東方十能力   作:nite

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二百五十四話 お返しの白

レミリアに釘を刺されたホワイトデーである。言われた通りフランとレミリアの分は別々にしている。ついでに咲夜もバレンタインのときはフランのことを手伝ってくれただろうから咲夜に分も準備している。送るものによって意味があるとかないとか聞いたが、インターネットもないここでそれを調べることもできないので全員一律でクッキー(チョコソース付き)ということにしている。

今日行くべきなのは紅魔館の他に、紫、幽香、あと早苗と魔理沙と妖夢、それにチルノである。魔理沙に関してはお返しを期待したうえでバレンタインのチョコを貰ったが、キノコの形をしているという妙に芸術点が高い代物だったので普通にお返しをあげる。あとチルノ…というかチルノ含めた大妖精たちは普通にチョコが欲しいだけらしいのでバレンタインでチョコを貰ったわけではないが渡すことにした。あとで文句を言われて喧嘩を売られるよりもチョコで買収した方が楽だと考えた結果だ。

あと後日でいいからこいしにもチョコを渡してほしいとお燐が一度連絡に来た。地底にもバレンタインだとかホワイトデーだとかの風習があることに驚いたが、言われたので渡しに行くとしよう。距離の関係上今日中には無理だが、明日にでも地底に行くとしよう。尚紫から地底行き来の自由券と書かれたチケットを昔貰ったので問題はない。書類に残した方がいいと言われたが、出来に関しては子供がおじいちゃんとかおばあちゃんに渡す肩たたき券くらいのものなので実際どれくらい効力があるかは不明。

さて、出かける前に先に二人だ。

 

「ルーミア、ユズ、二人にお返しだ」

「ふふっ、ありがとうご主人様」

「ありがとうごさいます定晴様!」

 

ユズは式神になってからというもの俺のことを様付けで呼ぶようになった。別に今まで通りでも良いと思ったのだが、ルーミアがそこらへんを前もって決めておいたらしい。まあもう別に構わないのだけど。ルーミアのご主人様呼びからして俺からすると特殊なのでもう慣れた。

 

「あら、クッキー?」

「ルーミアはクッキー嫌いか?」

「いえ、でもクッキーは外の世界であなたとは友達みたいな意味だからね。まあご主人様がそういうの気にせずに作ってるのも分かるけど、紫あたりは真に受けるじゃない?」

 

そういえばそうだったような気もする…うーん、幻想郷ではそういうのは広がっていないと思うけど一応渡すときに一言言っておいた方が良いかもしれない。紫とかはルーミアの言う通り真に受けそうだし。

それにしてもルーミアが意味を知っているのに驚いた。ああいうのって具体的な出典とかはないだろうし中々身につく知識でもないと思うのだが…一体どこで知ったのだろうか。

 

「今日はみんなに配るんでしょ」

「ああ。紫とか幽香にも返事関係なく渡すよ」

「行ってらっしゃい」

 

ルーミアの声を聞きながら俺は家を出た。

 


 

最初にやってきたのは霧雨魔法店、つまり魔理沙の家である。魔法の森の中に居を構える彼女の家は俺の家から一番近い。俺の体は一つなので効率的に回らねば日が暮れてしまうので家に近いところから回ってしまおう。

 

「魔理沙ー」

「はいはい泣く子も黙る天才魔法使い魔理沙さんは私のことだ…って定晴じゃないか。何の用だ?」

「はい、クッキー」

 

どうやら魔理沙は今日がホワイトデーであるということを失念していたらしい。まあ魔理沙は貰えるなら貰うの精神でお返しを期待したようだしそこまで重要な日でもないのだろう。後々の紫とか幽香の時に面倒なことになりそうな気がしてならないのでこんな風に淡泊に対応してくれたらこちらもありがたい。

 

「お、もうそんな時期か!ありがたく貰っておくぜ」

「んじゃ俺はもう行くぞ」

 

魔理沙にはクッキーを渡すだけで用事終わり。この店には何かと不思議なものもあるうえ、危険度であれば香霖堂以上なのであまり長居したくないというのが本音である。魔理沙と話していたら話の流れでえわけのわからないキノコを食べてみてくれだとかよく分からない魔道具を試してみてくれなんて言われるものだから距離を置きたくなるのも仕方ないと言えるだろう。

