東方十能力   作:nite

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なんか日常編はどうしても文字数が増えますね…(4750文字)


二百四十八話 恋心

「ええ…ずっと前から。あなたのことが好きでした」

 

ルーミアからの告白に一瞬頭が真っ白になる。

何を…どういう…いや、そうではなくて…ルーミアが、俺を?

 

「そんな変な顔しないでよ。私をこの気持ちにさせたのはあなたよ?暴走状態だった私を無理やりキスで…あぁ、ちょっと恥ずかしいわね。あの時から私はあなたのことを意識している。そりゃ勿論妖怪が人間のことなんて、って最初は思っていたわ。こんなのはすぐに消えるだろうって。でも違った。あなたと触れ合って、あなたと生活して、あなたとただの日常を過ごして…どれだけ時間が経てどもあなたのことを想う気持ちは消えなかった」

 

ルーミアの独白は続く。しかし突然の告白で今の俺はあまり頭が働かない。ルーミアの言葉も頭を通り抜けていくばかりだ。申し訳ないとは思うものの、頭の中を整理することすらできない。

 

「でも私はあなたに可愛いところを見せようとか、もっと親密になりたいとかそういうのはないの。あなたと朝のおはようで始まって、同じ行動をしたり別の行動をしたり、それでも最後はここに帰ってきてただいまって言ってもらえる。おかえりって言ってもらえる。それだけで私は幸せだったから…それに、他のあなたのことが好きな人たちよりも断然親密なのははっきりしていたしね」

 

少しだけ顔を赤らめながらルーミアは言い切った。

 

「えっと…その…」

「ふふふ、ご主人様って精神的な突然のことに弱いわよね。これもあなたが外の世界で一人で生きてきたからかしら」

 

確かにそうだ。誰とも触れ合ってこなかったから胆力はあるが、精神的な攻めにはそこまで強くない。

 

「さて、さっきの話に戻るわよ」

「え、いや、ちょっと待ってくれ…」

 

話題の急転換に頭が追い付かない。

 

「なによもう…さっきご主人様は相手のことが好きだからなんちゃらみたいなことを言っていたけど、そんなのは関係ないのよ。というかそもそもご主人様は女たらしなんだから今更恋愛感情なんかで慌てないでほしいわ」

「は?俺が女たらしって…」

「普通はあまり関わりのなかった妖怪にキスなんかしないのよ!」

 

顔を真っ赤にしたルーミアに怒られた。そして何も言わなくなってしまった。多分俺の考えがまとまるのを待ってくれているのだろう。そして俺の返事を。

この際ルーミアからの告白は無理やり飲み込むとしよう。そうしないと頭の整理がつかない。今までそんな素振りはなかったのにルーミアに告白されるとは思わなかった…

少し落ち着いてきたので言葉を発する。

 

「…ああ、確かに、逃げなのかもしれないな。この考え方は」

「別にだめとは言ってないわよ。ただ私みたいなのもいるってことを知っておいてほしいだけ。こうでもして衝撃を与えないと言い聞かせられないから…」

 

ルーミアはとてもとても勇気を振り絞って告白をしてくれたのだろう。恋敵となるであろう紫と幽香のために、ちゃんと向き合えと俺に発破を欠けているのだろう。

 

「でも俺は他の人に恋愛感情を抱くことは…」

「それはなんで?やっぱり人間不信かしら?」

「それは…なんでだろう…」

 

理由は定かではないが、やはり他人と一緒にいることに息苦しさを覚えてしまうタイプの人間だからだろう。女性を見てかわいいなと思ってもそれが恋愛感情まで発展することはない。現に、紫や幽香のことを恋愛対象として見れていないのがその証拠だ。

 

「なら…『おい!定晴!おい!』…とかどう?」

「あ、ごめんルーミア。魂のやつが…」

 

ルーミアの言葉が狂気によって妨げられた。魂のやつらの声は頭の中に直接響くような感じなので、大声を出されるとどうしても聴覚を通した音は掻き消えてしまう。大切な話をしているというのにどうしたのだろう。

 

『こっち来い!早く!』

『なんだよ』

『無理やり眠らせるぞ!』

『は?ちょ、まて…』

 

