俺と霊夢、そして完全に回復した魔理沙は八千慧の案内で畜生界なる世界へとやってきていた。ここは地獄の更に奥、更に下に存在する世界らしく霊夢も詳しいことは知らないらしい。幻想郷は広くなく狭くない世界だと思っていたのだがそれ以上に広いような…あ、ここは幻想郷じゃない?
霊夢曰く三途の川からこっち側や冥界などは厳密には幻想郷ではないそうだ。本来は分かつための結界があるのだが三途の川は行き来のために存在せず、冥界と幻想郷の間の結界は春雪異変以降ずっと修復していないそうだ。結界の修復担当は紫のはずなんだが…まあ紫自身は幻想郷に住人が増えることを喜んでいるようだし放置を決め込んでいるのであれば俺たちは何も言うまい。というか言ったところで動くかどうかわからないし。
「本当にこっちなんでしょうね」
霊夢が怪訝な顔で八千慧に問いかけた。ずっと風景が変わらないから罠に嵌められたのかと思ったのかもしれない。それに対する八千慧の返答は淡泊なものだった。
「すぐです」
この地獄のときも思ったが似たような場所が多いためどうしても距離感が分からなくなる。勿論移動をしているのは体感で分かっているから変な術にかけられてさえいなければ今のところ順調と言えるだろう。
ただすぐだと言う割に目的地らしきものは見えないし、暇なので疑問を一つ魔理沙にぶつけておく。
「そういえば魔理沙」
「ん?なんだ定晴」
「魔理沙はどうやってここまで来たんだ?」
彼岸には妖夢もいたが、彼女は半人半霊なので多分存在も曖昧なのだろう。こっち側にいてもあまり不思議ではない。しかし魔理沙は魔法使いを名乗っているものの種族的には人間だ。普通に生きている者は基本的にこちら側に来ることができないと思うが…
「実は私のところにオオカミの動物霊が来て助けてくれーって言うからさ。私も未だに実態は把握してないが、面白そうだから来たんだぜ。因みにそいつは今私に憑依している」
どうやら方法は霊夢と同じだったようである。確かカワウソの霊は自分のことを他の動物霊とは違いいい動物霊なんだと言っていたようだが…まあ同じ思想を持つものをいくつかの場所に分けて配置し戦力を集める足掛かりにするというのは比較的分かりやすい手である。
カワウソやオオカミの動物霊の目的が戦力となる人間を集めることだとすれば霊夢にも魔理沙にも会うことができたのは上々であったと言えよう。
「この先です。ここからは私は行きませんので」
「なんでだ?」
「それが仕事だからです」
なんとも淡泊というか…まあずっとこの調子だしいいか。
ふと魂の声が聞こえてきた。この声は…安心と信頼の狂気だな。いやまあ狂気が声をかけてきているといいうことは安心できる状況ではないのだけど。
『どうしたんだ?』
『そいつ。まあまあ負の感情を溜め込んでるぞ。案外黒幕の一人かもな』
淡泊に見えるのは負の感情を隠しているから…?よく分からないし俺は何とも思えなかったが狂気が言うのであれば気を付けておこう。ここで別れるようだからあまり気にしなくてもいいのかもしれないが。
「じゃあ魔理沙、定晴さん、行きましょ」
霊夢が先陣を切り俺たちがそれに追随する。
振り返ると既に八千慧の姿はなく、代わりに動物霊が複数追ってきていた。非常に厄介である。
「二人とも、後方注意だ」
「それくらい言われなくても動物霊がいるのには気が付いているわ。定晴さん、よろしく」
なぜか霊夢に丸投げされた動物霊の処理。まあ仕方ないので軽く返事をしてそれを承り俺は結界を展開した。幻想郷には強い力を持つ妖怪も多くいるのであまり目立つことがない結界だが、動物霊に対しては効果がありいい感じに囲うことでいくつかの箱を形成した。中にはそれぞれ追ってきていた動物霊とついでに近くにいた動物霊を巻き込んでいる。
結界には俺の霊力が流れ続けているのでサブ端末のような扱いができる。俺は結界に浄化の力を付与して、その後強めに浄化の力を流すことにした。人間からすれば何ともない空間だが、妖怪のように浄化の力に弱い者からすれば突然毒沼の中に落とされたようなものだ。みるみるうちに中にいる動物霊たちは浄化されていき、最後には何も残らなかった。
「これでどうだ?」
「なんというか…惨いわね定晴さん」
「幻想郷の中でそれを使うと確実に危険人物認定されるから注意しておけよ!」
霊夢と魔理沙両方から微妙な表情を頂いた。やはり妖怪と密接に暮らしている二人からしてもこの結界はやりすぎだろうか。今の出力でやっても紫とか幽香相手だと動きを封じる程度にしかならないし、なんなら結界を弾き返すくらいならできる気もするが…まあ大妖怪レベルがそんなにぽんぽんいるわけではないし気をつけろってことかな。基本的には人も妖怪も相手を完全に殺してしまうのはよくないことだし。
「でも魔理沙のマスタースパークでも似たような結果にならないか?」
「私のやつは破壊力に重点を置いているからな。生命相手であれば消えてなくなるってことはないはずだぜ」
マスタースパークを撃ったあとの地面は抉れて何も残っていなかったような気がするが…流石に地中にいるミミズやらなんやらに対しては考慮していないのだろうか。というか破壊力があるなら猶更妖怪だけでなく人間にも効果がありすぎるような気がするのだけど…
俺はなんとも言えない気持ちになりながら二人のあとについていった。
定晴くんはもたらす結果はあまり変わらないのに浄化の力だけ疎まれることが不満らしいです