ケーキを食べ終わって、帰ってきた咲夜に注いで貰った紅茶を飲みながらレミリアと早苗の二人と話していたらフランが帰ってきた。顔は赤いけどなんともスッキリしたような表情で、元気がある。
「心配かけてごめんなさい、お兄様」
「別にそれは構わないんだが…」
「えへへっ…」
うーん?咲夜は敢えてフランを一人にして考える時間をあげたというから俺が予想した通り精神面での問題だったのだろう。そして一人で考えている内に結論が出てスッキリしたという感じで、精神的な問題を抱えている人にとっては一番きれいな終わり方なのだが…
「…定晴、申し訳ないんだけど今日はもう帰ってもらえる?フランと話したいことができてしまったの」
「そうか?分かった」
普段はあまりレミリアは俺に対していつ帰れとかそういう指示はしてこない。流石にフランと遊びすぎて時間が遅くなったときは注意してくるけど、それでも帰った方がいいんじゃない?と提案してくるだけだ。今日のようにはっきりと帰宅を命令してくることは初めてだ。
『わーお…すごいなぁ…』
『狂気が消えかかっている…?』
『妖力の質がなんとなく変わっているような…』
どうやら魂の三人は何かをフランから感じ取ったようだ。ということは魂レベルに影響を及ぼす事象だったわけで、放置していたら結構重大な問題になっていたかもしれない事項だが…
「じゃあまた」
「ええ、またいつでも来ていいわよ」
「えへへぇ…またねっ!」
レミリアとフランに見送られて紅魔館を出た。咲夜はメイドらしく美しい所作でお辞儀をして、門番の美鈴もきれいな礼で見送ってくれた。次回のスイーツは何にしようかねぇ…
さて、定晴は帰ったからフランと話さないといけないわね。これは紅魔館の行く末を決める重大な決議でもあるわ。
「フラン、気分はどう?」
「うん、スッキリしたわお姉さま」
どうやらフランの中で完全に結論は出たらしい。パチェや早苗に教えてもらえずイライラしていた彼女だったけど、やはり自分自身で気が付いた方がいいだろうし、それに他人から言われても完全な実感というのは得られないから咲夜がフランを一人にするという判断をしてくれたことに感謝している。咲夜もまたフランと同じ悩みを持つ少女だけど、私はフランのことを優先的に気に掛けるつもりだからごめんなさないね。
「またライバル登場ですかっ…むむむ…」
「早苗もありがとね!」
今回は早苗も同席している。私以外のこの場にいる三人は全員同じ悩みを持つということで逆に話しやすいだろうとセッティングしたからだ。まああとそういう事情もあり早苗を定晴と同じように帰すというのもあれだったので残ってもらっただけだけど。定晴に聞かれないのであれば何も問題はない。
「それで、フランの今の気持ちを聞かせてほしいわ」
「…お兄様のことが…定晴のことが好き。お兄様としてじゃなくって…男性として、好き…」
フランがとてもかわいらしい乙女な顔をしている。いつから貴女はそんな遠いところまで行ってしまったのだろうか。私と五歳しか違わないと言うのに精神的な成長が著しい。私ほどの淑女らしさはないけど、女の子らしいのはどちらかと聞かれるとフランと答えるだろう。
フランにその兆候が見られだしたのが傀儡異変の後。異変発生当時定晴の近くに唯一いたのがフランらしく、フランは狂気に侵されながらも定晴のことを逃がそうとして精神的な面で色々頑張ったらしい。そのせいかフランが定晴のことを強く意識し始めているのを私は見逃さなかった。
そうなれば姉として一肌脱ぐのも吝かではない。あっちは人間の二十代なので歳の差約四百七十歳だが、妖怪の中ではまだまだ若いし多分大丈夫。スキマ妖怪とかフラワーマスターに比べればまだまだ適正範囲と言っても過言ではないだろう。
「いやぁ、そこまで純粋な乙女の顔をするなんて、フランちゃん変わりましたねぇ」
流石のかわいさに早苗が気圧されている。そうよ、私の妹はかわいいのだから。
とはいえフランが自分の気持ちを自覚したことはスタート地点に過ぎない。スキマ妖怪やフラワーマスターは宴会という場で公に告白をしているのだから既に彼女らには進捗で負けている。パチェが持っている少女漫画という分類の本では、告白されるのを待つために気持ちを伝えずにいたヒロインというのは揃って最後は涙を流して「伝えておけばよかった」なんて言うのだ。そんなの最初から分かっておきなさいよ。
パチェはどうやら恋愛に関してそれなりに幻想を抱くタイプみたいだけど、私はフランに幸せになってもらうために現実的に行くわよ。気持ちを伝えずに関係が良い方向に進展なんてそうそうないんだから。
「フラン、私はさっさと告白した方がいいと思うのだけど…どう?」
「うえぇっ!?」
フランの顔が一気に真っ赤になって体が硬直した。今のフランの血、美味しいかもしれないわね。
「既に先駆者はいるんだから恥ずかしがっている場合じゃないのよ!」
「で、でもぉ…」
自分の気持ちに素直になった方が絶対に良い。私には正直恋愛なんて全く分からないけど、こういう時は急いだほうがいいのだ。
「レミリアさん!流石に無茶ですって…」
「何がよ!」
「好きな人に告白するのって…本当に勇気がいるんですから。例え相手が受け入れてくれるだろうと思っていても、いざ口にしようとすると躊躇うものです」
そういえば彼女も定晴のことが好きなくせに未だに告白できていない側だったか。フランの敵が増えるから貴女は告白しなくてもいいわよ。
「…お姉さまよりもいい相談相手がいるからいいもん!」
フランが走っていった。多分自室に戻ったんだと思う。
もうっ、根性なしね。確かに気持ちを口に出すのは難しいとは思うけど、そうやって躊躇う人は少女漫画曰く負けヒロインらしいから…フランには絶対にそうはなってほしくない。
あと私よりもいい相談相手って誰の事かしら。実の姉である私以上に相談というジャンルにおいて適切な人材はいないと思うのだけど…
「私も帰らせていただきますね。紅茶、ごちそうさまでした」
そして早苗も帰っていった。やっぱり私、何か間違えたかしら。
流石に恋愛したことない人から強情に意見を言われても納得できないか。確かにそう思えば私よりもスキマ妖怪とかに相談した方がいい内容を聞ける気もする。確かあっちも長年定晴のことを好きなのに最近になって告白したタイプだったはずだから。
「ねえ咲夜、貴女は恋愛についてどう思う?」
ここでちょっと咲夜に話を振ってみた。咲夜も定晴のことが気になっているはずなので面白い返事が来ればいいのだけど。
「…現状に満足して幸せなら、それを壊すような発言を怖がるのは当然かと」
「貴女はどっち?今の状態は満足?」
「……そうですね」
それだけ言って咲夜は食器を洗いに言った。
残されるのは私一人。私だけは恋愛が分からない。まあそんなレッテルは私にとっては何の不利益にもならないわ。私は孤高で生きていくつもりだし、吸血鬼の寿命はまだまだあるのだから焦る必要はない。
それに…
「人間に恋だなんて、いつか絶対寂しくなるって分かってるじゃない…」
寿命は、残酷だ。