東方十能力   作:nite

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ずっと一週間に二本のハイペースだったので、今週から一週間に一本に戻します。詳細は活動報告に乗せています


二百八十八話 夜の屋台

「はい、ヤツメウナギー。それとお酒です」

「さんきゅ」

 

今日の俺は珍しく外食。ルーミアとユズが揃って紅魔館に泊まりに行ったので一人で料理を作って食べるのもどうかと思って人里へ繰り出した。二年くらい前は一人で食事がスタンダードだったんだけどなぁ…環境とは時として高速で移り変わるものである。

とまあこのような経緯で人里で食事をすることにした俺だったが、生憎と人里で食事をすることが少なかったので知っている食事処は多くない。しかもその店たちは軒並み満杯だったり定休日だったりして食事にありつけず、最悪家に帰るかと考えていた矢先、ミスティアの店を見つけた。

 

「ん、初めて飲む酒だな」

「うちの特別なお酒なんですよー。製法は秘密です」

 

どうやらミスティアのオリジナルらしい。酒の作り方は色々あるわけだけど、一体どこで作っているのかは気になる。ピースがいた洞窟のような、ミスティアしか知らない洞窟があるのだろうか。

聞いた話によると、ミスティアは焼き鳥撲滅運動をしているらしい。ミスティア自身が夜雀という鳥の妖怪だからか焼き鳥が許せないらしい。なのでこの屋台では焼き鳥はメニューになくウナギとかおでんとかが主流らしい。まあ五月なのでおでんはそこまで種類はないけど。

 

「いつもここで?」

「そうですねぇ、基本的に相手にするのは妖怪ですよ。人間の客は稀です。ほら、夜だから…」

 

ここは人里の端っこの方、出入口に近い場所だ。店を探してふらふらしてたら見つけたので声をかけてみたらミスティアだったのだ。なんでこんな端っこにあるのだろうかと思ったら、いつもは妖怪相手か。確かに夜に妖怪と面と向かうのは人里の人間には無理だな。

 

「ルーミアちゃんはいないんですね」

「紅魔館に泊まりに行った。ユズっていうもう一人の子も一緒にな」

 

いつの間にか予定が組まれており、今朝ルーミアから報告された。当日に言われても困ることはないのだが…いつもホウレンソウはしっかりしてるルーミアにしては珍しい。

あとなぜかこいしもいるらしい。先日いつの間にか地上に来ていたらしいこいしが家に一度来たのだが、多分その時にはもう約束をしていたのだろう。どうせこいしは抜け出してきたのだろうと判断したのでこいしは地底に送り返した。

 

「一人寂しくの夜ですか」

「慣れてるけどな。折角の一人だからいつもはできないことをしようと思って」

「なるほど…歌のサービスもしちゃいますよ」

 

ミスティアがそれだけ言うと歌いだした。ミスティアの見た目とは裏腹に結構激しめな歌である。

うーん、まあ夜の雰囲気には合わないけどミスティアの歌はきれいだから楽しめる…ん、どうした狂気…おや?

 

「あー、ミスティア。俺のこと狂わせようとしてるのか?」

「へ?違いますよ、勝手に聞いた側が狂っちゃうだけです」

 

魂の狂気から報告されたのは、この歌は聞いてると狂うということ。どうやら妖怪らしく歌で他者を狂わせることができるようである。まあ俺には状態異常系は効かないし、狂気が魂にいるのでそれ関係については全くもって無意味なものとなる。

 

「それっていいのか?」

「聞いてる側が勝手になっちゃってるだけなのでこちらには何も非はありませんよ。いい歌でしょう?」

 

いい歌なのは否定しないが他人を狂わせる曲だと言われると抵抗がある。ルーミアは俺の力が少し流れているので大丈夫だろうし、紫のような大妖怪なら流石にミスティアくらいの妖怪の術に嵌ることはないだろう。しかしここは人里、人間を客にしない本当の理由がなんとなく分かったような気がする。

 

「はい、追加のヤツメ」

 

ミスティアが歌いながら焼いてくれたヤツメエウナギを提供してきた。焼いているだけのはずなのだが、味付けが素晴らしいのか相当な絶品なのだ。狂わせる歌のサービスさえなければ商売繁盛間違いなしの一品なのは間違いないだろう。

ミスティアと雑談していたら、ふと背後に気配を感じた。

 

「お、今日は先人が…定晴?」

「慧音か。こういうところにも来るんだな」

「いらっしゃいませー」

 

