東方十能力   作:nite

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二百四十六話 宴会【鬼形獣】

異変解決から二日後。いつものように宴会が開かれていた。動物霊異変?語呂が悪いな…動物異変?なんか幻想郷の野生動物が暴走したみたいになったな。

異変に関わってなかったやつらが参加して騒ぐのはいつものことだが、一応異変を起こしたやつらを快く迎え入れるためのなんちゃらを兼ねているので異変関係者は大体参加している。異変関係者というか、霊夢や魔理沙にぶっとばされたやつらの被害者の会みたいなものだけど。

 

「妖力が…妖力が…」

「どうしたんだ早鬼」

「なるほど…確かに妖力が強いやつらがいっぱいだな」

 

料理を作って少し遅れて参加したら早鬼が青ざめているのを見かけたので声をかける。一応強いやつらはいっぱいいることを先日伝えているはずなのだが…信じてなかったのか。

 

「これは動物霊だけじゃどうしようもなかったか…」

「そういうことだ。そもそも動物霊でなんとかなってた場所なんてなかったと思うんだが」

 

敢えて言うとすれば人里だろうか。あそこに住む人々なら動物霊だけでもなんとかなったのかもしれない。しかし人里の守護者である慧音以外にもなんだかんだ人里に愛着を持っているミスティアみたいな妖怪もいるので結局だめだったと思う。

 

「まあでもそもそも当初の目的は畜生界だったんだけど」

「あれ、そうなのか?」

「少なくとも八千慧のとこはそっちを目的にしてたみたいだぞ。その目論見は外れたみたいだけど」

 

どうやら霊夢を使って袿姫を倒してもらって畜生界を支配するという算段だったらしい。だから幻想郷に送り込まれた戦力が小さかったのか。本気で幻想郷を支配しようとしたのは早鬼だけらしい。

 

「因みにその八千慧はどこにいるんだ?」

「さあ?」

 

早鬼は知らないらしい。あの大結界について聞きたいのだが…

 

「あ、こんにちは定晴さん」

「袿姫、それに磨弓もいるな」

 

俺たちと別れたあと、袿姫は磨弓を見つけることができたらしい。霊夢同様ぐったりしているところを見つけて必死に神力を流し込んで助けたようだ。

 

「袿姫はこっちに来れたんだな」

「動物霊の侵攻が止まったからね。人間霊たちを守るというのが無くなったわけじゃないけどある程度は自由になったわ」

 

畜生界はじめじめしてたしあそこにずっといるのは精神に悪いだろう。幻想郷はこれでも日本の原風景なわけだしリラックスできたらいいな。人間霊はこれからも袿姫が力を集めるために利用されるだろうけど、頑張ってくれとしか言えない。

俺が袿姫と話しつつ、まだ言葉を交わしたことがなかった磨弓とも会話していたら横から別の神様の声が聞こえた。

 

「おうおう!あんたが新入りの神様だね?」

「私は洩矢諏訪子。こっちのでかいのが八坂神奈子。幻想郷の先輩神様として色々と教えてあげよう!」

 

守矢神社の二柱が新人に絡みに来たようだ。言動とか動きが新人アルバイターをいじめる先輩みたいな構図になっててなんとも言えない気分となる。外の世界で様々なバイトに関わってきたためこういう出来事も少なくはなかったのだ。

 

「え、私は…」

「まあまあ、取り敢えず話そうか」

 

神奈子に引っ張られて袿姫が連れて行かれた。その後ろを磨弓を引っ張っている諏訪子がついていく。明らかにカツアゲの構図だが、二人は悪い神じゃないから大丈夫…と信じたい。これがミキ相手なら問答無用で吹き飛ばすのだがなぁ…

 

「あはは…すみません、話してる途中にお邪魔してしまって…」

「早苗…まあ神様ってそう簡単に増えるもんじゃないし久しぶりの同族でテンションが上がってるんだろう」

「そうなんですよ…」

 

あの二柱はまあまあ我儘の部類である。早苗は日頃苦労しているのだろう。霊夢に比べて布教活動やら奉仕活動も積極的に行っていると聞いているので早苗にかかる負担は大きい。それでも諏訪子たちを敬愛し信奉しているのは、やはり信仰心がそれだけ強いということだろうか。

神奈子と諏訪子に詰め寄られタジタジとなっている袿姫と磨弓を後目に早苗に話題を振る。

 

「早苗は今回異変解決に参加しなかったのか?」

「ほら、妖怪の山って哨戒天狗がいるじゃないですか。なので私達のところまで動物霊が来ることがなくて…異変ということに気が付きませんでした…」

 

