東方十能力   作:nite

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厳密にはカウントしてない話があったりするので違うのですが、話数カウントが250に行きました。長らく読んでくださりありがとうございます。


二百五十話 八雲家会議

その日、八雲藍は悩んでいた。自分の主がしばらく部屋から出てこないことに…!

とまあ前置きはいいとして、私の主は部屋から出てこなくなってしまった。やはり定晴さんにあの勢いに任せた告白をスルーされたことが効いたのだろうか。あれを無視できる定晴さんもどうかと思うが、酒の勢いに任せて告白してもあまり真剣に受け止められないのも分かる。

紫様は部屋に籠りながらも仕事はきちんとしてくださっているので文句は言えないのだが…不健康なのでたまには外に出ていただきたい。食事は自室で食べることを許可しているのでここ数日は顔すら見ていないのだけども。それとも部屋の中から直接外にスキマで出ているのだろうか。

 

「藍様ー!買い物してきましたよー」

「おかえり橙。おやつを用意してあるよ」

 

敢えて紫様の部屋の前で紫様にも聞こえるような声でおやつの話をする。大体の場合はデザートの話をすれば紫様は出てきてくれるのだが…なんの返事もない。やはり部屋にはいないのだろうか。紫様の部屋には特殊な結界が張ってるので私の一存で入ることはできない。

 

「紫様は出てこないですかー?」

「そうだね…出てこないなら紫様の分も食べてしまおうか」

 

揺すりをかける。これでも私は長いこと生きて九尾に至った大妖怪だ。対人での関わり方、理想の結果を出す方法を熟知しているつもりだ。これで出てこなくてもかわいい橙のおやつが増えるだけなので特に問題もない。

そう思いながら居間に戻ったら用意していた三つのケーキの内一つが消えていた。まるで元々なかったかのように消失したケーキに私は首を傾げ…ることもなく急いで来た道を戻る。

 

「紫様!!デザートは居間で食べるという約束ではありませんか!!色々と悩むことがあるのは分かりますが橙を前にして約束事を破るようなことはしないでいただきたい!!」

 

怒声を浴びせる。橙はまだまだ発展途上で精神的にも幼い面が残る。きちんと今の内に教育をしておかなければ将来が大変だ。なのに私の主は堂々と約束事を放棄してケーキを盗み食いした。到底許されるべきものではない。いくらか罵声を繰り返すととうとう部屋の中から物音が聞こえた。

そしてしばらくした後に扉が開く。そこにはなんともげっそりした顔の主、紫様が立っていた。

 

「ゆ…紫様……」

 

思っていた以上に酷い顔なので私も何も言えなくなってしまう。もしかして私が知らない間に定晴さんにフラれてしまったのだろうか。そうであれば流石の私も慰めをしなければいけないのだが…

 

「…悪かったわ」

「えっと…」

「話があるの」

 

そのまま重い足取りで居間へと向かった紫様。ちゃんとご飯は食べていたというのにやつれ具合は酷すぎる。それでもちゃんとケーキを食べ終わっているのはなんとも紫様らしい。

 


 

最初にあの闇妖怪から聞いたときは何を馬鹿なことをと思った。あの妖怪が定晴に気があるのは分かっていたから私達を遠ざけるために言っているのかとも思った。しかし本当に本当らしい。

 

「恋愛ができない…ですか…」

「それ以上にここまで付き合いがあって…それでもまだ定晴に一人でいたいって気持ちが強く残ってたのが…ショックというか…」

 

足りなかったのかな、とか定晴のことを考えられてなかったのかなとかそういう思いが頭を過る。定晴は人付き合いにおいて嫌がるような素振りは見せないから…

 

「…?藍様、私にはよくわからないです…」

「そうだなぁ…橙には少し難しいかもしれない…」

 

今の定晴は妙な状態だ。定晴自身が恋愛は出来ないものと考えているのもそうだし、本心では一人でいたいというのも相まってそっとしておいた方がいいような気さえしてくる。しかしあの闇妖怪に言われたのだ。「定晴を惚れされば勝ち」だと。一番信頼しているであろう式神に真っ向から攻撃されたら定晴とて安心してはいられないだろう。

 

「それでしたら紫様は早く定晴さんのところに行くのがよいのでは?私は恋愛事は分かりませんが…こういうのって早ければ早いほどいいのでは?」

 

藍からの忠告。とても明快だし的確だと私は思う。こんなところで悩んでいるくらいなら少しでも定晴との間を詰めておくのがいいのだろう。一般的には。

 

「でも藍…私はこれ以上どうすればいいのよ…今までももう、あのルーミアよりも長い間関わりがあったのに…これ以上何を詰めればいいのよ…」

 

私は幻想郷にいる誰よりも定晴と長く付き合いがある。そりゃ勿論最初の頃は恋愛感情なんて無かったけど、自覚してからはそれなりにアピールもしてきたつもりだ。定晴が鈍感すぎて伝わっていなかっただけで。結構攻めたこともやったのに伝わらなかったらこれ以上どうしろと言うのだ。

 

「でも紫様は定晴さんに好きだと伝えたのですよね?」

 

あの宴会での一言はそのつもりである。どうしても宴会のノリみたいな感じで言ってしまったが、幽香だって同じように宴会で伝えたわけだし一緒だろう。

 

「あの…紫様…」

「何かしら橙」

 

藍も一緒になってどうすべきか考えていたら橙から一言。状況もよくわかっていないだろうけど一応かわいい橙に免じて意見を聞いてみる。

 