何がなんだか分からないまま俺は魂の中へと吸い込まれてしまった。

 


 

魂というのもなんだかよくわからないものである。つい先日の異変で動物霊と人間霊の両方を見たが、いまいち良く分からない。死んだものだけかと思えば妖夢のような存在もいるので謎は深まるばかりだ。

 

「来たな定晴」

「なあ、俺が今めちゃくちゃに大事な話しているって分かったうえで連れてきたんだな?」

「そうだが」

「よし殴る」

 

身体強化もつけて狂気を全力で殴る。外の世界では冗談のように使われる表現は幻想郷では確たる未来として定義されるのだ。

 

「ちょ、待て待て。お前のパンチは痛いから!」

「うるせえ!」

 

ルーミアが勇気を出して告白をしたというのに俺は魂に吸い込まれるなんて格好が悪い。それにまるで逃げたみたいになっている。目を覚まそうにも狂気に引っ張られたままなので目を覚ますこともできない。

 

「あはは!」

「あ?」

 

知らない声が聞こえたので怒りを抑えずに振り返る。今の俺は結構キレているのだ。

そこには俺をそのまま女性にしたような体、黒髪でロングヘアーの女性が立っていた。狂気も俺に似ていて狂気は俺から生まれたので多分こいつも同じ経緯だろう。しかしなぜ今…?

 

「私はあなたの恋愛感情から生まれたの。そうだなぁ…愛とでも呼んでね!」

「狂気、なんだこの変態」

「酷くない!?」

 

知らないものは知らない。俺と同じような顔なのに女子高生のようにキャピキャピしているのはとても不愉快な気分である。共感性羞恥だろうか。

 

「昔あなたがあの幽香ちゃんに告白されたときに私は生まれました!でもそこの狂気が怖くてすぐに消えて隠れたんだよねぇ」

「怖くて悪かったな」

「でも今、また恋愛感情に挟まれたから私はこうして現れたのです!」

 

言動が一々うるさいしうざい。俺が苦手とする人種だ。恋愛感情をもとにして生まれたからこんなにコミュニケーション能力が高いのだろうか。

ふと、疑問が湧いてきたので質問する。

 

「狂気は俺の狂気的感情を抑制しているんだよな。ということは…」

「いえす!私が定晴の恋愛感情を抑制していたのです!たらー!」

 

へたくそなファンファーレと共に重大な答えを返してきた愛。つまり俺は恋愛ができないということなのでは?

 

「あ、わかった?でもこれはあなた自身が求めた結果こうして魂の力を元に感情を抑制する魂が生まれたんだよ」

「俺が?」

「他者を遠ざけたい。一人でいたいという気持ちが私を生み出したのだー!」

 

というか本当にこの言動はどうにかできないのだろうか。先ほど女子高生みたいだと思ったが、この感じだと小学生のノリのような気がする。中学生を飛ばして小学生の印象を与えてきた言動には驚くばかりである。

 

「あなた大変ね。こういうことが起きるなんてとても好奇心がそそられるわ」

「魔女か。こいつなんとかしてくれ」

「嫌よ」

 

無理ではなく嫌と来たか。できることならこいつは今までと同じように消えてもらって一言も喋らないまま生涯を終えてほしい。普段はここまで相手に対して嫌悪感だとか持たないのだが、こいつは格別である。ルーミアとの話を強制的に中断させられて連れてこられたことも起因しているかもしれない。

 

「こいつどうする?定晴なら一応消滅させることも可能だぞ」

 

確かに魂とはいえひたすら輝剣で斬り続けたらいつかは消えるだろう。そんじょそこらの魂ではなくしっかりとした人格がある以上魂の強度も高いだろうが然程問題ではない。しかし…

 

「いや、こいつが生まれたということは何かあるんだろう。それに消したところでまた生まれるような気がする」

 

俺の心の底の願望を反映して生まれたというのであればそこをなんとかしない限りこいつは生まれ続けるだろう。問題を先送りにしているわけでもなく、ただ無視をしようという考えは通用しない。

 

「分かった。じゃあこいつが暴れないように俺が抑えとく」

「ありがとう狂気。帰っていいか?」

「構わん。急に呼んで悪かったな」

 