しょんぼりして答える早苗。収入源の一つである異変解決が出来なかったのは相当ショックだったのだろう。

因みに報酬についてだが、霊夢、魔理沙、妖夢にはそれぞれ映姫から支払われた。普通に金銭である。なぜ映姫が払うのかと思ったのだが、本来死者である動物霊の暴走を留めることができず幻想郷に影響を与えてしまったことは彼岸側の不手際だと映姫は判断した。彼岸が悪いというわけではないだろうけど、映姫のオセロ能力…もとい、【白黒はっきりつける程度の能力】によって下された判断なので映姫が意見を変えることはないと分かり普通に受け取ったのだった。

なお俺への立て替えは今日払われるらしい。三月にも入ろうというこの時期にやっと紫は活動的になるので今日が都合がいいらしい。はてさて何で払ってくれるのやら。

 

「しかも今回の異変関係の人たちって明らかに信仰に興味がない人たちじゃないですかぁ…布教活動はしますけど…」

 

それでもめげずに布教活動をしようとするのはとても勤勉だし、霊夢に見習ってほしいところである。そういえば先日水那から布教活動をしてみたいけど博麗神社が何の神社か分からなくて出来ないと相談されたな…霊夢にしっかり考えてもらわねばならないかもしれない。

 

「ということで私はあの二人を助けてから話しかけてみますね…」

 

少しだけ重そうな足取りで神奈子たちの元へ向かう早苗。幻想郷では宗教戦争みたいなのが起きているらしいから諦めずに頑張ってほしいところだ。

 

「あいつは大変ねぇ…」

「霊夢がその大変から逃げてるんじゃないのか?」

 

いつの間にか近くにいた霊夢が早苗を見て呟く。それに俺は嫌味を言うが、当の霊夢はどこ吹く風である。

 

「私はこうやって異変解決の宴を開くための場所を貸してるんだから、それだけで大変よ」

「でも霊夢は騒ぎたいだけだろ」

「知らないわね」

 

そのままお酒を持って魔理沙の方へ走っていってしまった。果たして博麗神社はこのまま存続できるのだろうか。紫がサポートをしなければ今頃荒廃しているのではなかろうか。紫にとっても大切な神社なのでそんなことは起きないだろうが。

 

「ねえ定晴」

「どうした?」

 

俺の後ろでずっと黙っていたルーミアが話しかけてきた。因みにユズは水那のところに行っている。この異変の間ずっと遊んでいたので仲良くなったのだろう。

 

「あの八千慧ってやつ、ここにいないわね」

「ふむ…宴会は嫌いかな」

 

結局八千慧は畜生界に案内されて別れたあと一度も姿を見かけることはなかった。宴会にも来てないというし、動物霊の侵攻が止まったとはいえ反省してるっぽいのは早鬼の方だけみたいだし…まだ何かしようと言うのだろうか。

八千慧の能力は聞いていないのでわからないが、あの大結界を張ったのが八千慧なら結界系の能力だろうか。動物霊をまとめる組長をやってるわけだから普通の妖怪よりも強いのは確定しているので自力で張ったのか…

 

「能力で探してくれたのか?」

「見えない範囲は私からすれば闇だもの。ある程度は認識できるわ。まあ最近できるようになったのだけど」

 

どうやらルーミアも強くなっているらしい。というかそれ死角がないということでは?索敵するならルーミアに任せた方がいいかもしれない。狂気の索敵でも敵は分かるのだが、狙いが俺じゃなかったり狂気といえるほどの殺意がなければ反応しないからな。

 

『むしろ嫌嫌やってるやつは恐怖心で狂いそうになってるからわかるんだけどな』

『魔力があればある程度私が分かるわよ。そこの使えない狂気とは違ってね』

『ああっ!?』

 

なんか魂の二人が喧嘩しだした。俺の霊魂に傷を付けないようにな。

 

「どうする?探す?」

「いやいい。何か仕掛けてきたら反撃しよう。隠れることを徹底された場合見つけるのは至難の業だ」

 

不動のときがそうだった。幻想郷は広すぎるというわけではないものの、原風景がそのままなので隠れることができる場所は多いのだ。誰かの土地だと決まっている場所も少ないので穴を掘ったりされると肉眼だと分からない場合もある。

 

「いいさ。本当に宴会が嫌いなだけかもしれない」

 

俺の友である霖之助も騒がしいのが苦手なので滅多に宴会には参加しようとしない。あいつと呑むときは基本的にサシだ。

そういう場合もあり得るのでまだなんとも言えないのだ。とはいえ八千慧に関しては嫌な予感がするのだが…まあ死ぬ未来は今のところ見えないので大丈夫だろう。

 