やってきたのは人里の守護者である慧音。仕事が終わったからかこういう屋台にもやってくるようだ。

 

「慧音も酒を飲むのか?」

「ああ、宴会の時なんかは子供もいるので少ししか飲まないが、こういう一人の時はそれなりに飲むぞ」

 

慧音はミスティアに酒とヤツメウナギを頼んだ。やはりこの店ではその二つが定番メニューなのだろう。まあそこまで種類がある屋台でもないので選択肢は少ないのだけど。

 

「定晴こそ、あまり酒を飲んでいる印象はないのだけど」

「俺は酔わないようにすることもできるからな。どちらかと言えば味がいい酒の方が好きなんだ」

 

なので正直めっちゃ強い鬼の酒はあまり俺の好みではない。無効化なりなんなりで酔いを一瞬で覚ますこともできるし、そもそもの体質的に結構酒に強いみたいなので味を重視するのだ。

その点ミスティアの提供する酒は味がいいので俺好み。材料を集めて家でカクテルを作ってみるのもいいかもしれないな…

 

「はいどうぞー」

「ありがとう。妹紅は最近来たか?」

「妹紅さんは昨日来ましたよ。今日も来るみたいなことを言っていたのでもう少ししたら来るんじゃないでしょうか」

 

妹紅と言えば迷いの竹林の案内人だったな。そういえば妹紅は慧音と共に人里でも活動することがあるというので仲もいいのだろう。それに妹紅は不老不死なだけで妖怪ではなく分類的には人間なので人里の人々からも信頼できるだろうし。

うーん、となると俺は早めに退散した方がいいかな。慧音も妹紅と二人で話したいだろうしさっさとヤツメウナギを食べてしまった方が…

 

「む、定晴は気にしなくていい。四人くらいまでは座れるし何も妹紅と密談をするわけでもないからな。ただの雑談なのだから気を遣う必要はないぞ」

「そうか?じゃあそうするけど」

 

俺が食べる速度を上げたことに気が付いたのか慧音が先に説明してきた。日頃人里の守護者をしているだけあって洞察力は高いのだろう。

急ぐ必要はないと分かったので俺はミスティアにおでんの卵と白滝を貰っておく。季節外れなのでもうありきたりな具材しか残っていないが、多分これもほとんど残り物なのだろうから遠慮せずに貰っておく。

残念ながら屋台の仕事をしたことはないのだが、屋台をしている友人が外の世界にいて残り物の処理は少々面倒だと聞いていたので俺は喜んで食べることにしている。多分その友人は未だに東京のどこかで屋台を出していることだろう。

 

「お、慧音はちゃんと来たなー。それに…定晴だっけ。久しぶり」

「久しぶりだな妹紅」

 

迷いの竹林に行くときに案内役として妹紅か鈴仙かもしくは竹林に住んでる野良の因幡たちについてきてもらうのだが、俺があまり迷いの竹林に行くことがないので妹紅と話す機会は非常に少ない。多分今年に入ってから一度くらいしか話していないと思う。それも買い物中の人里での少し。

 

「なんだ、慧音はもう酒を飲んでるのか」

「別にいいだろう。私だって酒は嫌いというわけではないからな」

「だめとは言ってないよ。女将さん、私も酒とウナギ」

 

慣れた手つきで妹紅は椅子に座ってミスティアに注文をした。まあ注文内容に関しては誰であってもそう大差ないだろうけど。

酒が出てきたら妹紅は慧音と雑談を始めた。人里での出来事とか妖怪の間の出来事とか…その中に輝夜との殺し合いとかいう物騒なワードがあったのだが、不老不死同士なのできっと大丈夫。鬼の喧嘩とそう変わるまい。

 

「そうそう、定晴」

「どうした妹紅」

「月の姫さんが会いたいって言ってたって永琳が言ってたよ。会いに行ってあげたら?」

 

月の姫さん、ということは輝夜じゃなくて依姫と豊姫のことだろう。幻想郷で再開してから一度も会っていないから会うこと自体は吝かではないのだが、あそこと連絡する手段がないので行っても会えない可能性の方が高いんだよなぁ。連絡するためだけに永遠亭に行くと言うのも中々疲れるのでどうしても億劫になってしまうのだ。

 

「…連絡が面倒なら私から伝えようか?暇なときを教えてよ」

「本当か。それは助かる。基本的にいつでも大丈夫だぞ。どちらかと言えば二人が来る時を教えてほしい」

「了解。永琳に訊いたら教えるよ」

 

