東方十能力   作:nite

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今年最後の投稿です。早めのお年玉ということで、新章です


六章 侵入者
二百九十六話 大結界の歪み


霊夢に緊急呼び出しされて俺は博麗神社に来ている。連絡方法も、紫から連絡をもらうという幻想郷最速の連絡手段だった。一体何があったのだろうか。

 

「来たぞー」

「あ、定晴来たわね。こっちに来て頂戴」

 

俺が来ると霊夢ではなく紫が出てきた。

博麗神社は幻想郷において最重要施設の一つであり、紫にとってもとても大切な神社である。それに紫は霊夢のことも大切に思っている。しかしながら紫がこうして直接博麗神社に来て何かするというのは珍しく、何か重大なことが起きてしまったことは疑いようのない事実である。

 

「霊夢、入るわよー」

 

紫に連れてこられたのは博麗神社内の一室。霊夢曰くあまり使ってない部屋の一つだったはずだ。

俺が入るとそこには霊夢が寝ていた。しかも熱は荒く見ただけで体調が悪いことがうかがい知れる。

 

「定晴、これを見て霊夢を治せる?」

 

俺が部屋に入るなり紫がそんなことを聞いてきた。治せるかどうかは分からないし、ちょっと聞きたいこともあるので即決はできない。

どうも紫は焦っているようなので落ち着かせてから話を聞くことにした。

 

「ふぅ…ごめん。ちょっと慌ててたわ」

「まあそれはいい。何があったんだ?」

「今朝からずっと霊夢がこんな状態なのよ。永琳も呼んで見てもらったけどよく分からないというし、しかも博麗大結界がちょっと歪んでるのよ!」

 

ふむ、確かに重大事件だし紫が焦る理由も分かる。

まず永琳は幻想郷で一番の医療のエキスパートであり、なおかつ永琳が分からない病気であれば外の世界でも原因を見つけることはできないだろう。永琳が分からないと断言した以上俺も見て治せるかどうかの判断はできない。

また、博麗大結界が歪んでいるというのも非常事態である。博麗大結界は幻想郷を丸ごと覆っているとてつもなく大きな結界であり、この博麗神社を起点にしているとかなんとか。もし博麗大結界が崩壊したら幻想郷も無事では済まないだろう。最悪の場合幻想郷自体が崩壊する可能性だってある。

 

「紫から見て霊夢の状態はどうだ?」

「霊力が乱れてる感じかしら。結界が歪んだから霊夢の霊力が乱れたのか、霊夢の霊力が乱れたから結界が歪んだのかは分からないけど」

「紫も分からないのか?」

「ええ…」

 

不安そうな顔をする紫。でも結界のエキスパートである紫でも原因が分からないのであれば先ほどと同様俺にも分かるはずもない。

取り敢えず俺が試せる処置として浄化と再生を霊夢に使う。しかしどちらも目に見えた効果は得ることができなかった。

次に俺自身が霊夢に触れて霊力の乱れを整えてみる。不動の能力によって体内の霊力が乱れる状況というのには慣れてしまったので多分霊夢の霊力もある程度制御できるはずだ。しかし整えてもすぐに乱れてしまってむしろ霊夢を苦しめてしまうことになってしまった。

最終手段として無効化を使う…と思うが、何を対象にすればいいのかが分からない。例えば〈霊夢の体調不良〉を無効化すれば元気になるだろうが、そもそもの原因が博麗大結界だった場合は大結界ごと無効化してしまう可能性があるのだ。

 

「すまない。俺がずっと霊夢の霊力を整え続ければ霊夢が苦しまなくなるだろうけど、多分それじゃあ意味がないんだろ?」

「そうね。原因が分からないと霊夢が動けないわ…」

 

繋がりは分からないけど、博麗大結界の歪みと霊夢の体調不良が無関係ということはないだろう。どちらを先に処置すればいいか分からないけど、片方が良くなればもう片方もよくなると思われる。

 

「紫、水那はどうした?」

「博麗大結界の状態を見に行ってもらってるわ。見習いとはいえ彼女も博麗の巫女だからちょっとした修繕ならできるもの」

 

どうやら朝っぱらから水那は仕事をしに出ているらしい。というか同じ博麗の巫女でも水那には症状が出ないんだなと思っていると、

 

「だってまだ霊夢から水那への引継ぎはしてないもの。博麗の巫女っていうのは存在自体が一つの要なのよ?」

 

ということらしい。水那はまだ修行中のために難を逃れたそうだ。

 

「なあ、また不動のせいってことはないよな?」

「もう既に様子を見に行ってるわよ。チヌとイチャイチャしてたわ」

「そうか。じゃあ違うか…」

 

どうも今の不動はとても幸せらしい。むしろ幻想郷崩壊を招こうとするやつがいれば積極的に倒しに行こうとする勢いである。

となると別口か。まあ人為的なものと決めつけるのは早計だけどな。形あるものはいつか壊れるという言葉があるように、どれだけ強固な結界であろうと時間が経てば綻びの一つくらいは出てくる。幻想郷の歴史は長いし、今の時代に綻びがあったとしてもおかしくはない。