滞在時間僅か五分という短さで俺は霧雨魔法店を後にした。

 


 

次にやってきたのは霧の湖である。紅魔館は対岸にある…だろう。霧のせいであまりよく見えないがなんとなく向こう側に建物の影があるように思える。

さて、紅魔館に行く前にここに来たのはチルノたちに渡すためである。一体何人が食べることになるのか分からないので多めに作っているが…足りなくなるということもあるかもしれない。まあそこはチルノと大妖精のリーダーシップで喧嘩にならないように分配してくれるだろう。

 

「チルノー!大妖精ー!」

 

しかしながらチルノたちがここに確実にいるというわけでもないだろう。一応数日前に大妖精に会ったときに今日お菓子を渡しに行くから霧の湖にいてくれと頼んでおいたのだが、チルノに振り回されて別のところにいるという可能性もある。もし今日中に渡すことができなかったら後日渡せばいいだろうが、まあそのときはただのおやつだな。幻空に入れておけばいつでも取り出せるとはいえやはり今日渡すことに意味があると思う。まあチルノたちは食い意地によるものだからそこまで神経質にならなくてもいいだろうけど。

探すこと五分ほどでチルノを見つけた。特に遊ぶこともなく待ちぼうけしている。しかも珍しいことに大妖精を含め他に誰もおらずチルノだけが湖の畔の倒木に腰かけていた。

 

「チルノ」

「え、あ…来たわね!」

 

一瞬困惑したような表情を浮かべたがすぐにいつもの調子へと戻った。ただそれだけでいつものチルノを知る俺からすれば疑問点ばかりである。

 

「はいクッキー」

「…ありがと」

「大妖精たちはいないのか?喧嘩したとかじゃないだろうな?」

 

チルノと大妖精は特に仲がいい印象だ。喧嘩をすることがあってもすぐに仲直りできるし、そもそも仲直りができなくなるほどの喧嘩をしない。大妖精も大とついているように妖精の中ではチルノに並べるくらいの実力者なのでいい感じに距離感を保てるのだろう。

 

「違う。ただ、今日はあたいだけで貰った方がいいって言われて」

「ん?まあ妖精ズがいたら取り合いになるだろうしそっちの方がいいかもしれないな」

 

実のところ我儘というか言うことを聞かないレベルであればチルノたちよりもそこらへんの野良妖精の方がよっぽどである。あいつらはすぐにいたずらをするし、加減は知らないし、ピチュンしても一回休みになるだけだから何度もやってくる。チルノはお菓子をあげておけば急ないたずらをしてくることはないので断然いい子ちゃんである。

 

「さ、定晴」

「どうした?」

「これって…ホワイトデーのお菓子なのよね。本当はバレンタインにチョコを渡した方が、よかったのよね?」

「別に気にしなくてもいいぞ。お前らがこういうのを欲しがるだろうことは予想できたしな」

 

俺はそう言うがチルノはなぜかもじもじしたまま何かを言おうとしていう。時間もあるので急ぎたいところだがこのチルノを放置できるほど薄情でもないので俺はチルノが何か言うのを待つしかない。時間にして長針が一周するかしないかといったあたり、チルノが意を決して口を開いた。そして倒木の後ろから小さな包みを出してきた。

 

「これ…その…一応チョコ。あたいが作ったから…味わって食べなさい!」

「へぇ…ありがとな。ちゃんと味わうよ」

「じゃあもう行きなさい!」

 

チルノに追い払われるようにして霧の湖を横断し始めた。このまま紅魔館に向かうためである。まさかチルノがチョコを用意するなんて思わなかったが、彼女も彼女なりに何か大妖精に言われたのだろう。多分一方的なのはだめだからせめて少しでもお返しをとかなんとか。それともチルノが自主的に用意したのであれば…チルノは俺が思っていたよりも大人で配慮ができるということだな。まあここらへんを聞くのは無粋であろう。

 


 

紅魔館へと到着。今日の美鈴は寝ていた。美鈴が寝ているか寝ていないかで賭け事ができそうである。

一応美鈴に声だけかけて中に入る。今まで通ってきた中で似たような経験は何度もあるので普通にしていれば何の問題もない。似たような経験が何度かあるというのは美鈴の仕事態度的にどうかとも思うけど。