気にしていない、とは言わない。ルーミアに悪いと思っているし不快な気持ちが消えたわけでもない。狂気が愛のことをどこまで抑制できるかによって許してやろう。

俺は現実へと意識を向けて、目を覚ます。

 


 

「あ、目が覚めたわねご主人様」

「ああ…話の途中で悪かったな」

「大丈夫よ。ご主人様のことは分かっているつもりだから」

 

ルーミアの優しさが心に沁みる。幻想郷縁起ではルーミアは狂暴な人食い妖怪で人間友好度は低かったような気がするが、実際のところは長く生きてきたうえでの落ち着きだとか達観してる部分がある。

前回魂の中に吸い込まれた時のように膝枕されていたので起き上がる。なんだか残念そうな顔をしているが…気のせいではないだろう。ルーミアの心の内はさっき聞いたばかりだ。目を逸らしはしない。

ルーミアには魂の中であったことを話す。ルーミアは今のところ一番信用できる妖怪だ。能力について隠すようなこともない。紫も信用はできるが…何をしでかすか分かったものではないのであまり秘密を打ち明けようとも思えない。むしろ藍の方が信頼して相談できる。

 

「ふーん、魂の中でそんなことが…」

「ああ。どうやら俺は今は恋愛できないらしい」

「でも恋愛できないのはその魂のせいじゃないでしょ?むしろその魂はあなたの問題を分かりやすくしてくれたわ。これで私たちの方針も決まった」

 

ルーミアが思いついたような顔をする。俺には分からないが、女性にしか分からないこともあるのだろうか。

 

「私たちはご主人様にきちんと信頼してもらわないとね」

「え?信頼はしているぞ?」

「そうじゃないの。近くにいてリラックスできるとか、気にしなくてもいい間柄になるってことよ。要はちゃんとご主人様に意識してもらうことが重要ってことね。愛ってやつはご主人様が一人でいたいっていう願望を具現化しているわけだから、一人じゃ嫌だって思えるように。一緒にいたいって思えるようにするってこと…要するにご主人様を惚れさせれば私たちの勝ちね」

 

なんかもう分からん。恋愛のことに関してだと理解力が低下するのも愛が生まれた影響なのだろうか。というか自己紹介で愛って言うの結構イタイやつだろ。やはりこいつはあまり信頼できない。自分自身であるはずなのにな。

 

「じゃ、話は終わり!ご主人様はいつも通りにしてくれていいわ」

「あ…うん…」

「じゃあ出てって出てって!乙女の部屋に長居は禁物よ」

 

ルーミアに押されて部屋を追い出された。でもなんだか気持ちは持ち返したような気がする。多分紫たちのアピールを無視するなってことだろう。ちゃんと向き合わないとな。ルーミアに感謝しながら俺はリビングへと戻った。

 


 

言った…言っちゃった!

言わないでおこうと考えて、胸の中にしまっていたのに。でも、スッキリした気持ちもある。好きな人に好きな気持ちを隠して生きることの心苦しさを今になって実感する。

私たちの目標はご主人様を落とすこと。うん、わかりやすいし恋愛らしい目標になった。ご主人様の気持ちというか願望の問題であるならなんとかなる。この情報は私だけの…いや、フェアじゃないな。あのスキマとフラワーマスターにも教えてあげるべきだろう。施しとかそういうわけではないが、ちゃんとご主人様には一人一人に向き合ってもらわないといけないから。

それにしても心がポカポカすると同時に顔が熱い。今の私は顔を真っ赤にしてベッドでバタバタしている。ご主人様と一緒にいるときは隠していたけど、ずっと私はドキドキしていた。告白したときにご主人様の見たことない表情が見れたからそれで良しとしよう。

悩んで、悩んで、ちゃんと人を好きになってほしいというのは私の願いだ。私を選んでほしいけど、相手を蹴落とすほど非情にはなれない。

 

「…本当に…好きです…」

 

ベッドの上で、誰にも聞かれない声量で呟く。声に出すと一気に体の熱が上がる。こと恋愛においては私は随分昔にご主人様に落とされている。これは反撃なのだ。


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