風、そして身体強化を併用して妖怪の山を走る最中に思う。結構天狗って速いんだな。
風刺画とかでも天狗は風の扇子とか扇を持っていて、いかにも速そうなのだが実際そうであった。
さっき天狗相手に勝てると思っているのか!って言っていたから天狗本人も自らが速いことを自負しているのだろう。
俺は能力を結構全力で使っているので普通の天狗よりちょっと速いくらいの速度で逃げているので未だに捕まってはいない。
でも…
「こんなにいるとは聞いてねー!」
後ろから感じる力から考えるに三十人はいる。
ちょくちょく前方から気配を感じたりするので軌道を変更しながら逃げる。どうにかして撒きたいのだが、まるで常に場所が分かっているかのように先回りしてくるのだ。
しかも…
「あややや。また別の道に行くのですか」
さっきから明らかに他の天狗より速く移動する天狗がいるのだ。よくそんな速さを出していて事故が起きないなと感心する。
なんとか追手を巻きながら休めるところはないかと走り回る。さてさて、いつまで逃げ切れるものか…
「さあ観念しろ!」
「……」
一言で言うと捕まった。なんだかんだ最後は五十人位で追っかけて来たので、包囲されてしまったのだ。空まで覆うような包囲をされれば俺とて逃げ出すことはできない。
その後は押さえ込まれて紐で縛られてこうなる。
「さあ、目的を言え」
目的…ただの観光だ。妖怪の山があった、見ようと思った、以上。
正直に言っても全然構わないのだが、ふざけるな!とか言われそうだし…
俺が目的を言わないことに痺れを切らした天狗が再度詰問しようとしたら、天狗たちの後ろからざわざわし始めた。
「随分と派手なことしたねー。どんな奴が侵入してきたんだい?」
ん?この少し酔っているような声は…
「っ!伊吹様!」
そして伊吹という名前…
幻想郷にて何人いるのかは分からないが、ありきたりな名前ではない。
そして天狗たちが自ら道を作り、そこから出てきたのは…
「その呼び方は嫌いだって言っただろ?さてさてどんな奴が…あれ?定晴?」
「萃香じゃないか!」
そこには博麗神社に居た鬼。伊吹萃香がいた。
片手には酒瓶を持ったまま困惑顔だ。
「なっ、知り合いなのですか!?」
「静かに!…こんなとこで何やってんのさ」
凄いな…萃香が一喝しただけでざわざわしていた天狗たちが一斉に静かになった。萃香が恐れられているのか、はたまた鬼か…なんにせよ萃香はこの山においてある程度の権限というか、地位があるようである。
「この山から神力を感じたから調査を…後暇だったから」
俺が素直に答えたら萃香が笑いだした。
「ははは!そんな理由で入ってきた奴は定晴が初めてだよ」
「そんな笑わなくても」
「あはは!…ふぅ。お前達、定晴は怪しい奴じゃ無いよ」
「え!?」
ひとしきり笑ったあと、萃香は天狗たちの説得をしてくれた。ありがたい限りである。
その最中、萃香から質問をされた。
「にしてもどうやって捕まったんだい?ちょっとやそっとじゃあんたは捕まらないだろ?」
「まるでずっと見られてるように先回りばっかされて、最後は多勢に無勢。逃げ道が無くなったんだ」
まさか幻想郷にGPSのような技術が…?いや、流石にそこまでの科学技術は存在していないだろう。
となれば誰かが常に遠くから俺のことを監視していたのだろうか。遠見の魔術なんかもあるのでそちらのほうが可能性は高そうだ。
「じゃあ沢山で挑めばあんたにも勝てるのかな?」
「全力で逃げるときは、妖怪相手なら浄化の力をフルに使わしてもらうし、人間なら暴風出せばなんとかなるだろ」
「やっぱりそう簡単には勝てないかー」
大体こんな感じで会話をする。妖怪が相手なら全力の浄化でたいていなんとかなるのだ。
にしても誰も縄をほどいてくれない。それに萃香も気がついたようで…
「おーい。誰かほどいてって言ってるじゃん」
しかし誰も動こうとはしない。天狗の代表者が意見を述べる。
「伊吹様、やはり今回のは完全に侵入です。これはこちら側で決めますので…」
「むむむ、そうか。ごめんね定晴」
別に萃香が謝ることではないであろうに、意外と律儀なんだな。
「いや良いんだ。ありがとう」
「じゃあ来い」
俺は引っ張られて連れてかれた。
結局俺は無罪放免となった。やはり萃香が権力を持っているのかそこまで追及されることはなかった。しかし妖怪の山には今後入ってくるなと言われた。それと神力の正体はここの近くにある神社らしい。それに山を通らない参道があるらしく、用事があるならそこを通れとの事。
「お疲れ~」
「萃香。待ってたのか」
「うんうん。何やら神社に用があるっぽいから案内しようかなーと思って」
そういう神社があると聞かされただけで場所も教えてくれなかったのでありがたい。先程から萃香には助けられてばかりである。
「そりゃ助かる。頼む」
「よしきた。任せて!」
俺は神社に向かうため萃香に付いていく。ここからは神社らしき建物は見ることができない…中々に遠い気がする。
妖怪の山某所、ずっと侵入者の監視をしていた一人の妖怪は今しがた休憩時間に入った。
「文さん、あの人は萃香さんについていきました」
「そうなのね。あんな人が幻想郷にいるなんて聞いてなかったわ」
「風を使っているようでしたが、知り合いですか?」
「いやいや、全く知らない人よ。いつか取材しないとね」
「前に麓にいた霊力の持ち主は彼なのでしょうか」
「見てないの?」
「そのときはにとりさんと将棋をしてました」
「ふーん」