妖夢と戦闘をしたあの日の以降、俺は定期的に紫のスキマによって白玉楼に行き妖夢に剣術を教えることとなった。紫が忙しい時は藍が送ってくれるらしい。どのみちスキマを通るだけなので誰が送ろうが変わらない。
そんなこんなでその翌日…俺は家でゴロゴロしていた。掃除とか洗濯とか、家事を終わらせて手持ち無沙汰である。
「なんかやることあるかなー」
つまり俺は暇なのである。幻想郷で主要な場所は行ったしもう行く場所はないかな~っとここで俺はまだ到達できていない場所を思い出した。幻想郷に来た初日に見たものの、未だに入ることすら出来ていない領域…
「妖怪の山に行ってないな。でもあそこ紫が言うには簡単に入れそうにもないし…まあ行ってみるか」
これで今日の予定が決まった。帰りに人里で買い物をすれば夕食の準備も出来るっていう算段だ。これで予定を一度に終わらせることが出来る。
「やっぱり妖怪の山だけ他の山より断然大きいよなぁ…シンボルマークみたいなものか?」
幻想郷、霧の湖上空。そこからでも見えるその山は明らかに周囲の山より大きく、また妖力も多く感じ取れる。この距離からも妖力を認識できるって相当だぞ。大妖怪のほかに、弱い妖怪たちも住んでいるため妖力溜まりとなっているのだろう。
今日は霧が晴れているようで、湖で遊ぶチルノ達がここからでも見える。いつもの皆と鬼ごっこをしているようだ。霧がなければただの追いかけっこである。
『妖精にしてはなかなか強い力を持っているんじゃないか?』
狂気がそんな事を話す。ミキと再会した日から狂気の力が安定したようで、たまにこんな風に話し掛けてくる。狂気との会話は心の中で思ったことが伝わるので、周りから見ても変な人には見えない…はずだ。何で安定したのかは俺でもよく分からん。多分神力に当てられたんだろうけど、実際は不明である。
『チルノはここら辺の妖精のリーダーのようなものらしいぞ』
『氷は使い方によってはとても強い力を発揮するから、妖精たちをまとめやすいだろうし適役だと思うな。まあ奴はそれを計算したわけではないのだろうがな』
狂気はその個体が持っている力を感知するのがとても上手い。だから狂気がいる限り不意討ちを受けるつもりはない。勿論ミキみたいに真後ろに直接出てくるのは感知不可能だが。
チルノの勢力構造を少し考察したあと俺は妖怪の山の麓へ向かった。
その後は特に何もなく妖怪の山に到着した。勿論力を抑えている。だって力を出したままだと毎回怪しまれるから。これ以上戦闘するのも面倒なので空いた時間で霊力制御の練習をした甲斐があるというものだ。
俺は山の麓にいるわけだが、なるほどこりゃでかい。前来たときは紫と一緒だったし、直ぐにここは離れたからよく見ていなかったのだ。
「入れるかな…」
とりあえず山の中に入っていこうとする、がそこで待ったの声がかかる。
「ちょっと待ちなさい!」
やっぱり止められるよな。分かり切ったことだったけど。紅魔館や白玉楼よりも警備は厳重だと聞いている。
声は後ろからする。俺はゆっくりと体の向きを変えながら声の主と会話する。
「貴方ここが何処か分かっているの?」
「そりゃ妖怪の山だろ?」
「そうよ。沢山の妖怪がいて危ないから帰りなさい」
振り返るとそこには一人の少女がいた。なんか距離が遠いけど。
会話するのには問題ないかもしれないが、社会的にはあまり推奨されない距離だ。なんとなく相手に失礼な印象を与えかねないとして嫌われている距離感だ。
「何でお前はそんな遠いところから話しているんだ?」
「私が近付いたら厄に見舞われるのよ。だからこの距離から喋るの」
中々面白い話だ。外の世界だと被害妄想だと笑われるが、この幻想郷では基本的に本当のこととなる。
「となるとお前は…厄人形か厄神なのか?」
「まあそんなところね。取り敢えず早く帰りなさいよ。そろそろ見回りの天狗が来ちゃうわよ」
この子はどうにかして俺を帰したいようだ。しかし俺もこのままだと暇するので山には入りたい。暇だから俺は刺激を求めている。
ということで少女の言葉を無視して入ろうとしたら弾幕撃たれた。
「話聞いてた!?何で入ろうとするのよ!」
「だってこのままだと俺暇になるからな」
「暇潰しに入ろうとするって…」
山に入るにはこの子を説得しないといけなさそうだ。
という訳で会話しやすいように俺は厄神に近付いていく。厄神だか厄人形だか知らないけども、俺にとってそれは些細なことでしかない。
「ちょ、ちょっと何で近付いてくるのよ」
「遠いと互い話しにくいからな」
俺が尚も近付くと少女は後退りをしながら焦った声を出す。
「でもそれじゃ貴方に厄が移っちゃう」
「そんなこと、
少女の言った通り、少しずつだが俺の周囲に厄が集まってきてるのを感じる。その瞬間俺は能力を使う。浄化の力だ。すると厄がどんどん消えていく。
「嘘。今までこんなこと無かったのに、な、何で…」
少女は竦んでしまっているのかその場で止まってしまい、とうとう俺は少女の前まで来た。
「なあ、どうしても俺はこの山に入りたいんだ。お前はもしかしたら見張り役みたいなものなのかも知れないけど、それを承知で頼む。駄目かな」
「あ、う…」
狼狽えている。怖がっているのだろう。そりゃそうだ。妖怪と人間は基本的には分かりあえないとされているし、急にこんな風に接近されれば怖くなる。
俺は今、所謂圧迫面接みたいなことをしている。
「ねえ、貴方名前は何て言うの?」
「俺か?俺は堀内定晴だ。そっちこそ名前なんだ?」
「雛。鍵山雛、よ」
そこまで言って雛がうつむく。少し耳が赤いのは怖いからだろうか、それとも考え事をしているのか。
もしかしたら人間に慣れていないのかもしれない。妖怪の山は有名だろうし、人里のやつらもそう易々と近づかないだろうしな。
「も、もうどうなっても知らないんだから!」
そう言うと雛は走っていってしまった。
取り敢えずは大丈夫、かな?行っていいよとは言われなかったが、俺を止めずに走っていってしまったのだから実質許可されたようなものだ。
そして俺は妖怪の山に足を踏み入れた。
そりゃ、人間相手にだってあまり会話しないしあそこまで異性に接近されるのなんていつぶりだろう。同性にすら近寄ってもらえないし近寄ろうとも思わない。それなのに彼はあんなに近くまで…
「~~~~!もう知らない!」
こんな簡単にドキドキしてしまうのは、慣れていないから。だからと言って他の人にあそこまで近づくなんて危険すぎる。そもそも男性の知人なんて男の天狗か香霖堂の店主だけだ。
でももう一度彼に会いたいなんて…そんなこと…もっと話を…
「~~~~~!」
自分の家でそうやって床をボフボフしてた厄神がいたとかいなかったとか…