中に入ればいつも通り咲夜が待っていた。ふーむ、やはりどこから咲夜が見ていたのか全く気が付かなかった。もしかしたら時を止めている間に目視したのかもしれない。それなら気が付かなくてもなんも不思議ではないのだが…

 

「いらっしゃいませ定晴様。お嬢様はいつもの部屋に。妹様は自室におられます」

「そうなのか…先にレミリアから渡そうかな。フランは長引きそうだし」

 

ついでに咲夜に今のうちに渡しておく。とても驚かれたが嬉しそうにしているので多分大丈夫だろう。姉妹を差し置いて咲夜に先に渡してしまうのは問題があるかもしれないが、正直なところ渡す機会もそんなにないだろうし誰も見ていないならいいだろう。

俺は長い廊下を歩きいつもの部屋に入る。そこにはレミリアが優雅に紅茶を飲んでいた。この匂いは…ダージリンティーだろうか。確かクッキーにもよく合う紅茶だったはずだ。

 

「レミリア、クッキーだ」

「ありがとう。ただもう少し気の利いたセリフは言えないのかしら?」

「生憎とそういうのは得意じゃなくてね」

 

演劇の経験もあるし、そういった役柄を演じた経験もあるが、実際にリアルで言うとなると何を言えばいいのか分からない。ああいうイケメンポジションのやつらはよくあんなポンポンと歯の浮くような言葉を吐けるものだ。

レミリアとの挨拶もほどほどにしてフランの元へと向かう。フランの部屋の場所は知っているので問題はないのだが、咲夜はついて来なかった。どうやらあのままレミリアの給仕をするらしい。まあフランの相手をするのは疲れるし懸命な判断だろう。まだまだ行く場所はあるのでできる限り素早くフランを満足させてここを去らなければ…

 

「フラン」

「あ、お兄様!」

 

フランは人形で遊んでいた。俺が昔持ち前の裁縫スキルで作ってあげたレミリア人形である。狂気に侵されていた時期はどの人形もバラバラにしてしまっていたようだが今は力のセーブによって壊すことなく遊べているらしい。見た目相応の遊びといった感じでほっこりするな。中身は五百歳近いけど。

 

「ホワイトデーのお返しだ。はい、フラン」

「…」

 

フランはなぜか俺の顔を見て固まった。俺の顔とクッキーの間を何度も視線が移動している。

 

「フラン?」

「…あっ!うん!ありがとうお兄様!大事に食べるね!」

 

声を掛けたらハッとして元に戻った。チルノといいフランといい何やら変な反応である。もしかしてクッキー苦手なのだろうか…いやいや、日頃よく食べているのを俺は知っているのでそれはない。

 

「あー…えっと…お兄様はまだ行くところあるんだよね!ほら、行って行って!」

 

フランに部屋を追い出された。そのままフランの顔を見ることもなく扉は閉められた。確かにまだ行く場所はあるし対応が短くていいのは助かるのだが…フランらしからぬ反応で気になるところだ。うーん、まあ問題があったらあとで咲夜かレミリアから何か報告があるだろう。

俺はそこまで時間をかけることなく紅魔館をあとにした。その間美鈴は一度も起きる気配がなかった。

 


 

次はこのまま早苗のところだ。早苗からも直球なチョコを貰った。ハートの形だったのは…いや、バレンタインデーだからだろう。そこまで深い意味はないに違いない、と俺は思っている。

妖怪の山の斜面を浅めに飛んで守矢神社へと向かう。あまり高く飛ぶと哨戒天狗に捕まるし、地面は木やら石やらのせいで歩きづらいのでこれくらいの高さで移動するのがベストである。妖怪の山の歩き方、ってな。

 

「早苗ー!」

「あ、定晴さん!こんにちはー!」

 

早苗はいつもの霊夢と同じく境内の掃除をしていた。博麗神社は桜の木が周囲にあるのでよく落ち葉があるのだが、守矢神社も周囲は木々なので同じくらい落ち葉がある。毎日掃除しないといけないというのは大変だろう。

 

「はい、お返しだ」

「わあー!ありがとうございます!」

 

俺のお返しを手に取るととても喜んでくれた。しかし中身がクッキーであることに気が付くと途端に顔を曇らせた。

 

