「定晴ー」
俺が家で休んでいると、家の外から声が聞こえた。これは…紫か。
「帰ってきたんだな」
「そうなのっ!お土産も買ってきてるわよ」
扉を開けたらやはり紫がいた。いつもの妖怪らしい服装ではなくて、現代風の外の世界の服を着ているので帰ってきてすぐだと言うことが分かる。外の世界の服を着ているのを見るのは初めてだが、中々どうして似合うじゃないか。
「定晴の家の中に入るのも久しぶりな感じがするわ」
家の中にはルーミアとユズの二人もいる。特に仕事も用事もなかったので本を読んでまったりしていたのだ。最近はルーミアの影響かユズも本を読み始めている。小鈴からもう少し本を譲ってもらう必要があるかもしれないな。
「いらっしゃいスキマ妖怪」
「こんにちは…紫…さん…」
ユズは未だに俺とルーミア以外には言葉が詰まってしまう。でも自分の部屋には戻らずこの部屋で本を読み続けるようだ。ユズなりに人に慣れようとしているのだろう。
「はい、取り敢えず定晴が使いそうな調味料を買ってきたわよ。新しいやつも出ててビックリしちゃったわ」
「ありがとう。これを使って何か作るよ」
紫が俺に料理関係の何かを渡してきたときは、それで何か作れと言う合図でもある。料理する分には俺に不利益はないので、どこかで紫の家に行って食事を作らせてもらおう。
「あと外の世界の本を買ってきてるわよ」
俺が紫に頼んだお土産の本命はこちらだ。紫が外の世界に観光に行くと聞いてから、俺は外の世界の本を買ってくるように頼んでおいたのだ。
小鈴のところで本を借りるのは勿論だが、それ以外にも外の世界のことを知っておいて損はない。幻想郷の製紙技術はそれなりのようだけど、それでも外の世界ほど頻繁に出版されているわけではないからな。
「この家の本はあまりないのかしら?」
「俺はあまり本を家に置かなかったからな」
あまり家にいる時間は多くなかったし、必要であれば図書館に行って本を読んでいたので家にある本はそこまで多くはない。家の倉庫の中にある程度本はあるけど、ルーミアとユズの二人ならすぐに読破してしまうのだろう。
「まあそうよねぇ、だって定晴が来てから二年だものね」
「もう幻想郷生活三年目だ」
俺は二年前の春に幻想郷に来た。そのころは幻想郷の常識というのもあまり知らず、交友関係もなかった。しかし今では色んなところに知り合いがいる。当時の俺は二人も式神を作ることなど予想もしてなかった。
「それで…どう?能力は」
「どういうことだ?」
「ほら、元々はその能力の強化も目的の一つだったじゃない。それはどうなったのかしらと思って」
そういえばそんな話もあったな。
えっと…風はコントロールが上手くなって、魔術は魔女のおかげで強くなった。剣術は変わらんが、結界などは多分頑丈になってると思う。とはいえ…
「強化って意味ではあまり変わらなかった気がする。幻想郷に来たということよりも幻想郷内でしたことによる強化はあったけどな。まあ幻想郷に来た意味はあったよ。ここはいい場所だ」
強いて言えば、輝剣を大量召喚して打ち出す技は幻想郷に来て霊力量と霊力コントロールが上達しなければ使ええない技ではあっただろうな。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。それに、私たちにとってもあなたが幻想郷に来てくれたことは大きなメリットよ」
「そうなのか?」
俺が関わったことというのは色々と思いつく。とはいえどれも俺じゃなくても大丈夫な要件ばかりだ。異変解決に手を貸したことも多いが、俺がいなくてもいつかは霊夢や魔理沙が解決していたものだろう。
二人でも難しい異変は不動関連だろうけど、そっちは俺が幻想郷に来なければそもそも起きていない異変なのでノーカウント。
「…あなたのおかげで色々な子が成長できたのよ」
「成長?妖夢くらいしか関わっていないが…」
「全く。肉体的な成長だけじゃなくて精神的な成長よ。大人へ一歩進んだ子がいくらいると思っているのよ」
あまり思い当たる節はないな。確かにフランやこいしは出会った頃よりも大人びたか?それに俺が関わっているとは思えないのだけど、紫が言うのだからもしかしたら俺が何かしたのかもしれない。
「定晴の
「ああ、それはそうかもしれないな」
ルーミアのあれこれは完全に俺の責任である。不動が来なければルーミアの封印が解かれることはなかっただろうし、式神にしたのも俺の選択によるものだ。ルーミアの妖生を大きく変えてしまったと言えるだろう。
俺の選択のせいで人生が変わってしまった人というのは外の世界にもそれなりにいるけど、やはりちょっと申し訳ないと感じてしまう。
「…定晴、私は現状をとっても気に入っているんだからね?妖怪として長いこと生きてきたけど、その中で今が一番幸せよ?」
「私もルーミアに同感ね。好きな人がすぐ近くにいるって幸せなことよ」
「元の私は…分からないですけど…今は…幸せだと、思います…」
三者三様、俺の表情を見たからか心を読んだかのように意見を言ってきた。
そういえば外の世界にいたときは恋愛なんて考える暇もなかった。今は
『定晴はまだまだ好かれるよっ!』
『あー…俺は早くこいつをどうにかしてほしい』
『まあまあ、落ち着きなさい』
魂の人数も増えたものだ。幻想郷に来たときは眠っていた狂気しかいなかったというのに。
幻想郷で能力の強化はできなかったかもしれない。でも確実にあの頃よりも成長していることを実感する。
「それにあなたは自覚してないかもしれないけど、少しずつ強くなっているのを私は感じているわ。もしかしたらあなたが思っていない以上に幻想郷に影響を与えているかもしれないわよ?」
ちょっと怖いことを言うな。でもまあ留意しておこう。
さて、三年目も頑張るか。
最終回みたいなノリですがまだまだ続きます