現れたのは福耳を持った少女。随分とお怒りの様子だが、言葉の内容から察するにどうやら流れ弾が子供たちが作っていた積石にぶつかってしまったらしい。
「あら、あんた誰よ」
「私は戎瓔花。こんなところで弾幕だなんて迷惑だと思わないの?」
「思わないわ。だって必要なことだもの。邪魔するっていうならあんたも倒す!」
霊夢と瓔花が衝突した。
こういうときの弾幕ごっこは一対一が基本なので俺は距離を取る。ついでにこれ以上積石に被害が出ないようにそっちの方向に結界を張っておく。
そういえば霊夢の異変解決法を見るのは初めてだな。怪しい奴も邪魔する奴も黒幕も全部ぶっとばすが霊夢や魔理沙の異変解決方法らしい。戦闘の回数が増えるわけだし霊力も消費すると思うんだけどよく今までその方式でなんとかなってきたなと感心してしまう。
瓔花がスペルカードを宣言した。だが対する霊夢は特に苦労する様子も焦る様子もなく淡々と弾幕の隙間を搔い潜っていく。なぜか弾幕ごっこの回数が少ない俺だが、素人の俺から見ても霊夢の躱し方は美しい。弾幕ごっこはその美しさを最も重要視しているので霊夢はやはり弾幕ごっこのプロフェッショナルなのだろう。
「鬱陶しいわね」
霊夢もスペルカードを宣言。十八番である夢想封印が炸裂した。色とりどりの大きな弾は瓔花に吸い寄せられるように飛んでいく。
霊夢は通常攻撃の時点で敵を追尾する。昔飛ばしているお札の名前を訊いたことがあるが、ホーミングアミュレットと言っていたしデフォルトである効果なのだろう。絶対に逃しはしないという意思なのか狙いをつけるのが面倒だからなのかは分からないが、追尾式なのは戦闘が早く終わる要因の一つとなっているだろう。
「ふきゃっ!」
その証拠に、瓔花が今墜落した。多分今回の異変にはなんも関係ないんだろうけど、霊夢に喧嘩を売ってしまったのが悪かったな。
「さあ行きましょ」
ボロボロとなった瓔花を無視したまま進もうとする。三途の川はあまり妖怪が来ないからと言って放置するのはどうなんだろうか…一応軽く再生をかけて傷を癒してあげたあとに霊夢についていく。俺は地獄への行き方を知らないので霊夢に置いて行かれるわけにはいかないのだ。
瓔花にちょっと申し訳なく思いつつ俺たちは賽の河原を後にしたのだった。
「どこから行けばいいのかは分かってるのか?」
「一応ね。流石の私の地獄に直接行くのは初めてだから聞いておいたの。もうちょっと向こうよ」
賽の河原を抜けて向こう側へ。
三途の川といえば少し考えていることがある。三途の川に端はあるのか否か。
幻想郷に海がないのは幻想郷内でも周知の事実だし、紫が秘密裏にしていない限り今後も繋がらないだろう。しかし川というのであれば確実にどこかへ流れているはずだ。一応俺も昔興味本位でひたすら同じ方向に川岸を進んでみたことがあるのだが行けども行けども同じ光景が続いており帰れなくなる前に引き返したのだ。明らかに幻想郷の幅を超えていたような気がするが、ここはある意味一つの別世界と化しているのでそこはあまり疑問ではない。
俺の仮定としてもしかしたらめちゃくちゃに横に長い湖だったりするのではないかと考えている。罪の重さと特殊な金銭に応じて死神が霊を運ぶ距離が変わるというのは事実らしいので案外伸縮自在の湖である可能性も否めない。形が変わった時に変形した分の水は一体どこに行っているのだろうかという疑問は残るが…不思議な力だからと考えるのをやめるのはしたくないので機会があれば映姫とか小町に訊ねてみようと考えている。
閑話休題
「ここよ。行きましょ」
「了解」
霊夢が立ち止まり三途の川の上を飛び始める。
俺は未だに霊夢に憑依しているカワウソの霊を信じることができていない。霊夢も霊夢で全てを信じているわけではないようだし多分博麗の勘的にも何か怪しいものがあるのだろう。カワウソからは今のところ嘘とわかる情報は貰っておらず、残りは確かめようのないものばかりなのでどうしようもない。しかし多くの真実の中に嘘を一割混ぜることでその嘘すらも本当のように思わせるという話術も存在するので油断はできない。
「定晴さん、飛んでくる動物霊たちは適宜ぶっとばしましょ」
「だな」
三途の川の上をなぜ霊が飛べているのかは不思議だが死者の霊というわけでもないようだし普通の霊とは違うのかもしれない。やたらと多く飛んでくるので俺もやりすぎない程度に浄化させていく。
俺たちは霊じゃないのでどれくらい飛べばいいのか分からないが霊夢が何とも言わないので多分大丈夫だろうと信頼し霊たちを浄化。しばらく飛んでいると前方に何やら人影を見つける。
「霊夢、止まれ」
「分かってるわ。こんなところに人だなんて怪しいの一言ね」
それを言うと俺たちも全然怪しい人たちになるんだが。
「ほう、こんなところに人間ねぇ。こっちは彼岸だから幻想郷に戻りなさいな」
「そういうあんたは…牛鬼かしら?残念ながら私たちの行先は彼岸で合ってるから通しなさい」
近付くことでその姿をはっきりと視認することができた。
赤い角に黄色い服。霊夢がなぜ一目で牛鬼だと判断できたのかは分からないが、まあ霊夢が言うのだから間違っていないのだろう。
牛鬼は日本全国で文献として残っている妖怪の一人だ。ただその内容は場所により大きく異なり、人間を襲うところがあれば神聖な生き物として崇められていることもある。俺はまだ交戦経験はないが、名前に入っている通り鬼の如き怪力を持つらしいので勇儀と相性があまり良くない俺は牛鬼とも相性が悪いかもしれないな。
「流石に渡らせるわけにはいかないでしょ」
「ふーん、邪魔するのならあんたも水の中に落としてあげる」
「上等よ。遠慮なく古代魚たちの餌にしてあげる!」
瓔花との戦闘の直後だと言うのに始まる戦闘。霊夢の邪魔するなら問答無用でぶっとばすの精神が影響しているようだ。ただ、霊夢は憑依されている影響で性格が少し穏やかになっているので口調がいつもより穏やかな気もする。
取り敢えず俺は戦闘に巻き込まれないように。あと先ほどのような事故が起きないように周囲に結界を張っておく。一応今回の俺の役割は霊夢の補助なので事後処理が面倒にならないように配慮しておくべきだろう。
俺がそんなことを考えている間に牛鬼と霊夢の戦闘が始まった。