五月五日と言えば皆は何を想像するだろうか。海外ではどうか知らないが、少なくとも日本人であれば子供の日を思い浮かべる人が大多数なのではないかと思われる。
子供の日は元々端午の節句と呼ばれていた日を祝日にして子供の日というものできた。端午の節句自体は中国から来た文化であり、相当な歴史がある。逆に子供の日は第二次世界大戦の終戦後にできたものなので歴史でいえばとても新しい。
何が言いたいのかというと、幻想郷にはあまり子供の日という文化は伝わっていないのである。一応人里では外来人が広めて催し物もしているらしいのだが、それもごく一部だ。
「というか端午の節句って男の子の祈願じゃなかったっけ?私、人里の子供以外に男の子知らないのだけど」
「そうなんだよな…」
五月五日、何か予定があるわけでもなかった俺達は三人とも家にいた。先程の発言はルーミアの本からの知識である。
そうなのだ。幻想郷には極端に男性がいないのである。特に妖怪ともなれば本当にいない。今のところ人間以外の男性は霖之助しか知らない。あいつも子供って歳じゃないしなぁ…
「子供の日、何かするの?」
「まあ何かするって決めてるわけじゃないけどたまにはイベントらしいことしようかなと」
ルーミアは今は子供形態ではあるものの、本来の姿は大人の女性だし、ユズは大人と言えるほど大きくはないが霊夢たちと同じで子供の日で祝うには少女すぎる。もう少し幼ければ適正年齢でもあったのだろうけど…いやまあイベント事に適正もないし楽しみたい人は楽しめばいいと俺は思ってるけど。
「それらしいことって?」
「そうだなぁ…こいのぼりでも飾るか」
こいのぼりは子供の日に飾るものとして有名だ。街によっては大きなこいのぼりを公園や川などに飾るところもある。幻想郷でも人里では家の前にこいのぼりを飾っている家が多くある。慧音もそういえばこいのぼりの準備をしていたな。
「あとは…兜とか」
「飾るものばかりじゃない」
だって倉庫に使われなくなった兜が放置されているのを最近発見したもんだから…
でも確かに祝う対象が家にいないのに飾るというのも変な話だろうか。となれば飾る以外の子供の日らしいこと…食べ物か?
「柏餅とかちまきとか?」
「それはいいわね!」
食べ物の話になるとルーミアが食いつく。子供形態だと妖力消費も少ないとルーミアは言っているが、それでも食べることは大好きなようだ。三人の中では一番ご飯を食べる量が多い。それでいて体型が変わらないのだから流石妖怪というべきか…それとも俺が知らないところで必死に運動でもしているのだろうか。
閑話休題。
柏餅は柏という木の葉で餡入りの餅を包んだものだ。柏という種類は面白いもので、新芽が出るまではそれまでの葉が落ちないのである。その性質から転じて家系が潰えないようにという願いが込められているらしい。三人の中で人間なのは俺だけだが、妖怪には家系という概念はあるのだろうか…
また、ちまきはもち米を笹の葉や竹の皮で包んで蒸したものだ。こちらはシンプルに無病息災の意味が込められているのでここではちまきの方が食べるのに向いているかもしれないな。
「お餅、用意しますか…?」
「ふむ、じゃあ今日はおやつにでも食べようか」
ユズがお餅を用意しようとしていたので俺も手伝う。
ユズは現在メイドみたいなポジションとなっている。ユズ自身あまり外に積極的に出るようなタイプではないので家の中で家事などをしている方が向いているらしい。それにどうやら体が覚えているということなので俺が教えなくてもそれなりに色々とできた。もしかしたら記憶を失う前のユズはどこかで奉仕活動でもしていたのかもしれない。
「そういえば菖蒲湯なんてのもあったわね」
「あー、そうだな。でも流石に菖蒲は買うか採りに行かないとないなぁ…」
ソファで本を読みながら思い出したことを提案するルーミアに餅の準備をしながら反応する。
菖蒲というのは結構強い匂いがする植物で、昔から中国では邪気払いの薬草として使われてきた。更に尚武と音が同じということで出世の意味も込めているらしい。尚武というのは武家や武道を尊ぶという意味だ。
そういえば家の倉庫にあった家宝は刀だったし、使われなくなった兜なんかも戦闘用にしか見えなかったし、もしかしたら俺の先祖は武家だったのかもしれないな。尚今はそういうのは何もしていない。精々俺が武道の心得を学んでいるくらいだな。道場とかに一時期通っていたのでその名残だ。もうほとんど覚えていないので本当に必要な時くらいしか思い出すことはないだろう。
「まあでも菖蒲湯に浸かるよりも普通に入浴剤入れた方が気持ちいい気がするわね」
「あー、うん。まあそうだろうな…」
流石に植物を湯に入れただけのものと健康促進効果マシマシの入浴剤を入れたものとでは格が違うだろう。過去のものの方が優れていることというのはたまにあるが、清潔の分野では現代のものの方が勝っているのは明確だ。檜風呂くらいだろうか。
「やっぱお餅だけにしましょう」
「だな」
合意。今日はお餅だけだ。
特に祝おうという気持ちもないのにイベントをしようとしたらこうなるのは目に見えていた。ただ折角ならという気持ちがあっただけなので俺も気にしていない。
「定晴さん、お餅足ります?」
「ああ問題ない。おやつに食べるくらいはどうてことないだろ」
幻想郷では外の世界のように個包装の角餅なんかは売っていない。時代劇なんかで見るような餅屋が搗いた餅を買う形式だ。しかしながら俺にはスキマ郵便と言う名の外の世界の商品を買う方法があるのでそれに頼ることが多い。今回使う餅もそれで買ってきた丸餅だしな。
餅屋の搗いた餅の方が美味いだろうけど、今から買いに行くというのは少々億劫なのでそこらへんは妥協する。それに今は人里の餅屋は子供の日のためのお餅を沢山作る必要があるので俺が買えるのはしばらく後になるだろうしな。
「柏とかは…」
「取ってくるよ」
幻想郷ではたまによく分からないところによく分からないものが生息していることがある。博麗神社の周囲は特に強い妖怪が訪れる機会が多いからなのか本来育つはずがないような植物も生息していることがある。確かその中に必要な植物も生えているはずだ。
「おやつが楽しみだわ」
「俺は取ってくるからルーミアは手伝っててくれ」
「了解よ」
これが基本的な俺たちの季節ごとのイベントの過ごし方である。