「くそっ」
「任せて!凍れええ!」
チルノと手を繋いでいるというのもあるが、それ以上に洞窟という狭い空間が戦闘の幅を狭めている。俺の得意の剣はこの広さでは振れないこともないが、やはり使いづらくチルノに当たってしまう可能性もある。格ゲーでフレンドリーファイアを無効にして同士討ちできないように設定できるものもあるが、それが今非常に欲しいところだ。
戦闘力としてはチルノが適度に弾を凍らせるという荒業をしてくれているので今のところ目立った被弾はない。しかし攻めきれないというのもまた事実であり、このままここで戦闘を続けていても埒が明かないだろう。
「チルノ、少し俺の後ろ側に!」
「分かった!」
手を繋いでいるので限界はあるものの出来る限り俺の後ろ側にいてもらう。今はチルノと左手で繋がっているので俺の右手はフリーだ。だからそこから魔術やら剣やらを使うことになるので射線に入らないようにチルノに動いてもらうしかない。
「魔術【五つの属性】!」
「きゃはは!それくらいだとあたいのところには届かないよ!」
魔術の力で撃った火やら水やらはピースの弾に阻まれてしまい、彼女の言葉通り一つも届くことはなかった。その分弾を相殺することはできているが、弾幕勝負において数個相殺しただけではあまり意味はない。次から次へと新しい弾幕が展開されるからだ。
本当はチルノと分かれて攻撃したいところだ。しかし気を狂わせるという言葉で思い出すのはフランの狂気。あの状態になると敵味方関係なく襲いだすので大変なのだ。もしチルノが敵味方関係なく凍らせるようなことになったらフランよりも大変だ。フランは能力を使って壊そうとしてくるがそれは対象が一つなので俺も無効化できる。だがチルノが放つ氷はそれぞれが独立しているので対象を一つしか選択できない俺の無効化では捌ききれないのだ。冷気であればそれ一つを無効化すればいいものの、チルノが冷気だけで収まるとも思えないのでやはりチルノにピースの能力を使われてはいけない。
「チルノ、なんか作戦はないか?!」
「えっと、えっと…大ちゃんを呼んでくる!」
「それは無理があるだろう!」
まあでも確かに仲間が増えればできることが増えるかもしれない。だがやはり問題なのはピースの能力だ。操るのではなくあくまで気を狂わせるだけなのでピースも攻撃対象となるにはなるだろうが、せっかく呼んだ仲間がこちらも攻撃してくることには変わらないのであまり有効策とは思えない。結局のところ第三陣営が増えるだけであり、戦いにおいて第三陣営は一番何が起きるか分からない爆弾なのであまり作りたくはない。
「ルーミアは?!」
「それだ!」
俺は幻空から一枚の紙を取り出してそのまま全力で霊力を込める。紫や藍も弾幕戦闘中に式神を呼んでいたのでルール的にも何も問題はないはずだ。
「式神【ルーミア】!」
紙から光が広がり、そしてルーミアが召喚される。呼び出すのに必要な霊力量はそこまで多くないがルーミア自体の強さが大妖怪レベルなので結構破格な式神である。
そしてなんといってもルーミアには俺の力が流れているおかげで俺よりは少なくとも浄化の力も持っているのだ。随分と昔にルーミアが、式神の繋がりのおかげで浄化が効かなくなったと言っていたので浄化の力をルーミア自身も持っているのだと考えていいだろう。
「戦闘中じゃん!それになんでクラウンピース…?まあいいや、わはー」
「頼む!」
「…なんで手を繋いでいるの…?闇符【ダークサイドオブザムーン】!」
ルーミアがこちらを見て俺とチルノが手を繋いでいることを訝しんだあとに弾幕を張った。すまん。浄化の力の仕様上致し方なかったんだ。望むならあとでルーミアとも手を繋ぐから…
「きゃはっ!たしかルーミアって言ったよね!そんな無防備ならー…」