「クッキー…ずっと友達…」

「ああ…別に選んだお菓子に意味は込めてないから気にしないでくれ。作りやすかったってだけだ」

 

早苗は外の世界の出身なので当然お返しのお菓子の意味も知っていた。ただ別に拒絶する意味でもないのになぜ早苗はそこまで落胆したのだろうか。俺にはいまいちよくわからないが、乙女心というやつなのだろうか。

 

「二柱はどうした?」

「二人とも出かけていますので今はいません。待ちます?」

「いや、このまま幻想郷の反対側まで行く必要があるから挨拶はまた今度だな。二柱によろしく言っておいてくれ」

「分かりましたー」

 

早苗へのプレゼントも返したので妖怪の山周辺での用事が終わりである。そんでこのあとは冥界まで行く必要がある。今思えば妖夢には人里あたりに来ておいてくれればよかったかもしれないが、今になっては遅い。今日はホワイトデーのお返しで回っているので紫のスキマ便に頼ることもできないので頑張って飛ぶしかあるまい。

俺は手を振る早苗に手を振り返してから妖怪の山を後にした。

 


 

さて、冥界に行くまえに訪れるのは太陽の花畑である。冥界への入口は中途半端なところにあるので幻想郷内にある幽香のところには先に行っておこうということだ。先ほどは早苗に先に言われたが、今回は俺が先に幽香に意味は込めていない旨を伝えなければいけない。幽香も大半は幻想郷にいるとはいえ外の世界での生活の経験もあるので何か気にするかもしれないので注意しておくべきだ。知らなければ知らないで一件落着となるので俺が先に伝えてしまえば問題は起こるまい。

 

「幽香ー」

「あ、来たわね定晴」

 

家の前で呼びかけてみればすぐに幽香は姿を現した。あと数ヶ月で夏になるし、その前に春は植物がいっぱいなので幽香はこの時期はガーデニングをしていることが多いのだが、今日は家で俺が来るのを待ていたらしい。律儀なことである。

 

「お返しのクッキー。別にお菓子に特別な意味は込めてないぞ」

「分かってるわよそれくらい。あなたがこういうときに返事をしないこともね」

 

確かに告白されたらホワイトデーにお返しと共に返事をするのも一つの手なのだろう。しかしながらお菓子を食べたいという人が多いのでここで男女のなんやらかんやらをしている暇はないのである。それに現在俺は複数人に同時に告白されている状態なので時期は選ばなければいけない。ルーミアたちが俺の愛に関することを考えているというのでこちらから無理に働きかける必要はないだろう。俺はいつも通り過ごしてくれってルーミアに言われているしな。

 

「紫にはもう渡したの?」

「いや、最後にしようかなって」

「でもどうせ今もきっと見てるわよ。後回しにされたらいじけちゃうんじゃないの?」

 

だがこういうときの紫は恥ずかしがりやなので呼んでもすぐには出てこない。先日の人里の中心で愛を叫ぶ事件でそれに更に拍車がかかったようにも思える。どうせどこで呼んでも反応してくれるなら一番遠い冥界で呼んだ方が効率がいい。冥界で何度も呼びかければ八雲家へのスキマを開いてくれるだろう。

 

「ふーん、まあ別にいいんじゃない?このクッキーは味わって食べるわね」

「ああ、そうしてくれ」

 

一応気持ち程度にルーミアと紫と幽香のクッキーは少し量を多めにしている。まあ量の比較なんて他に一緒に食べることがあるルーミアとユズしか分からないだろうから本当に気持ち程度である。俺もちゃんとお前らのことを考えているぞと言う意思表示である。

 

「それじゃ」

「ええ、またね」

 

幽香は終始笑顔で俺を見送ってくれた。うーん、幽香は何を考えているのかあまり分からないなぁ…

 


 

さて、冥界である。一番最初にプリズムリバー楽団と一緒に来たときはその道のりの長さに辟易したものだが、今回も長い長い階段を飛んでいくことになる。なぜこんな階段があるのかは謎だが、謎だらけの幻想郷に今更突き詰めても意味はないだろう。

幽香の家から合わせて数十分ほどかけてやっと白玉楼にたどり着いた。ここからでも見える大木西行妖は今日も見事に何も咲いていない。確かあれが咲くと大変なことになるとかなんとか…

