しばらく飛べば前方で戦闘音が聞こえてきた。そして何人もの妖精の悲鳴も。
「随分とチルノは大暴れみたいじゃないか」
「うう…大丈夫かなぁチルノちゃん」
心配そうな大妖精の声を後方に聞きつつ急ぐと、開けた場所でチルノは大人数の妖精たちを相手に大立ち回りをしていた。妖精たちが放った弾幕を悉く凍らせて割っている。しかもその衝撃で多くの妖精たちが吹き飛んだ。
「あれって弾幕ごっこ的にセーフなのか?」
「あまりよくないですけど…でもまあ霊夢さんたちのような人の弾だと凍らせることができませんし妖精同士でしかしないということで…」
そんなもんか。まあ俺も弾を斬ったりしているし似たようなものかな。本当は完全に回避だけでスペルカードは攻略したいところだし、霊夢たちもそのように回避しているが…俺の風式飛行方法はそこまで繊細な移動はできないので仕方あるまい。
「で、俺はどうすればいい。あれに乱入してすべての弾幕を斬ればいいのか?」
出来ないこともない…と思う。昔紫とのガチ戦闘のときに使った輝剣の複製で弾を切り刻めば多分なんとかなる。しかし俺の案に大妖精は首を振った。
「いえ、もう少しだけ様子を見ます。多分三妖精の誰かが出てくると思うので、その時に飛び出てチルノちゃんと三妖精の両方と話し合いをします」
大妖精は本当に冷静沈着だ。状況と未来を的確に分析し、どう動けばいいかをすぐに判断している。所謂指揮官タイプ、裏方が似合う役割を果たすことができるわけだが…生まれ持った才能なのか、それとも自由奔放なチルノをはじめとした妖精たちの相手をしてきたからか…ここから見える戦闘を見るにチルノは妖精の中でも強いのは間違いないだろうが、敵にしたくないのは大妖精だな。
「あと妖精術を…これで少しばれにくくなったはずです」
「なんだそれ」
「妖精が使う魔法みたいなものです。強くはないですけど色々といたずらに使えるんですよ」
少しだけ茶目っ気を混ぜて笑う大妖精。冷静沈着で大人っぽいという評価を下した大妖精だが、その本質は他の妖精と変わらない。悪戯好きで子供らしい普通の妖精だ。知恵を付けた結果狡猾さではなく大人しさを身に着けたのは幸運だっただろう。もしかしたらチルノ以上の問題児になっていた可能性もある。
「やっぱりチルノちゃんはすごいなぁ…」
大妖精が戦うチルノを見て呟く。チルノはどれだけ濃密な弾幕を張られてもすぐに凍り付けにしてしまって被弾する様子を見せない。たまに周囲のすべてを凍り付けにしているのはスペルカードだろうか…多分あれで魔法の森のキノコが凍ったのだろう。見るからに見境ないし弾くらいの大きさのものを全部凍るつもりでやっているのだろう。
「チルノってあんなに力出して途中でガス欠になったりしないのか?」
俺の場合は霊力、ルーミアなら妖力、神奈子とかミキなら神力といった感じでそれぞれに力があり、その総量は決まっている。俺やミキはそれこそ多量の器を持っているもののそれでも大技ばかり撃ち続ければどこかで底が尽きる。
「妖精って自然のエネルギーで回復できるんです。私の場合はそこらへんの森の中にいるだけで回復できますし、サニーちゃんなんかは日光に当たってさえいれば回復し続けられるんです」
「じゃあ…チルノは氷?流石に氷はないが…」
「一応自然の中にいるだけである程度回復できますから…むしろ敵の妖精たちが回復しないように一撃で一回休みにしちゃった方がいいんです」
妖精には妖精の戦い方があるということか。外の世界に比べて多くの種類の妖怪が幻想郷には住んでいるので戦い方の参考になるな。
外の世界では科学技術の進化と妖怪などへの存在否定が進み、精神生命体である妖怪の量が減ってきている。たまーに妖怪ブームみたいなのが起きて、その時は俺も怪異退治の依頼を多く受けていたものだが、基本的にはメジャーな妖怪ばかりが対象だったので花妖怪とかスキマ妖怪とかいう特殊な妖怪たちが住んでいるここでは戦闘研究にも余念がない。
「あっ」
大妖精が声をあげた。チルノが被弾したのかと前を見ると、そこには明らかに幹部感を出している一人の妖精がチルノの前を飛んでいた。黒い髪に青い服、あれが大妖精が言っていた三妖精の一人なのは間違いないだろう。
「定晴さん、行きましょう!」
「おう」
俺たちは茂みから飛び出してチルノとその妖精の間に割って入った。
「なっ、大ちゃん!また邪魔しに来たの!?」
「違うよ!私は止めに来たの!スターちゃんもちょっと待って!」
どうやらこの幹部感を醸し出している妖精は光の三妖精の一人、スターサファイアらしい。名前からして回復手段は星の光だろうか。地上まで届く星の光って相当微弱なものだが…しかし数が多ければ回復量も増えるのだろうか…
「なによ大ちゃん。大ちゃんも私たちの仲間になりに来たのね?」
「違うって!妖精は話を聞かないんだからもうっ!」
大妖精は自分が妖精であることも忘れて妖精という種族に対しての愚痴を吐いた。大妖精の日頃の苦労が垣間見えるようでなんとも言えない気持ちになる。仲良くやっているのだろうが、大変なことも多いのだろうな…
「あー…チルノ、大妖精の話も聞いてやれ」
「さ、定晴…あ、えっと…」
チルノは今更俺に気が付いたような反応を見せた。そして途端に狼狽え始める。妖精以外を巻き込むつもりはなかったのだろうか。異変が始まれば問答無用で博麗の巫女が乱入してくるのは当然だろうに…
「仲間にならないならあなたたちもまとめて倒す!そして私たちの配下になってもらうわ!」
「スターちゃん!」
大妖精の声も空しくスターは弾幕を撃ち始めた。それに気づいてチルノも対抗弾幕を撃ち始める。その間にいるのは当然、俺たちだ。
「大妖精!どうする!」
「このまま二人とも気絶させちゃってください!お願いします!」
大妖精はそれだけ言うといつの間にか戦線離脱した場所にいた。移動した形跡もないし、まさか短距離瞬間移動だろうか。妖精術の一種、ということなのかもしれないが…妖精って何気にすごいのな。
さて、大妖精に取り残された。俺はと言うと妖精の中でもそれなりに力がある妖精二人に囲まれているので…まあまあ必死である。
輝剣で弾をはじきつつ結界での相殺も行う。チルノの方に弾や結界を撃つと全部凍らされてしまうので基本的にはスターがいるところに向かって撃つ。先ほどチルノが戦っているのを見ているときに気が付いたのだがチルノはレーザーは凍らせることができないみたいなので、魔術でレーザーを撃って牽制する。
大妖精が見守る中、俺は一対二の戦闘を余儀なくされたのだった。