ピースが弾幕を張りながら持っている松明をルーミアに向けた。そして一瞬だけ松明が強く光る。先ほどは気付かなかったがどうやら松明の火は能力を使うタイミングで少し強く燃えるらしい。とはいえ環境によって火の大きさなどいくらでも変化するのであまり目安にはならないのだけど。
さて、対するルーミアの様子は…
「…無駄だー!」
「なんでー!?」
うん、ちゃんと効かない。
ルーミアって封印解除状態だと大妖怪レベルの強さになるうえにいつもは周囲に纏うしかない闇を自在に動かして攻撃や防御に使うこともできる。そして今のルーミアは妖力だけでなく霊力もある程度使うことができて、多分霊夢レベルの祈祷師でも調伏することはできず浄化もされない。戦闘力ではまだ紫たちには適わないかもしれないが、厄介さでいえば紫に並ぶ妖怪と言えよう。
「さっきからあたいの能力が効かないやつばっかでつまんなーい!」
ジタバタするピース。ああいう動作は非常に子供っぽいな。ジタバタしている間も攻撃は絶えず飛んできているので全然かわいくないけど。
「ルーミア!上手くあいつの動きを…」
「任せて!」
言い切る前に行動に移すルーミア。うーん、とても優秀。
この洞窟内は松明が壁にあって明るくなっている場所はあるもののほとんど暗い空間だ。つまりここはルーミアの闇の能力ととても相性がいいのである。
どこからともなく伸びてきた質量のある闇がピースの腕に絡まり動きを止めた。試したことはないけど爆発くらいだとあの闇は壊れない。一体どんな物質なのか気になるところではあるがあまり幻想郷では悩みを作ってしまっても理解できず終わることが多いので多分気にしたら負け。
「チルノ、手を放すぞ」
「え……あ、うん…」
急激にテンションが下がるチルノ。そんなに一人なのは不安だろうか。ただしピースを無力化できるまではチルノに対しての能力の行使にも気を付けないといけない。
さて、俺はすぐに輝剣を取り出して身体強化プラスで風の最高速コンボでピースに近付きそのまま一閃。弾幕勝負なのに弾幕で決着を決めなくていいのだろうかという不安はあるものの、幻想郷に来たばかりの頃の魔理沙との初戦の時点でそういえば剣で決着つけてたなと思いだす。魔術にそこまでの適正がないから剣で斬るしか能がないんですよ俺は。
「よし、気絶してるな」
「威力の手加減が上手くなったわねご主人様」
ルーミアがボソッと呟いてくる。どうしても妖精相手だと完全には死なないから大丈夫だろうという無意識が働いてやりすぎてしまう可能性があるから調整するのが中々難しい。もしかしたら妖精はピチュンしても復活するという情報は知らない方が戦いやすかったかもしれない。
「ルーミア、そいつはそのまま縛って人里まで連れて行ってくれないか?あとその松明の火は消しておこう」
結界で松明を囲んで空気の循環をなくせばすぐに火は消える。助燃性のある酸素がなくなるからだ。空気の循環の有無を自由に設定できる結界はこういうときに役に立つな。というかこれもしかして窒息とか…要実験だな。
「じゃあ私はこいつを人里に…「ふぎゃあ!」…なに!?」
ルーミアと話していたら背後からチルノの声がした。明らかに何かよくないことが起きているときの声である。
咄嗟に後ろを振り向くと気絶したチルノを抱っこしている妖精が一人。クリーム色っぽい服を着た妖精で、そこらへんの野良妖精でないことは一目でわかる。
「ルナチャイルド!」
「あれがか!」
どうやらあれが光の三妖精の一人のルナチャイルドらしい。
「待てっ!」
ルナが角を曲がってチルノを連れていく。妖精という非力な種族なので移動速度は遅いはずだ。しかしルナの能力のせいで足音は消えている。確かにこれは隠密行動に全振りすると見つけるのは相当困難だろう。
だがこの洞窟は一本道。すぐに追いついた。こいしの時の二の舞はしない。いや、既にチルノを連れ去られかけたからアウトか…
「ふんっ!」
「きゃあっ!」
ルナを後ろから攻撃し昏倒させる。
思いがけず俺は敵方の妖精二人を捕まえることに成功したのだった。