東方十能力   作:nite

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幽香さんの気持ちが分からない…この人何考えてるんだろう…


二百六十二話 スキンシップ

「やっほー定晴。会いに来たわよ」

「幽香?」

 

それは春のある日。今日も今日とてルーミアが不在な日に家に幽香が遊びに来た。紫はあの日以来も何度か家に来て適当に駄弁っているが、幽香が来るのは初めてだ。というかルーミアの告白から会うのは初めてである。

 

「久しぶり…」

「ええ、失礼するわよ」

 

幽香は家の中に堂々と入ってきた。ユズは来客を察知して素早くお茶を準備したのちに自分の部屋へと逃げてしまった。仕事はきっちりとこなすあたりよくできた子である。最近は来客が多くてリビングでゆっくり休むことができていないようなので申し訳なく思っている。

 

「何気に私が家の中に入るのは初めてかしら?」

「そうだな。そもそもあまり幽香が家まで来ることはないからな」

 

幽香と会うと紫、ルーミアと向き合った時よりも緊張する。それは幽香が最初に告白してきた人であり、最も長い間返事を待たせてしまっているからだ。幽香に対しても申し訳なく思ってしまう。

 

「もうっ、別に返事を急かしに来たとかそんなんじゃないんだから定晴も座りなさい?」

「ああ、悪い」

 

机を挟んで幽香に向かい合うように俺も椅子に座った。こうやって幽香と向かいうのも新鮮だ。

実のところルーミアとも随分と長い間同居したので過ごした時間ランキングだと三人の中で幽香が最下位になってしまっている。過ごした時間の長さが一番大切だと言うつもりはないものの、現在の幽香との距離感を未だに掴めずにいるのも事実である。

 

「聞いたわよ。中々面倒な精神状態らしいじゃない」

「そうだな…仕方がないと言うわけではないが俺自身だとどうにもならない気がする」

「ま、そのために私たちがいるんだけど」

 

やはり幽香も紫同様ルーミアから話を聞いていたようだ。これも俺の知らない三人の間にある連絡手段によるものなのだろうか。俺は紫のスキマを使ったものかと思っていたが、最近は紫が作った独自のチャットなのかもしれないとも思い始めている。

 

「というか定晴、何で私には会いに来てくれないのかしら?もう私は定晴争奪レースから外れた?」

「いや、そういうわけじゃないんだが…」

 

幽香の家は若干遠いというのが理由の一つ。ついでに自分から会いに行くのもどうかなと思っているのが理由の一つだ。紫の家とは違って俺の意思で行くことができるので頻繁に行ってあげた方がいいかもと思いつつも、話すことも思いつかないので行くことができるにいる。

ということをそのまま幽香に伝える。

 

「意気地なし!」

「すまん…」

「まあだからこそ今日は私が会いに来たってわけだけどね」

 

言い訳をするのなら幽香は結構日中は外に出ていることが多いので家に行っても会えるかどうか分からないので少し億劫になっているということを知ってほしい。うん、ただの言い訳だ。手紙かなんかで伝えておけば時間を作ってくれることくらいは分かっている。

 

「それで、今の私への印象はどうかしら?」

「申し訳ないけど友人としか思えない。紫たちもそうなんだけど」

「まあ知ってたわ。それじゃぁ…」

 

幽香は椅子を立って俺の横に移動してきた。そのまま俺に体を倒してくる。

 

「ど、どうかしらっ?こういうのは!?」

 

椅子を立った時は澄ました表情をしていたというのに俺に倒れ掛かった瞬間顔を真っ赤にして、声も裏返っている。そんなに恥ずかしいのならしなければいいのに…これも一種のアピールなのだろうが。

 

「顔真っ赤だぞ」

「うるさいわねっ!こういうキャラじゃないのは分かってるわよ!」

 

幽香は体を元に戻してこちらを向いた。未だに顔は真っ赤なままだ。いつも幽香は冷静な対応をしているのでこんなに分かりやすく赤くなっているのは珍しい。

 

「うー…でもこれくらいしないとあなたにはアピールにならないって紫に聞いたのよ」

「あぁ…」

 

紫はあまり恥ずかしがることなくスキンシップを取ってくる。実際抱き着いてきたり倒れ掛かってきたりするのはよくやっている。今までの紫はそれで俺に気付いてもらえなかったからもっと過激にした方がいいとかそういうことを言ったのだろう。

 

「俺は別にスキンシップだけが伝える方法じゃないと思うぞ?というか紫のアドバイスなんてそこまで真剣に聞かなくていいぞ。あいつ、いざって時以外は基本的にポンコツだから」

「まあそれは言えてるわね。でも…私、異性へのアピールの仕方なんて知らないわ。やっぱりレースだと最下位なのかしらね」

 

幽香はあまり交友関係を持つことが少ない。実際俺よりも幻想郷に住んでいながら交流を持った人数であれば俺よりも少ないだろうことが窺える。植物を求めて色んなところに行っているという点では、様々なところに行く俺とそこまで変わらないように思えるが、その先で出会う人と話すことは少ないのだろう。幽香の話し相手は専ら植物たちだ。

 

「というかなんでこのことで定晴にアドバイスを貰わないといけないのよ」

「そう言われても」

 

俺はどうしてもみんなのことを友人としてしか見ることができないので俺からアピールすることは多分ない。それにそういうことはあまりしてこなかったから俺もどうするべきかは知らない。演者をしていた時にラブロマンスのシナリオを演じたこともあるが、そのときの行動がそのまま活用できるとも思えない。フィクションはあくまでフィクションなのである。

 

「ま、まあ、今日は別に無理にアピールするために来たわけじゃないから。私と普通に喋りましょ?」

「そんなことなら全然構わないぞ」

 

幽香とは隣り合った椅子に座りながらただ雑談をした。紫のようにグイグイ来るわけではないので俺も話しやすい。随分と長いこと話したのちに外が暗くなってきて、ルーミアが家に帰ってきた。

 

「ただいまー」

「おかえりルーミア」

「お邪魔してるわよ」

 

そういえばルーミアは幽香の前での態度はどうするのだろうか。でも幽香は暴走状態でのルーミアのことを去年見ているわけだし隠すこともないだろうか。

 

「来てたのね幽香。ご飯も食べていくの?」

「定晴がいいなら食べていきたいんだけど…」

「いいぞ。ルーミア、ユズを呼んできてくれ。ユズには少し息苦しいかもしれないけど、他の人に慣れるためってことで」

 

そして珍しい四人での夕食の時間を過ごした。幽香はユズとも絶妙な距離感を保ってくれたおかげでユズもそこまで辛そうではなかった。チルノたちもたまに幽香にお世話になっていると大妖精が言っていたので距離感を保つのは得意なのだろう。

幽香への印象が少しだけ変わった、かもしれない。

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