東方十能力   作:nite

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二百九十四話 空の足

幻想郷での移動手段は基本的に歩きか飛行しかない。車や電車といった文明の結晶は幻想郷には存在しないので、もし遠くまで行く場合は地上ルートだと非常に時間がかかってしまう。

とはいえ高い建物がない幻想郷でも飛ぶことができないエリアというのが存在する。一つは地底までの通路のようにそこまでの広さがない場所、もう一つは俺が今いるみたいな既に制空権が存在する場所だ。

 

「あやや、今日は哨戒が多いですねぇ、何かあったんでしょうか」

「文が知らないなら何もないんじゃないのか?」

 

俺は現在妖怪の山に来ている。俺は過去の異変でのあれこれのお礼として妖怪の山への立ち入りが許可されているが、それでも上空を飛んでいるとたまに怒られるのでここでは歩いて移動することにしている。

どうしても空を飛ぶ必要があるときは知り合いの誰かに一緒に飛んでもらうようにしている。じゃあなぜ文がいるのに空を飛んでいないのかと言うと、哨戒天狗が多いと今日の目的は達成することができないからだ。

 

「文、妖怪の山は使え無さそうだぞ?」

「そうですねぇ…一度霧の湖まで下りますか」

 

文に言われて登山もほどほどに下山を始めた。

今日は文に教えを乞いに来たのだ。文と俺との共通点など一つしかない。それは、風を使って浮遊、加速する点だ。まあ文は妖怪だから風なしでも浮けるらしいのだが、加速では風に勝るものはないのだと言う。

俺は一つ気になっていたことがあって、それが移動速度である。いやまあ気になるところは他にもいっぱいあるけども。

俺は霊力だけで飛ぶ技術を身に着けていない。そのため基本的に風を使って飛んでいるのだが、それだけだとどうしても速度が出ない。いや、言い方に語弊があるな。今の俺の風の使い方だと速くなれない。

というわけで文に教えてもらうことにしたのだ。ちょっと恥ずかしいのでルーミアとユズには内緒である。

 

「お、今日はあまり霧が出てないみたいですね。ここでいいですか?」

「問題ない。お礼は再インタビューってことでいいんだな?」

「はいっ!あなたが幻想郷に来てすぐの頃のインタビュー記事とは内容も注目度も違いますからね!」

 

当時はよく分からないことだったが、確かに文の新聞はちとばかし誇張などが多かった。外の世界なら誠実な内容ではないと見做されて毎回訴えられているかもしれない。

とはいえインタビューだけで風飛行のエキスパートに教えてもらえるというのであれば安いものである。誇張は多いけど真っ赤な嘘はなかったからな。

 

「さて、じゃあまずは…私と鬼ごっこでもしましょうか」

「は?」

「私も結構感覚派なので、外から見て指導するよりも並んで飛んだ方が教えやすいんですよ」

 

なるほど。文との鬼ごっこなら文とどれくらい移動速度に差があるのか分かるからな。

 

「うーん、懐かしいですねぇ」

「懐かしい?」

「覚えていませんか?あなたが幻想郷に来てすぐの頃に妖怪の山に侵入したじゃないですか。その時に私と追いかけっこしましたよね?」

 

ああ、そういえばそんなこともあったな。当時は風の制御が甘くて周囲に影響を及ぼしていた時期だ。その分今よりも素早かった気もするな…

 

「当時は私と同じくらいの速度で移動してましたけど…」

「あれは身体強化と併用していたからな。風だけだとまだまだ文には勝てないよ」

 

身体強化の脚力によるダッシュと、風を使った常に強風の追い風を作り出すことを同時に行えば移動速度は相当なものになる。

だがそれは走ることができる地上の速度だ。結界を使えば空中でも走ることができるが、その場合は結界の制御、身体強化、風の三種類を同時に使用することになるので霊力消費が激しくなるし、俺のキャパが限界になる。戦闘中には使えない。

 

「ふう、準備はいいですかー」

「いいぞー」

 

少し離れたところに飛んでいる文。俺も風で空中に浮く。

 

「よーい…スタート!」

 

俺と文の鬼ごっこが始まった。遊んでいる妖精は近くにいないので全力で風を使って文を追いかける。しかし距離は一向に縮まらず、むしろ開いていくばかりだ。

 

「風はちゃんとどこに当てるのか意識してくださいね。一番早く動ける風の当て方というのがちゃんと存在してますので」

 

逃げながらもアドバイスをちゃんとしてくれる文。

風の当て方か…やはり重心か?しかし重心に集中させるとそれはそれでバランスが崩れてしまう。体を支えるために下からも風は当てる必要があるのでただ単に当てるだけでは早く移動はできない。

何度か試行錯誤してみるけどやはり速度は上がらない。根本的に何かを間違えているのだろうか…

 

「うーん、定晴さん」

 

俺が悩んでいると文が動きを止めた。

 

