東方十能力   作:nite

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二百七十一話 内緒話

いくつかの妖精の群れを適当に作った光る石を投げることで誘導して魔法陣を解除すること四つ。どれも魔力を貯めるために作られた魔法陣であり、また屈折による隠蔽も施されていた。どれも三妖精が仕掛けたものと見ていいだろう。

 

「うーん、ここらへんの妖精の群れはこれくらいかしら。あたいはもう分からない!」

「そうか。じゃあまあ取り敢えずこれくらいにしとくか…」

 

この魔法陣が何のために用意されたものなのかは分かっていない。しかしながら何か意味があるのは明白であり、それを知るためにはやはり当事者に聞くしかないだろう。何も話さないと言っていたスターだが、魔法陣のことで揺すりをかければ多分何かを失言してくれるだろう。失言を期待するなど性格がよくないことではあるが…あちらが撒いた種なので致し方ないだろう。

 

「チルノ、一度人里に行くぞ。スターから何か情報が引き出せるかもしれない」

「分かったわ!それで…えっと…」

 

元気に返事をしたと思ったらそのままモジモジしだしたチルノ。一体どうしたのだろうか。

 

「あたい…定晴の役に立てた…?」

「ん?ああ、ばっちりだ。チルノのおかげで進展がありそうだよ。ありがとな」

 

何を言うのかと思えばチルノらしくない言葉だった。まさか自分が役に立ったかなんて聞いてくるとは…いつものチルノなら自己肯定感高く「あたいのおかげで…」とか言ってきそうなものだが…大妖精に何か言われたのだろうか。

 

「そ、そっか…えへへ…」

 

そしてお礼を言ったら普通に照れた。なんだか今日のチルノはいつもと違う。やたらと聞き分けがいいし素直だ。それに献身的…本当にチルノか?妖怪の中でも狐やら狸やらは化けの天才とも呼ばれ、何度も戦ってきた俺であっても見た瞬間に化けているか分かるということはない。

もしチルノに誰かが化けているだとしたら…少しというか大幅に本家とずれている。流石に狐や狸がこんなお粗末な真似はしないだろう。しかし他の妖怪だとすれば流石に化けているのは分かるので…やはりこれは本物ということになる。でも本物がこれなら狐が化けてもこれに…これイタチごっこだな。

思考を中断して人里を目指す。飛んでいる間、いつもはうるさいチルノが随分と静かだったのが気になった。

 


 

スターちゃんを連れて駄菓子屋で遊んでいたら定晴さんとチルノちゃんがやってきた。この駄菓子屋は駄菓子以外にも子供向けのおもちゃが色々と置いてあってよく遊びに来るのだ。多分そのおかげで私たちの場所もすぐに分かったのだろう。

 

「ちょっと気になることがあるからスターを借りるぞ」

「はーい」

 

拘束は解いてあげたけど逃げないようにずっと手を掴んでいたスターちゃんを定晴さんに引き渡す。別れてからそこまで時間は経っていないはずなのにもう進展があったのだろうか。やはり依頼解決のプロフェッショナルは違う。

定晴さんがスターちゃんと話している間に私はチルノちゃんに話しかける。手持無沙汰になっていたというのもそうだが、それ以上に進捗を聞かないといけないからだ。

 

「どうチルノちゃん?定晴さんと話せた?」

「いつも通り話したけど…話してるだけで頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃう…」

 

一応一対一で話すという目的は達成できたみたいだ。しかし内容は定晴さんから振られたことに答えるだけで完全にビジネスパートナーのようになってしまっている。

しかし何か嬉しいことがあったのかチルノちゃんは頬を赤らめつつ少し微笑んでいる。チルノちゃんらしからぬ乙女な表情に私の方が恋してしまいそうだ。流石の私も同性愛者ではないのでチルノちゃんに劣情を抱くということはないのだけど。でもこの表情を見ても定晴さんは何も感じなかったのだろうか…噂に聞いてた定晴さんは鈍感という話が現実味を帯びてくる。

 

