東方十能力   作:nite

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二百七十五話 地獄の妖精

謎の洞窟の先に進む。チルノが言う妖精の気配というのは分からないが、魔法陣から出ていた魔力ラインを辿っているのでこの先に何かが繋がっているのは分かる。魔力ラインというのは終着点もまた何かしら魔力を入れることができるものではないと繋がらないからだ。ただ魔力を放出しているだけ、なんていうことはあり得ない。何かがある、もしくはいる。

 

「チルノ、どれくらいの距離か分かるか?」

「…」

「チルノ?」

「へあっ!?あ、えっと、なんて?」

 

チルノがぼーっとしていた。こんな敵地のど真ん中っぽい場所でぼーっとできるのは一種の才能だ。俺は訓練をしてできるようになった危険地帯でも寝るということをチルノはすぐにできそうである。

 

「距離だ。目標までの距離」

「えっと…そこの角を曲がったとこ」

 

いやすぐじゃん。もう目の前じゃん。

うん、もう諦めて堂々と行くか。チルノの話だと相手は妖精らしいが、こんなところにいる妖精がただの野良妖精とも思えないので気を引き締める。そしてついでに身体強化もしておく。身体強化は攻撃に対する防御力も高めることができるので戦闘前であればどんな時でも使っておいて損はない。

 

「行くぞ」

「うん」

 

今度はちゃんと返事をしたチルノ。しかし少しばかり顔が青い。やはりこの先にいる敵が原因だろうか。それにこの空間という悪環境も相まってチルノでも中々辛いのだろう。もう少しの辛抱だから頑張ってくれ。

ゆっくりと角を曲がる。どうせ何をしたってバレるのだから致し方あるまい。魔法陣の護衛に対して使ったキラキラ石でも投げておくべきだったか。

 

「おー?三妖精かと思ったら人間じゃーん。それにチルノもいるじゃーん?」

「な、あんたはピース!なんでこんなところにいるのよ!」

「知り合いか?」

 

俺にとっては初めましてな妖精だがチルノとは面識があるようだ。

黄色の髪、ピエロみたいな帽子、星条旗の服…妖精にしては随分と奇抜な恰好である。というか日本にある幻想郷でアメリカンな文化を取り入れることは結構難しいのだが、星条旗などどこで見つけてきたのだろうか。もしかしてアメリカのものも無縁塚に流れ着くのだろうか。

 

「こいつは地獄の妖精よ!サイキョーのあたいよりも悪戯向きな妖精で…」

「異変解決のために霊夢が来たのかと思えばただの人間!キャハハ!チルノ、案内してくれてありがとね!」

 

どうやら霊夢とも面識があるようである。今まで一度も見たことがない妖精だがもしかして普通に幻想郷でほっつき歩いている妖精なのだろうか。ただ妖精にしては随分と力が強くなっているような気もするが…

 

「あたいはクラウンピース。そこのチルノの言う通り地獄の妖精!妖精たちのついでにあなたにも人里で暴れてもらうとしますか!」

 

まさかの一人称〈あたい〉二人目!でもさっきからチルノは〈あたし〉にこだわっているようだから絶妙にキャラ被りを避けることができたかもしれない。いやまあ見た目からしてもキャラ被りなどできようもないが。

ピースはどこからともなく取り出した松明の火をこちらに向けてきた。もしかしてここまでの道にあった松明は彼女が設置したものだったのだろうか。と思っていたらチルノが大声を出した。

 

「あいつはあれで狂わせてくるから定晴逃げて!」

「もう遅い!」

 

ピースが持っている松明が強く輝いた。そして俺の体をすり抜け…そして何も起きない。そりゃそうだ。状態異常系は俺には効かないのだから。身体強化は任意で発動させているが、浄化に関しては常に体に張っているので不意打ちの毒や催眠は俺には効果がない。

 

「ふむ」

「あれ?えいっ!えいっ!」

「さ、定晴…大丈夫?」

「ああ、全く問題ない」

 

チルノが心配そうにこちらを見てくるが全くもって問題ない。たまに無意識もしくは潜在意識下で催眠をかけるような術があるのでそれを一応気にして狂気に訊ねておく。

 

『大丈夫だな?』

『問題ない。いつも通りだ』

『いつも通りの鈍感さんだね!』

『魔力の流れも正常よ。気にしなくていいわ』

 

狂気と魔女から問題ない報告が聞けた。そして愛はいつまでいるつもりだ。せめて静かにしててくれ。

魂レベルで見ても問題ないようだしやはり俺にはピースの能力は効いていないようだ。幻想郷住人の能力とは時によりとてつもない効果があるので、それを気にしなくていいと分かればこちらとしても気が楽である。

 

「むー…じゃあチルノあんたにかけてあげる!」

「えっ!?」

 

ピースが松明の先をチルノに向けた。光というのは放射状に広がっていくのでわざわざ向きを変えずとも大丈夫だと思うのだが…いや、俺が知らないだけで松明自体にも意味があるのかもしれない。変な詮索は逆に自分の首を絞めることになる。

ピースが松明をチルノに向けた瞬間にチルノの手を強く握る。これできっと大丈夫のはずだ。

 

「えっ、定晴!?」

「えーい!」

「…あれ…ふふん!サイキョーのあたいにはあんたの能力は効かなかったようね!」

「うっそなんでー!」

 

俺の浄化は別に自分自身にしか効果がない能力ではない。触れていれば物質だろうが結界だろうがなんにでもつけることができる。俺の秘儀である三千世界で妖怪が強烈な弱体化を食らうのは無効化の力もあるが、浄化の効果もあるからな。チルノの手を強く握ったのはチルノがピースの光を避けようとして逃げないためだ。流石に動き回る妖精にかけるのは難しい。

 

「なんて…定晴がなんかやってくれてるんでしょ。ありがとね」

「お、おう…」

 

チルノに素直なお礼を言われるのは初めてだ。流石に少しびっくりしてしまう。なんか今日のチルノは妖精らしくないというか、ただの女の子感がすごい。勿論いつものチルノもただの女の子であるのは変わらないのだが、なんだか今日は乙女らしいというか…ルーミアとか幽香とかそこらへんの女性陣に似ているような気がする。

 

「むむむ…そこの人間が原因か!あたいの光からどうやって逃げたか知らないけど、それならもう弾幕しかない!」

「おわっ!」

 

ピースが急に弾を撃ってきた。身体強化をしていたおかげで不意打ちでも回避することに成功したが…あの弾、中々に威力がこもっているように思える。直撃は避けたい。

それにチルノの手を放すわけにはいかない。ピースが能力を使えばチルノが狂わされる可能性がある。離れていてもある程度は浄化をかけることができるが、半永続的に効果を持ち続けるためには俺に触れているのが一番だ。浄化の力が弱まったところに能力をかけられればどうなってしまうか分からない。同じ妖精だからチルノは大丈夫という理論は…先ほどの二人の反応からして期待しない方が良いだろう。

 

「チルノ、手を繋いだままピースを撃退する自信はあるか?」

「手を繋いだまま……ええ!いつもよりも強いわよ!あたしは!」

 

チルノを手を繋いだままという特殊な条件下で、初見の地獄の妖精との戦闘が始まった。

 


 

「あら?秘密の洞窟に誰かいる…チルノと…人間?」

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