「さ〜だ〜は〜る〜!」

 

遠くからこちらを呼びかけてきたのは紫だ。既に顔は赤く染まっており、その横で藍が紫の近くにある料理を動かしている。落としたり溢したりしないようにするための配慮だろう。よくできた式神である。

 

「どうした紫」

「報酬よ報酬〜」

 

俺が一応警戒しつつ近付いて要件を聞くと、今回の異変の報酬についてらしい。まさか今日そのことについて話されるとは思っていなかったので少しばかり驚いてしまう。しかしこんな酔った状態で話しても大丈夫なのだろうか。

 

「えへへ〜、よく頑張ったわね〜」

「あー…うん、そうだな」

 

酔った奴の話には基本的に肯定をしろ。外の世界で学んだ教訓である。変に指摘しようものなら理不尽な怒鳴りが俺の時間を奪うのはよくあることである。

それにいいとこ取りみたいなことはしたものの、頑張ったのは嘘ではない。

 

「じゃあ今回の報酬を発表します…ダララララ……」

 

そのドラムロールは本当に必要だろうか。というか報酬の発表にドラムロールってなんだよ。外の世界で言うと給料を渡される前にドラムロールをされるようなものだぞ。何が来るのか警戒してしまうのも無理はないと思う。

 

「ダララララ……すぅ…ダララララ…」

「長い!」

 

呼吸を一度挟まなければいけないならするな。

そしてやっと紫のちょっと下手なドラムロールが終わった。

 

「だん!」

「…」

 

空白。

 

「……私が彼女になってあげます!」

「藍、連れて行って水にでも沈めろ」

「御意に」

 

訳分からんことを言い出した紫を酔い醒ましのために水の中に叩き込むことを提案する。その案に即答で肯定を返してくれる藍。本当によくできた式神である。

 

「ちょっとちょっと!酔ってなんかないわよ!」

「そんな顔を赤くした状態で言われても…」

「じゃあちょっと待って……はい!どう!?」

 

体内の酔いに関する境界でも弄ったのか、その顔はいつもの色になっている。

 

「その上で言うわ。私が彼女に…」

「こちとら家に俺含めて三人いるんで食料か現金でお願いします」

「なんでよー!」

 

というかそれ報酬じゃないだろ。流石の俺も紫からの好意にはある程度気付いている。だが、彼女になるほどのものでもないだろう。取り敢えず面倒事を増やさないでほしい。

 

「私は本気よ?あのフラワーマスターが先んじて仕掛けたから焦ったわけじゃないんだからね!」

 

そんなツンデレみたいなことを言われても…

 

「ちょっと紫、私の返事もまだなのにそんな訳のわからないことを言ってるんじゃないの」

「あら、誰かと思えば幽香じゃないの。別に私が定晴と付き合ってもいいじゃない」

 

あかん、これはあかん。身の危険を感じるし、なんか俺の周囲が殺気立っているような気がする。紫と幽香だけではなく、ルーミアやら近くの妖怪やらも気配が強くなっているように思える。

 

「待ってたって意味ないのよ。定晴には強引なくらいがちょうどいいの」

「これは強引すぎるじゃない。待つことは誠実さよ」

 

なんかヒートアップしてきたな。ああ、これはあれか…だから周囲の妖怪たちはテンションが上がってるのか。大妖怪と大妖怪だから。

 

「もういいわ!弾幕勝負よ!」

「望むところ!」

 

紫に続いて幽香が空に飛び上がり、暗くなった空を色彩で染めあげる。宴会って大体誰かが途中で弾幕勝負をしだすんだよなぁ…殴り合いよりかはマシか。

 

「つから俺の意見を聞けよ」

「今の二人に声が届くと思ってるの?」

 

俺の意見はルーミアに却下された。解せぬ。

 

「すみません定晴さん、私も紫様があんなことを言うなど思ってもおらず…」

「いいよいいよ。藍のせいじゃないし」

 

藍が平謝りをしてくるが、今回のは完全に紫が悪いので気にしなくていい。毎日こんな紫に付き合ってるなんて藍は偉いな…橙も一緒に巻き込まれているのだろうか…

 

「あー…定晴さん、あれは放っておいて、私達で飲みません?」

「だな。ルーミアも一緒でいいか?」

「ええ」

 

俺たちは空で争う二人を極力視界にいれないようにしつつお酒と料理を楽しんだ。

だって「定晴には自分しかいない」とか「一番は私」とか平気で言うんだもん。公開処刑かよ。

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