東方十能力   作:nite

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二百五十七話 ウーバークッキー

さて、今日は地底に行く。こいしのところへクッキーを届けるためだ。本当は先月に行くことができていればよかったのだが、地底ともなると日帰りはまあまあ大変なので二日空ける必要があり中々この二日間を取ることができなかったのだ。春も盛りとなり紫が活動的になったため俺の仕事が増えたという事情がある。おかげで懐が潤ったのだが、こいしが拗ねていないか不安だ。一度博麗神社に来ていたお燐に四月になってからになることを伝えたが、まあこいしは不満だったろうことは伺える。

というわけで俺は現在博麗神社の近くの入口から地底へと向かっている。泊まりになるしこいしも一緒に来てと言っていたらしいのでルーミアとユズも一緒である。

確かこちらは地霊殿のすぐ近くが出口だったはずだ。お燐が博麗神社に来るときもこの道を通っていると聞いている。元々は妖怪の山に山中にしか入口はなかったらしいのだけど、なぜここに入口ができたのだろうか。因みにもう一年くらい前になるが初めて地底に行ったときに通ったのもこの道だ。あの時はお燐に案内してもらったんだよな…懐かしい。

大体どんな構造なのかは分かっているのでほとんど自由落下で落ちている。壁や岩に当たりそうになったときに風を使って軌道を変えたり剣で壊したりしているのみだ。最後は身体強化と風の併用できれいに着地…あぶねっ、あまり整えられていない地面だったから転びかけた。

 

「大丈夫?」

「問題ない」

 

底についたら細い道を通って、そこを抜けたら目の前に地霊殿である。その昔霊夢が地底での異変を解決する際は妖怪の山の入口から様々な妖怪と戦いつつ最終的に地霊殿のお空と戦って終わったらしい。そのときはこの入口はなかったのだろうか。あれば速攻でお空までたどり着けただろうに。

 

「いらっしゃいませ、定晴さん、ルーミアさん、ユズさん」

「おう、久しぶりだなさとり」

「こんにちは」

「こ、こんにちは…」

 

前もってお燐を通じて今日俺たちが来ることを伝えてもらっている。お燐は結構な確率で博麗神社にいるので連絡係としては最適なのだが…縁側でよく寝ているけど地霊殿での仕事はちゃんとしているのだろうか。

 

「お燐はちゃんと仕事をしてから行ってますよ」

「ならいいんだ」

 

口に出さないまま会話が続くこの感覚も久しぶりだ。こいしはなぜかたまに地上に遊びに来ているので会うこともあるが、さとりはずっと地底にいるので中々会う機会が少ない。というかさとりと会うのは俺が関わった地底での事件以来ではなかろうか。いや待てよ、そういえば随分前にこいしが無許可で地上に来たときにこいしを地底に送るときに会ったな。それでももう何カ月も前のことだけど。

 

「そうですね…それにしても未だに定晴さんのその考え癖は治らないんですね」

「ああ、うん。ルーミアにも言われてるんだけどな…」

「注意してもすぐ考え込むんだから」

 

癖というのは中々抜けきらない。ただ俺は考えて自己完結で物事を処理することも多いので実のところさとり相手が一番話しやすいのではないかとも思っている。

なおさとりには隠し事とかできないのでルーミアは普通の口調である。別に俺は日頃からこの口調でもいいと再三言っているのだが、ルーミアは中々首を縦に振らない。

 

「悟り妖怪相手が一番楽って変ですよ。それに定晴さんの悩みは今は解決できそうにありませんね。さて、中に入りましょ」

「ああ、そうだな」

「一体何を考えていたのよ…?」

 

さとりの後ろについて地霊殿の中に入る。

地霊殿では動物たちが自由に過ごしている。こういうところも前に来た時とあまり変わらない。妖怪化している動物もいるし、ただの動物もいる。妖怪化している動物たちは働いているが、動物たちは本当に気楽そうである。外の世界で働きづめの人々を動物にしてここに入れればとても大きなリラックス効果がありそうである。

 