「定晴さんは霊力で空は飛べないんですか?」

「飛び方が分からん。霊夢に聞いても感覚的なもんだって言われたし」

「魔力は?」

「飛び方が分からん。魔理沙に聞いても感覚的なもんだって言われたし」

 

いやまああの二人に聞いた俺もよくないと思うけど。

ただあの二人に限らず幻想郷の少女たちは感覚的に飛んでいるらしく、詳しく説明してもらおうと思っても中々うまくいかない。幼い頃から周囲には空を飛んでいる者が多かったからあまり疑問に思わなかったんだろうな。

 

「でしたら私に風の制御を教えてもらうより先に何かしら別の力で飛ぶことを覚える方がいいですよ。私だって風だけで空を飛ぼうとするとそこまで速く飛べませんし。紫さんなら何か知っているかもしれませんよ?」

 

今の俺はルーミアとのパスに加えてユズとのパスもある。そのおかげで妖力もそれなりの量を扱うことができるのだ。確かに紫なら何かしらヒントを教えてもらうことは可能かもしれない。

 

「もしくは…それこそ水那さんに教えてもらうというのはどうでしょうか?あの子は幻想郷に来てから空を飛べるようになった部類なので、教えることもできるかもしれませんよ」

 

なるほど。水那の練習はきっと霊夢による感覚的修行だったと思うけど、それをかみ砕いて教えることはできるかもしれないな。水那自身は感覚派ではないので何かしら自分自身の中にコツを持っていることだろう。

 

「…もしかして、定晴さん、水那さんに教わるのは恥ずかしいですか?」

「…ちょっとだけな」

 

水那は俺が外の世界で保護してきた子だ。その子に教えを乞うというのは少しばかり恥ずかしい。勿論学びを得るときに恥など不要なものだというのは分かっているが…

 

「でしたらルーミアさんに妖力での飛行方法でも教わったらどうですか?」

「妖力か」

 

二人分のパスは俺に多大な妖力を送ってくれている。飛行するために必要な量は分からないけど、リグルのような妖怪でも自由に飛べているということはあまり必要ないのだろう。

 

「ともかく、風での飛行は別口での加速器でしかないんですから、風なしで飛ぶ方法を身に着けてきてください。インタビューもその時にします。期待してますからねっ」

 

少し茶目っ気を感じる口調でそう言った文は妖怪の山へと帰って行ってしまった。

確かに風だけで飛ぶというのは不安定さが残るので速度が出せないのかもしれない。やはり霊力か妖力かで飛ぶ方法を身に着ける他ないだろう。

俺が考えていると俺の下の水がボコボコしだした。

 

「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!」

「うおっ、ミキ」

 

急に湖の中から現れたミキ。一体そこで何をしていたのだろうか。

 

「あふぅ……」

 

ミキが出えてきた水のところに人魚が伸びていた。え、この湖人魚いるのか。

人魚なので大丈夫だとは思うけど一応沈まないように結界で支えながら再生をかける。

 

「話は聞いたぜ定晴!」

「一番聞かれたくない人に聞かれた…あとその人魚を放置するな」

「人魚の素材が必要になったんだが俺のメイドの人魚には別の仕事を頼んでいたので仕方なくここに来ただけだ。話が終わったらちゃんと回復させてやろうと思ってたんだぞ?」

 

気絶していたのは少しだけのようで、再生をかけたら人魚はすぐに目を覚ました。

目が覚めて目の前に知らない人がいても特に驚くことはなく、俺にお礼を言いながらお辞儀をした。

 

「ありがとうございますー、私はわかさぎ姫って言いますー」

「堀内定晴だ」

「ミキさんのご友人ですか~」

 

ミキに気絶させられた割にはマイペースに喋るわかさぎ姫。一応ミキから鱗に関しての話を聞いたうえで協力したらしいのだけど、ちょうどヌシとかいうでかいやつに出会ってしまい、ミキが撃退。だが、その衝撃の反動で気絶してしまったのだと言う。

もう大丈夫だと言うので結界を解除して湖に返してやった。もうこんな神に捕まるんじゃないぞー。

 

「定晴、本題だ」

「帰れ」

「断る。俺が飛び方を教えてやるぞ。霊力、妖力、神力、天使の翼に機械式とどんな飛び方でも学び放題だ」

 

こいつから飛行能力を奪うのは不可能なのではないだろうか。俺以外は。

 

「…お前に教わるくらいならルーミアに教わる。じゃあな!」

 

風で超推進力を生み出して俺はぶっとぶ。予想通りミキが追ってきたので無効化を使って湖に落としておいた。使用後の硬直も、風による推進力のおかげで落ちずに飛行状態を維持できた。俺ならミキに対して〈すべての飛行能力〉を無効化することで叩き落せる。

帰ってからルーミアに話をすると、随分とニコニコしながら承諾してくれた。おかげで妖力で飛べるようになり、飛行の仕方が霊力と同じということで霊力でも飛べるようになったのだが、教えている間ルーミアがやたらと優しかったのが微妙に気になった。




ルーミア「ご主人様にもできないことがあるなんてかわいい」
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