 

「妖夢ー」

「はーい、定晴さん、いらっしゃいませー」

 

そういえば剣術の修練以外で白玉楼に来るのは随分と久しぶりである。バレンタインデーの日は修練がなかったので会えなかったが、後日妖夢からチョコを貰った。妖夢らしいかわいらしい装飾が施されていて、バレンタインデーで貰ったチョコの中では一番の出来だった。やはり日頃から料理をしていると違うな。

さて、妖夢にクッキーを渡すわけだがここで注意することが一つ。妖夢に渡す前に幽々子に渡すことだ。妖夢に先に渡してしまうと最終的にいつの間にか幽々子の口の中に収まっているという超常現象が発生する。妖夢もそれが分かっているので幽々子に先に渡したとしても文句が出ることはない。

 

「幽々子に先に渡しておくぞ。量産型チョコだ」

 

幽々子に渡すのはクッキーではなくチョコである。ただ板チョコを湯煎して大きめの型に入れて氷の魔術で冷やしただけの量産型。ただ幽々子に対しては質よりも量で勝負した方がいいということは俺も今までの生活で分かっているのでこの策に妥協はない。

 

「ありがとう定晴さん!さっすが、わかってるわー!」

 

そして大き目の袋に入ったそれを幽々子はそのまま持って行った。実のところ今回のお返しの中で一番お金がかかっているのは幽々子である。妖夢に渡そうとしただけなのに幽々子にお金を持っていかれるのはなんとも解せないが、同じような生活を毎日続けている妖夢への手助けの意味も込めているので仕方ないと割り切ろう。

 

「そんじゃ妖夢、はい」

「ありがとうございます定晴さん。定晴さんのお菓子は美味しいので嬉しいです」

 

幽々子が姿を消したのを確認したうえで妖夢にクッキーを渡す。流石の幽々子も従者のものはとらない…と思えったらそうでもないらしく、美味しいものであれば妖夢から奪いとることもあるのだと言う。なので妖夢もすぐに食べてしまうようだ。

つくづく妖夢の幽々子への忠誠心には驚かされる。妖夢の実力であればもっと色んなことができるだろうし、他の館で即戦力として働くこともできるだろう。それでもここで働き続けているのはすごいことである。

 

「この後の予定は?」

「紫を呼んで紫に渡せば今日は終わりだ」

 

妖夢に渡したので俺は白玉楼から離れる。妖夢にはしっかりクッキーを味わってもらえることを願いつつ俺は紫を呼ぶ。誰にも見えていないところなら紫も出て来てくれるだろう。

 

「紫ー!紫ー!!」

「…はーい」

 

少し恥ずかしがりながら返事があった。しかし姿は見えない。俺の目の前にスキマが開かれたのでこれを通って行けと言うことだろうか。どこまでも恥ずかしがり屋である。

 


 

通った先は紫の家。幻想郷内というわけでも外の世界というわけでもない奇妙な場所に建っている一軒家である。確かここは藍と紫が住んでいて、橙は別のところに住んでいるって話だった気がする。今日は紫の他に藍と橙も一緒にいるが。

 

「紫、はいお返しだ」

「え、ええ…ありがとう…」

「別にお菓子の種類に深い意味はないからな」

 

忘れないように注意しておく。

それにしてもここまでしおらしい紫を見るのも随分と久しぶりだ。相当な失敗でもしない限り紫は反省の色を見せないので俺もこういう紫を見るのは新鮮な感じがする。

 

「紫様は恥ずかしがって何も言わないので私から代弁いたしますと、本日は一緒に夕食を食べないかということで…」

「うーん、ルーミアとユズを連れてきてもいいか?」

「もちろんですとも」

 

俺と藍が話している間も紫はうーうーと唸っているだけであった。ただその視線は藍の方を向いていて、恨みがましい顔つきをしている。代弁されるのが嫌だったら自分で話せということなので自業自得だ。俺と紫の関係が今までで一番変な感じになっているのも分かるけどな。

取り敢えず今日の予定はこれで終了だ。昼食を食べてから出かけたわけだが、既に日は赤くなり山に隠れようとしている。暗くなる前に終わってよかったな。

 

「じゃあルーミアたちを連れてくるから」

 

俺はスキマを使って家に戻った。

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