どうやら姫二人と会うことが決まったようだ。ルーミアとユズを連れて行くべきか…ただ二人は妖怪に対してそれなりの抵抗もあるしなぁ。それにルーミアとユズが行ったところで話すこともないか。

ついでとばかりに妹紅からは俺と二人の話を色々聞かれた。どうやら霊夢たちも月に行ったことがあるらしいので俺の月旅行の話を隠す理由がないことが分かった。なので普通に質問には答えていく。

 

「妹紅、定晴は鈍感だと思うか?」

「そうだと思うよ。まあ姫さんも積極的じゃないから気付きようがないともいえるけど」

「どうした?」

「「なんでもない」」

 

何か慧音と妹紅の間に共通認識が生まれたようだ。

ミスティアの酒が美味いせいでいつもより多く飲み、珍しく俺が酔ってきたところに、さらなる客がやってきた。

 

「失礼、まだ大丈夫だろうか」

「はい、バリバリ営業中ですよ」

 

赤い髪に赤い服という全身真っ赤な少女がやってきた。首元はマントで隠れていて分からず、この季節にほとんど全身を覆う服を着ている。見た目は普通の人間の少女のようだが、感じる力は妖力。どうやら彼女も妖怪のようだった。

 

「慧音先生と妹紅さん、それとこっちの人間は初対面かな?あ、ウナギ三本とお酒」

「ああそうだな。俺は堀内定晴だ。ちゃんと人間」

「私は赤蛮奇。飛頭蛮の妖怪さ」

 

飛頭蛮とはまた珍しい。

飛頭蛮という妖怪は行ってみるとろくろ首の仲間みたいなもので、頭が浮いて飛び回るという特性がある妖怪だ。ただ伸びるだけのろくろ首と違って飛頭蛮は生首が飛んでくるわけだから恐怖レベルで言うとこちらの方が上か。話だけは聞いたことがあったのだが、外の世界では出会うことはなかった。

 

「赤蛮奇は人里で人間に紛れて生活している妖怪の一人だよ。見た目はなんら他の人と変わらないから妖怪としては厄介だけど、まあ驚かせるだけの妖怪だからなぁ…」

「へえ、慧音は人里で隠れ住んでいる妖怪は全員把握してるのか?」

「私に見つからないように隠れ住んでいる妖怪以外なら把握している。定晴も感じることができるだろうけど、妖怪というのは妖力を発するからな」

 

どれだけ見た目を人間に寄せたところでその身に宿るのは霊力ではなく妖力なので、ある程度の力がある者であれば近付けば種族の判断ができる。妖力封じの道具を使えば一応隠すことはできるけど、人間にせよ妖怪にせよそのように力を封印する者は何かしら特殊な事情があるので表に出てくることはほとんどない。

 

「…ばあ!」

「うおっ」

 

急に赤蛮奇が頭を浮かせた。流石にちょっと驚いてしまう。

赤蛮奇に首はないようだ。だからこの首元をマントで隠していたのだろう。

更になんかの妖術なのか、生首が増えた。どれも赤蛮奇の顔であり、全く同じもの。感覚とかどうなっているのだろうか。

 

「すごいな…」

「私たちは驚かせて力を食べるから感心されると困るのだけど…」

「最初は驚いたぞ?」

 

まあフワフワ浮いているだけだし特に怖がる理由はない。これで急に生首が燃えるとかだと流石に驚くのだが…流石に顔を燃やすようなことはないようだ。

 

「人里に住んでいる妖怪は皆驚かせて生活しているのか?」

「ああそうだ。私たちは心を食べる妖怪だからな」

 

肉を食べるのではなくあくまで驚かせて満足するタイプだからこそ人里に隠れ住んでいるのだろう。肉体を食べるような妖怪を慧音が許すとも思えないからな。あれでも肉体を食べるルーミアも普通に人里に入っていたような…慧音の匙加減だろうか。

 

「今日はお客さんいっぱいですね」

「確かに。この屋台が満席なのは珍しい」

「妹紅さんはよく来ますもんね。定晴さんも行きつけにしてくれていいですよ?」

 

ミスティアがかわいらしい笑顔で提案してくる。俺は基本的に自炊するタイプなので外食というのは中々しないのだけど…まあたまにはいいかとも思う。今日みたいな日は特に。

赤蛮奇にも酒が提供され俺たちは遅くまで飲んだ。宴会じゃない日にここまで飲むのは初めてだった。

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