東方十能力   作:nite

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二百七十四話 とある氷精の発露

チルノの底なしの元気に励まされてから扉の奥へ。どうやら洞窟となっているようで、側面には明かりとなる松明が刺さっていた。魔法やら妖術やらで明かりを生み出すことができる幻想郷の妖怪たちは基本的に松明なんていう人工的なものは使わない。幻想郷内でも松明があるのは基本的に人里周辺に限るのだが…もしやここは人里の人々が作ったのか?しかし幻想郷の住人には鉄の加工技術などないはず…河童か?

この場所は妖怪の山から離れているため河童の活動範囲とは言い難い。しかし河童というのは時に人里や迷いの竹林で実験を行うことがあるとにとりは言っていた。まあだからと言って鉄の扉をここに作る理由などないが、もしかしたらそういう実験場として作られた可能性はある。そしてそれを妖精たちが使いまわしているという可能性も。

 

「定晴、この先に妖精がいるわよ」

「確かか?」

「でも地上の妖精じゃないみたい」

 

地上の妖精…ということは地下や天空などにも妖精がいるのだろうか。そういえば地底の妖精は地底で生活していた頃に見たことがあるような気がする。地上の妖精に比べて色が濃くて、地上の妖精と同じように悪戯好きだったはずだ。多分生きている環境は違っても悪戯好きな妖精の本質は変わらないのだろう。

どれくらいの数で、どれくらいの強さなのか、チルノには分かるのかもしれないが俺には分からない。直接俺が確認した方がいいだろう。俺はチルノの方を少しチラ見して言う。

 

「チルノ、ここで待機。俺が様子を見てくる」

「え…あた、しも一緒に行く!」

 

何があるか分からないのでチルノには待機していてほしい。例え至近距離で核爆発が起きようとも俺一人の体ならば無効化の力を使えば無傷でなんともなく終わるからだ。河童が作ったのなら罠の可能性を考える必要があるし、そうでなくとも妖精たちなら罠は確実に設置していることだろう。チルノは一回休みになるだけなので問題ないかもしれないが、大妖精にも申し訳ないしチルノを守れないというのも嫌になる。

しかしここで思い出すのが地底での異変。あの時は俺が戦闘をするからと言ってこいしを離れた場所で待機させといたら、逆にそれを利用されてしまってこいしは捕まってしまった。今回も同じようなことが起きないという保証はない。あの時は戦闘という目前の障害があったものの、今回は何かあるか分からないという概念的な障害しかない。あの時を思い返して反省するならば…

 

「…分かった。チルノ、離れるなよ」

「もちろん!」

 

離れないようにチルノと手をつなぐ。少しチルノの手を握る力が強いような気がするが、もしかしてチルノは暗いところは苦手なのかもしれない。松明があるとはいえ日光が入るわけでもないので暗いのは変わらない。

 

「大丈夫か、チルノ」

「…うん、今はとっても落ち着いてるから、大丈夫」

 

やはりチルノは暗いところは怖いのかもしれない。もしくは初めて入る場所で怖いとか。チルノがそういうものに対して恐怖心を抱くという印象がないので気にしていなかったが、チルノとてまだまだ子供なわけだし知らない場所が怖いのも無理はないだろう。

俺はチルノの手を離さないように手をしっかりと繋ぎながら奥へと進んだ。

 


 

じんわりと温もりが伝わってくる。定晴が握ってくれたところから少しずつ体が温まっていくのを感じる。あたいは思ったよりも凍えてしまっていたようだ。氷の妖精なのに怖くて震えるなんておかしな話。そもそもこういう知らない場所での探索はいつも楽しく大ちゃんたちと遊びながらやっているっていうのに…それでも怖くなってしまうのはこの先にいる奴がただの妖精じゃないっていうのが分かるからだろうか。

あたいはサイキョーだ。それはいつまで経っても変わらない。まだ定晴に勝ったことはないけど、いつかは勝ってやろうとは思っている。最近は定晴と普通に遊んでた方が楽しいからあまり戦わないけど、チャンスがあればもう一試合くらいはしたい。人間には勝てなくとも妖精の中ではまだまだサイキョーなんだ。

でもこの先にいる妖精からは気持ちの悪い気配を感じる。近づくごとにおかしくなってしまうような、気が狂ってしまうような気分。災害が起きて森とかが荒れてエネルギーがぐちゃぐちゃになっちゃったときに似ている。定晴はそれを感じているかな。

あたいはそれを鉄扉を開けた時から感じてる。多分鉄の扉がお札みたいになってたんだと思う。霊夢にお札で動きを縛られているときに似ているから。

この気持ち悪さのせいで氷の妖精のあたいが凍えてしまったようだ。でも…定晴に手を握ってもらってからは体の芯が熱い。夏の暑さじゃなくて、もっと…冬に暖かい部屋に入ったときみたいな暖かさ。氷の妖精のあたいにとっては冬の寒さなんてへっちゃらだけど、大ちゃんたちが寒がって建物の中に入った時の心地よさも分かっているつもりだ。あの瞬間の体が暖かくなる感じによく似てる。

それにさっきから繋いでいるところがすごく気になる。ただ手を繋いでいるだけなのに、大ちゃんたちとも手を繋ぐことはあるはずなのに…それに定晴と手を繋いでいるんだと思えば思うだけ熱くなっていく。なんだか…手を放したくない。ずっと、ずっと…このままずっと手を繋いでいたい。この先にいる妖精が嘘ならいいのに。あたいの勘違いで、本当は何もいなければいいのに。そしたらまだ手を繋いでいられる。定晴と手を放さずにいられる。

手を繋いだことによって、定晴のことをどんどん考えてしまう。最初は他の人間と変わらないって思った。霊夢みたいに、魔理沙みたいにこっちを攻撃してくると思った。だから先手必勝で戦いを挑んで…しばらくしたあと、今後は普通に遊んだ。定晴が作るお菓子は紅魔館のメイドのやつと同じくらい…それ以上に美味しくて、大ちゃんたちと分け合うのが勿体ないくらいだった。バレンタインの時にもらったお菓子は今も周囲を氷漬けにして少しずつ食べている。

そして定晴に助けられて、そして次は定晴を助けて…定晴と遊ぶことが本当に楽しくて、大ちゃんたちと遊ぶときよりも気分がよくて、ルーミアが定晴と一緒に暮らしているって聞いたときはとてももやもやして…

…定晴。

…あたい…あたし…

あなたのことが…

好きだな…

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