「もっともっと定晴さんの役に立ってアピールしよう!」

「大ちゃん、本当にこれ意味あるの?あたい悪化してってるような気がするんだけど」

 

チルノちゃんは現在の自分の状況を精神疾患的なものだと思っている。確かに恋を精神の病気だと言うのであれば、まあ、間違ってはいないだろうけど。私はチルノちゃんを応援せねばならない。せめて自力でこの気持ちに気付いてもらいたいところ。

問題はチルノちゃんがそもそも恋というものを知らない可能性がある。勿論私たちも人里で色々と男女のあれこれを見てきたので恋愛についてある程度の知識はあるものの、自分の感情となると話は別だ。私も妖精が人間に恋するなんて思わなかったから実際チルノちゃんがどんな感じなのか分からないのがむず痒い。

 

「大丈夫。なんならもっと加速させよう。なんなら定晴さんに抱き着いちゃおう!」

「定晴に…抱きつっっ!!」

 

一気にチルノちゃんの顔が赤くなり俯いてしまった。少しやりすぎてしまっただろうか。妖精としての悪戯心が刺激されてしまい少し言いすぎてしまった。だってチルノちゃんがかわいい反応を見せるから…

 

「むっ、無理!なんかわかんないけど無理!」

「えー?」

 

チルノちゃんが顔を真っ赤にして頭をぶんぶん振っている。かわいい。

これは無理やりにでも抱き着かせるのがいいのではないだろうか。それこそぎゅっとさせてしまえばチルノちゃんが面白いことに…はっ。また私の悪戯心が。定晴さんには大人しくて妖精らしくないと言われているが、私も妖精らしく悪戯好きだ。面白い反応が見られるのではないかと考えるとどうしても悪戯をしたくなってしまう。

 

「じゃあさ、チルノちゃんはどうしたい?」

「あたい?」

「うん。チルノちゃんはこの後どうしたい?」

 

私から押しつけばかりしていてもだめだ。チルノちゃんから積極的に動いてもらうためには自分で決めた目標を作らないといけない。私は保護者気分でチルノちゃんへの質問をした。対してチルノちゃんは…

 

「もっと…定晴と仲良くなりたい…」

 

今日のチルノちゃんはやっぱり素直でかわいいなぁ…いつもの高圧的なチルノちゃんもリーダーシップがあって好きだけど、今日のチルノちゃんは女の子としての魅力がいっぱいだ。恋は乙女を成長させるなんて誰かが言っていたけど…チルノちゃんは私よりも先に大人になるのかな。

 

「あ、定晴さんの尋問が終わったみたい。チルノちゃん、ファイトだよ!」

「う、うん!」

 

私はチルノちゃんを送り出す。今日はこのまま一日中定晴さんについていってもらう予定だ。今のチルノちゃんには気持ちの整理が必要だけど、それと同時に定晴さんとの時間も増やさないといけない。スターちゃんとサニーちゃんとルナちゃんが異変を起こそうとしているのは事実だけど、今回はその異変をそのままチルノちゃんのために利用させてもらおう。

私は定晴さんからスターちゃんを受け取る。異変を利用するとはいえ長引かせてしまうのは定晴さんに申し訳ないのでスターちゃんにはこのまま一緒にいてもらう。スターちゃんの能力が逃げることに使える能力じゃなくてよかった。まあ一度逃げられて見失っちゃうと私を撒くには優秀な能力なのでこの手を離さないようにするけど。

 

「大妖精、なんとなく次の目的地が決まったから行ってくる。チルノがやる気みたいだからまた連れて行くがいいか?」

「はい!チルノちゃんのこと、お願いしますね」

 

正直定晴さんが異変解決に関わった時点でこの異変は終わったと思っていいと私は考えている。それくらい私は定晴さんのことを信頼している。だからお願いするのは異変のことじゃなくてチルノちゃんのこと。定晴さんは鈍感らしいので念には念を押しておかなければ。

私はスターちゃんに餌付け用の駄菓子をあげつつ二人のことを見送った。

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