とはいえ紫がそれに気が付かないはずもなく、人為的な影響の方が可能性が高いんだよな。

 

「うーむ…紫、ルーミアを呼んでもいいか?」

「ええ、いいわよ。何をするか知らないけど」

 

俺は式神召喚でルーミアを呼びだす。今日は何があるのか分からないからと二人は置いてきているのだ。

 

「ん…定晴、何があったのかしら?」

 

紫をちらりと見た後に俺の呼び方を決めて、その後にこの場にいる人を確認して口調を決める。判断が早い。

俺はルーミアに説明をしたあとに、霊夢の状態を見てもらうことにした。というのも、ルーミアも俺の力が流れ込んだ影響でそれなりに霊力を扱えるのだ。それに不動との戦いのせいでルーミアも俺と同じように乱れた力には慣れているから整えることはできるはずだ。

 

「頼めるか」

「任せてちょうだい。その間に定晴は歪みを修繕してきて」

 

快く引き受けてくれたルーミアに感謝する。

 

「何言ってるのよ。私はあなたの式神よ。これくらいの仕事ならどんどん頼んでちょうだい」

「本当に助かる。紫、結界が歪んでいるところに連れてってくれ。修繕はできないだろうけど、何が原因か探る」

「分かったわ」

 

ルーミアは博麗神社に残して俺は紫のスキマを使って大結界の綻びへと移動する。

スキマを抜けるとそこは森の上。なんとなく違和感があるので目には見えなくともここらへんに結界があるのだろう。

 

「普通は違和感がないようになってるはずなの。定晴が違和感を覚えているってことは大結界がおかしいってことよ」

「なるほど」

 

博麗大結界を認知できてしまうと、力を持っている妖怪やら人間やらが越えて入ってくる可能性があるからな。それにしても不動はどうやって大結界に対して能力を使ったのだろう。

 

「違和感…違和感…」

 

俺の結界の力はそこまで万能じゃないのでここで博麗大結界を解析することはできない。しかし結界の力と共に霊力での感知や妖力での感知、そして今までの経験則からある程度探知することができる。

しばらく違和感を元に探していくと、森の中のある地点へとたどり着いた。

 

「ここらへんが特に違和感があるな。紫、何かここらへんにあるのか?」

「嘘…ここに穴が開いているわ。人が通れるくらいの大きさの穴が」

 

俺には見えないのだが、どうやらここに誰かが通った痕跡があるらしい。幻想郷の外から中に自力で入ってくるなんて只者ではない。

紫が大結界を修復している間に俺は周囲を探る。誰が通ったのか分かる痕跡が残されている可能性もあるからだ。

 

『狂気、何か感じるか?』

『少なくとも負の感情はねえな。通ってから時間が経っているからか、通ったやつが負の感情を持っていなかったからかは分かんねえけど』

 

後者なのであればひとまず安心できる。力が強くとも幻想郷をどうにかする気持ちがないのであれば幻想郷は受け入れるからだ。

しかし前者の場合は厄介だ。既に幻想郷内で暗躍をしている可能性もあるからな。

 

「修復終わり!」

「違和感は消えた…が、紫、ついてきてくれ」

 

俺は幻想郷内へと進んでいく。この森がどこにある森で、大きさも不明だが、侵入してきたやつもそれは同じはずだ。森を抜けようと考えるのであればどこを通るのかもそれなりに予測できる。

紫を連れて歩いていくと、体に何か違和感を覚えた。先ほどからずっと違和感がある。

 

「紫止まれ」

「…」

 

紫は何も言わずに俺の指示に従ってくれる。こいつ、結構素直なんだよな。

周囲を見渡す。そこはただの森であり、見るだけは何もおかしなところはない。だがこういう時は…

 

「対象〈俺への干渉〉…無効化」

 

敢えて口に出して能力を発動する。一気に俺の中に渦巻いていた違和感が消えた。それと同時に俺の右側に向かって…魔術を放つ。

 

「いやぁ、化かすのには自信があったんじゃがなぁ」

「狸?」

 

陰から現れたのは化け狸の少女。

 

「二ツ岩マミゾウ…!?なんであなたがこんなところでこんなことを!?」

 

どうやら紫は知っているようだ。それにあまりこういうことをしない主義らしい。

 

「勘違いしないでほしいのじゃが敵対しようと思ってるわけじゃない。むしろちょっと用事があってここで待っていただけじゃ」

「大結界の穴とは無関係ってことか?」

「全くの無関係でもないの。穴を修復することが自分じゃできなんだ、誰か入ってきたら化かしてやろうと思っただけじゃよ」

 

マミゾウはどうやら敵ではなく、比較的味方よりだったらしい。攻撃してしまって少し申し訳なくなる。それにしても紫すら化かすなんて中々の実力者のようだ。俺を化かすにしても、浄化のおかげで俺には精神干渉は効かないはずなのだが、どうして効いたのだろうか。

 

「…ふむ、こっちはハズレらしい。新米の巫女が危ないぞ」

「なっ、紫!」

「ええ!」

 

紫は急いでスキマを開いた。俺もそこに飛び込む。マミゾウはその間ずっとニヤニヤしたままだった。

 

 

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