憑依程度のことで問題が起きるということもないだろう。
「にしてもここは苦手だわ」
「そうか?俺は少なくともこの景色は好きだけど」
霧がかって向こう側が見ることができない三途の川。映姫や小町は地獄の方から来ているというし普通に陸があるのは確かなんだろうが…
と、霊夢がある方向を指差した。
「あれ見える?」
そこでは数人の少女がせっせと小石を重ねていた。ここは三途の川であるし、ということはあそこが賽の河原…
「死んだ子供たちが小石を積んで、でも途中で崩れて…その繰り返し。見ていてなんとも言えない気分になるの」
「それは…そうだな…」
三途の川は元より冥界も本来は生きている者が入ることはできない。幻想郷はそのどちらも繋がっているので奇跡的に見ることができるだけだ。死んだ後の世界がどんなものか、それを知ることができるのははたして良いことなのだろうか。
「む、定晴さん。三途の川を渡る前にちょっと体を動かすわよ」
見れば動物霊がふよふよ浮いている。まだなんかしたわけではないが…増えすぎても困ると言うし浄化させていただこう。
「定晴さん、浄化の力は抑えめにね」
「分かってる」
そして同時に弾幕を展開する俺と霊夢。それに反応したのか動物霊たちも弾幕を撃ってきた。
いつものように弾を躱しつつ攻撃を繰り返す。俺たちがこんなところで弾幕ごっこをしてしまっているが積石は大丈夫だろうか。
戦闘時間は約五分。動物霊を追い返したところで近くに別の気配を感じた。
「よくも子供たちの作品を…!仇をとってやる!」
出逢って早々、怒り心頭である。