「私もあの宴会で聞いてましたけど…紫様って好きって伝えてませんよね?」

「え?」

 

思い返してみよう。私は仕事の報酬として私と定晴が付き合える権利をあげた。多分これが一番宴会のノリみたいな空気を生んだ原因だろう。しかし私は結構真面目に本気であることも伝えた。そしたらあの風見の幽香が突っかかってきて弾幕勝負になった。そして気が付いたら宴会は終わっていた…あっ。

 

「私好きって言ってないわ!」

「紫様、すぐに行きましょう。気まずいだとか言ってる場合じゃありません。定晴さんは今も本気に考えていない可能性があります!」

 

藍からの忠言を聞きつつ定晴の家にスキマを繋げる。家の中に直接入ろうとすると無効化の力が乗った結界に阻まれるので家の前に。前は直接家の中に入れたのだけど、先日の異変で畜生界を覆う結界なんてものを見たせいか家全体に無効化付与の結界を張るとかいう規格外をさせられた。定晴曰く固定型だから使い勝手は悪いらしい。

さっとスキマを通ればすぐに定晴の家の前。幻想郷ではここだけしかないインターホンを押して定晴が出てくるのを待つ。藍たちはついてきていない。気を使ってくれたのだろう。

 

「どちらさま…ってスキマ妖怪じゃない」

「えっと…定晴はいるかしら?」

 

出てきたのはルーミアだった。本当はここで言えたらよかったのだけど…定晴を待つ時間が長ければ私の鼓動は早くなっていくばかりである。なんだか寿命が縮んでいる気がする。

 

「顔を真っ赤にしているところ悪いけど残念ながら定晴は留守よ」

「うっそぉ…」

 

どうやら私は顔が赤くなるほど緊張していたようだ。大妖怪にあるまじき失態。もっと堂々としないといけないわね。

それにしても定晴は留守か…どうしようかな…藍も言っていたけど早く行動しないといけないのだけど…

 

「どこに行ったのかしら?」

「買い物よ。人里にね」

 

よしチャンス。なんか重要な事柄ならば一度帰るしかなかったが買い物であれば今すぐ突撃してしまおう。私のスキマはこういうときのためにあるのだから!

 

「ありがとう。今すぐ行くわ」

「今すぐって…あ、ちょっと!」

 

すぐにスキマを展開して中に入る。そして能力を使いながら人里のどこにいるのかを探す。私の能力は索敵だとか探査に使えないから少し不便だ。

とはいえ人里はそこまで広くないのですぐに見つけた。すぐ傍に行きたいところをグッと我慢して人里の入口にスキマを開く。人里の中に直接スキマを開くと村人たちが驚いてしまうからやめてほしいと人里の守護者から言われている。

スキマから出たら定晴の場所へダッシュ。境界を操る能力に頼ってばかりで身体能力はそこまで高くない私からすれば結構疲れる距離だ。もっと運動した方がいいかしら。

そして走ること三分ほど。たかが三分で既に息も切れ切れな私はか細い声で定晴を呼んだ。

 

「…定晴!」

「紫?」

 

後ろからだったが気が付いてくれた。か細いと言っておきながら思いのほか大きい声が出たのでそのおかげだろう。

 

「はぁ…はぁ…」

「お前がそんなに急いでるなんて珍しいな。何があった?」

 

警戒をする定晴。確かに私がこんな風になるときは基本的に一大事のときだから無駄に警戒させてしまった。ごめんなさい、とても私事です。でもとても重要なこと。

 

「よく聞きなさいよ」

「あ、ああ…」

「先日の宴会で言い忘れてたから、今言うわ」

 

なんとか息を整える。まだ涼しい時期だから汗はあまりかいていないのが幸いだ。

 

「定晴、私はあなたのことが好きよ。とても、とてもね。だからあの付き合ってっていう言葉も酒のノリでも宴会の冗談でもなんでもないわ。ええ、だから…私と付き合ってほしいの!」

 

直接言った途端に一気に体の熱が上がっていく。人里の真ん中であるにも関わらず告白をしてしまったのは早計だろうか。いや、ルーミアがある程度のことは伝えてくれていたらしいから定晴は分かっていたのかもしれない。でも無駄だとは思わない。

 

「あ、返事は結構よ。ルーミアから色々と聞いているから」

「え、あ、うん」

「それじゃ!」

 

結局私は人里の中でスキマを開いて家に帰った。周囲のことも考えられないくらい頭が茹だってしまって逃げ出したくなったのだ。

あとに残ったのは茫然とした定晴だけだった。

 

「言ってきたわ!言ってきたわよ!」

「お疲れ様です紫様」

 

なんとか告白は出来た。あとはもっとアピールをして惚れさせれば…アピール…結局最初の問題に戻ってきてしまった。

 

「色々と考えたのですが…一応告白したので流石の定晴さんもある程度は意識するのではないかと思いました。故に今まで通りのことを取り敢えず続けてみてはどうでしょう?それでなんとかならなければ次の案を考えましょう。私たちは紫様の恋路を応援いたします!」

「そうね…ありがとう藍!最高の式神よ!」

 

私に発破をかけてくれたり仕事は丁寧にしてくれたり…本当によくできた式神だ。古今東西探しても藍ほど優秀な式神はいないだろう。

 

「方針が決まればあとは動くのみ!やるわよー!」

 

声に出して、自分自身を勇気づけた。




定晴「なんか道端で紫に告白された。あのあと周囲からの煽りが…」
ルーミア「やっぱりそうなのね…お疲れ様…」
ル『なんかって言われているうちは大変ね…先は長いわ…』
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