「私が知らない間に地上でも色々あったみたいですね。お燐から聞いています」

「そうだな。地上はこの一年はとても大変だったよ」

 

不動が特に。

というかお燐は地上での情報収集も担当しているのか。じゃあ縁側で寝ているのも実はただ寝ているだけではなくて霊夢たちの会話から地上での情報を集めていたり…

 

「いえ、縁側で寝ているときは普通に寝ています。情報収集は猫の姿で人里を歩いたりして行っているみたいですね」

 

いつの間にかこちらを向いていたさとりが答えてくれた。そうか、あれはただの休憩か。

さとりの第三の目が向いていなければ心は読まれないのでさとりの死角でなら問題はない。さとりに心を読まれなければあんなことやこんなことでも考えることができる。

 

「あの…そういうのは、私が前に向き直ってから…うぅ…」

「おっとすまん」

 

俺はあんなことやそんなこととぼかしたがさとりにはちゃんと光景が映ったらしい。中々大変そうな能力だとこういうときに実感する。まあ今さとりに迷惑をかけたのは俺の責任だけど。

 

「ここにこいしがいますので、私は自室に戻りますね」

「一緒にいないのか?」

「はい。よろしければあとで残り物でもくれると嬉しいです」

 

そう言うとさとりは歩いて行ってしまった。残り物というか、ちゃんとさとりの分も用意してきている。さとりはあまり甘くない方がいいかと思ってこいしのものとは別に分けているので後で渡すことも全然問題ないのだが。

 

「あ、私もここで待ってるわ」

「はい、私もここで」

 

どうやら二人もここで待っているらしい。随分とこいしに気を遣っているなみんな。

妙にニコニコしたルーミアと何かを察してルーミアの隣に立っているユズを尻目に俺は部屋へと入った。

 

「よう、久しぶりこいし」

「あ、定晴!やっほー!」

 

こいしはソファで足をバタバタさせていた。部屋には本も置いてあるけどそれを読んだ形跡はない。いつからここにいたのかは知らないが暇ではなかったのだろうか。

 

「ほら、こいし、クッキーだ」

「えへへ、ありがと」

 

はにかみながら笑うこいし。少女らしいというよりも女性らしい笑みである。俺と出会ったときはこのような表情は浮かべなかったと思うのだが、こいしも精神的に成長しているということだろうか。

 

「こいしはクッキー好きか?まあ作る前に聞くべきことだったかもしれないが」

「好きだよー。定晴が作ったクッキーならもっと好きー」

 

こいしにクッキーを作ってあげたことなんてあっただろうか。覚えていないけど前に地霊殿でしばらく生活していた時にクッキーくらいは焼いたかもしれない。

 

「ねえねえ定晴」

「ん?」

「色んな人に告白されたんでしょー?モテモテだねー?」

 

なぜかこいしが爆弾を投げてきた。今の俺には結構デリケートな話題である。魂のことについて説明してもいいのだけど、こいしがちゃんと理解できるのかも分からないし、こいしには関係のない話だ。

 

「まあな」

「…ルーミアちゃん来てる?」

「え?ああ。ユズっていう妖怪もいるぞ」

「今はどこに?」

「この部屋の前にいる。なぜか知らないけどさとりも二人もこいしに気を遣っているようだ」

 

どことなくホワイトデー前のレミリアのような感じもする。結局レミリアの意図もよく分からないままだが、レミリアはどこか満足そうだったので何かが上手くいったのだろう。ということは現在もあの三人にしか分からないことが進行中ということなのだろうか?

 

「ちょっと二人と話したいことがあるからさ、定晴はお姉ちゃんと話してきてよ」

「え?まあいいけど」

「すぐ終わるから。終わったら迎えに行くねー」

 

こいしに部屋から追い出された。俺が部屋を出たらこいしが二人のことを呼んだので俺と入れ替わりで二人が部屋に入った。一体なんだっていうのだろう…

俺はなんとなく疎外感を覚えながらさとりの部屋に向かった。さとりにはうっすらと笑われながら災難でしたねと言われた。本当になんだっていうのだろうか。

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