東方十能力   作:nite

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二百九十八話 流れ出る残滓

不動を連れて紫の元へと戻ってきた。まさか俺が不動を連れているとは思わなかったようで、流石の紫も驚いていた。

 

「やあ八雲紫。久方振りだね」

「ええそうね。何の用かしら?」

「なに、ちょっと調べることがあるだけさ」

 

そう言うと、不動は結界のある方へと近づいた。紫がいるおかげで、ここらへんの結界には簡単に干渉できるようになっているようだ。

動き出そうとする紫を手で制してから、不動の動きを見守った。能力を使うわけでもなく、ただ純粋に結界に触れて何かを調べているようだ。

しばらくすると不動は頷いて結界から手を離した。

 

「何かわかったのか?」

「ああ。はっきりと分かったよ。少なくとも、この結界が緩くなっている原因は分かった」

 

それはすごい。紫ですら分からなかったものを、不動が理解できたとなると中々のことだ。陰陽道の技術ってすごいんだなぁ…

不動はそのままこちらに、正確には俺の方に歩いてきた。

 

「原因は、君だ。堀内」

 

は?

 

「そんなわけないでしょ!ふざけないで!」

「まあまあ落ち着けよ八雲紫。君も、案外その可能性は考えていたんじゃないかな?」

「そ、そんなこと…」

 

不動の言葉に、言いよどむ紫。

俺が原因って、どういうことだ?

 

「順を追って話そう。一部は推測だが…堀内は幻想郷に入ってからその力を強くさせてきた。霊力やら魔力やらも増えたし、能力の使い方もワンランク上になったと言える。しかし、この幻想の力に支配された幻想郷においては、堀内の成長速度でも、まだ足りなかったらしい。堀内は気が付けていないだろうけど、君は少しずつ力の残滓のようなものを放出しているんだ」

 

幻想郷の生活の中で力が強くなったという意識はある。魔女の魂のおかげで魔力量が増えて、魔術は豊富に使えるようになったし、いくつもの力の同時使用もできるようになった。

しかし俺の体はそれ以上に強くなっていた…?分からなくはないが、自分じゃよく分からないな…

 

「君の力は、まあ基本的には悪影響はない。浄化の力なんかは、残滓程度であれば妖怪が消えることなく風邪にかかりにくい程度の効果しかないだろう。でも残滓程度でも大変なことになる力がある」

「…無効化、か」

「そうだ。どんな規模に対しても、霊力が足りていれば同等の効果が表れる。君の残滓が幻想郷に溜まった結果、幻想郷自体に満ちている霊力や妖力を消費して本来は必要のないことまで無効化していてもおかしくはない」

 

…そうか。その結果がこの博麗大結界の歪みか。

博麗大結界は相当な大きなの結界であり、例え俺が全霊力を消費したとて結界を完全に無効化することはできないだろう。しかし、幻想郷自体にも霊力というのは大量に内包されている。この場所自体が大きなタンクなのだ。

もし本当に俺の力が無意識に流れ出ていたとするならば…幻想郷に漂っていた霊力を消費していてもおかしくはない。

 

「じゃあ、結界を修繕するにはどうすればいいんだ?」

「手っ取り早いのは幻想郷から堀内が出ていくことだね。そうすれば八雲や博麗が結界を修繕するから、今まで通りに戻る」

 

それは…まあそれが一番か。

しかし紫が不動に食って掛かった。

 

「そんなのだめよ!こっちから招いておいて、だめになったから追い出すなんて…」

「そりゃそうさ。僕としてもチヌとの一件があるから、あまり邪険にすることはしたくない。ということで第二の解決法として、堀内が無意識にも力を垂れ流すことがないように完全にコントロールできるようになればいい」

 

紫が声を荒げるが、段々と声が小さくなり、顔を伏せてしまった。

残滓のようなものが流れ出ている原因は、俺の未熟さだ。俺がもっとこの能力を正しく完璧にコントロールすることができるようになれば、そういった本来は不要なものは流れ出ることはないだろう。

とはいえ一朝一夕でなんとかなるようなものではない。既に博麗大結界に不具合が生じているのだ。急がなければ俺が問題で、幻想郷が破綻しかねない。

また、博麗大結界が歪んでいるという問題のほかに、幻想郷内部に妖怪を送り込んでいるやつがいるという問題もある。そっちは未だに内部犯なのか外部犯なのかははっきりしていない。

 

「さて、これから先は堀内が決めることだ。僕は帰るよ」

「ああ、原因究明ありがとな」

「これも贖罪の一種さ。たまには歩いて帰るよ」

 

不動はそのまま森の奥に消えていった。あいつの能力は大体の妖怪に対してクリティカルとなるので問題ないだろう。

 

「定晴さん、えっと…」

「水那は気にするな。紫の手伝いをしててくれ」

 

今まで黙っていた水那が声をかけてくる。これは不動の言っていた通り、俺が決めることだ。まあ幻想郷自体に関わることだから紫にも決定権はあるだろう。

顔を伏せていた紫が、こちらを見た。

 

「定晴、あなたはどうする?」

「俺も今のところ幻想郷を出ていくって手段はとりたくないからな。なんとか能力をコントロールできるようになりたいが…」

 

どうすればいいのだろうか。まずそもそもとして幻想郷内ではあまり活動できない。幻想郷内で俺が能力を使うと、博麗大結界の解れが進行してしまう可能性がある。これ以上負担をかけることはできない。

しかし、外の世界では訓練はできないだろう。幻想郷のように、神秘と呼ばれるような力が満ちている場所でなければ十全な訓練はできない。

結界で覆われているという点では、冥界や地底も変わらないだろう。

 

「場所か…」

「訓練場所ってこと?」

「ああ。周囲に影響を及ぼすことがない、それでいて神秘の場所がいいんだが…」

 

今の時代、大抵の場所には神秘の力が存在しない。科学の力によって弱められた結果だ。

密林の奥地とか、誰も来ないような山奥とかには残っていることもあるが、そこだって幻想郷ほどの効果はない。

 

「…あの子に頼ろうかしら」

「ん?何か心当たりがあるのか?」

「ええ。あなたも会ったことあるはずよ」

 

会った?紫のように特殊な空間を作ることができるような人物ってことか?

ミキは違う。あいつが作る空間は、地球とは別の時空となってしまうので理が変わってしまう。しかしミキ以外に巨大な空間を保有している人物など知らないが…

 

「ついてきて。原因が分かった以上修繕してても意味ないわ。水那は神社に戻ってちょうだい。ルーミアと一緒に待機しておくこと」

「分かりました」

 

水那は飛んでいき、俺と紫はスキマに入り込んだ。

そういえばこのスキマの中はだめだろうか。でもこの空間がどういう場所なのか不明だから、もし残滓によった不具合が発生したとき何が起こるか分からないな。やはりだめか。

スキマから出た先には、森の中の家の前だった。

 

「アリス?」

「ええ。私が頼むより、この子から頼んでくれた方が多分早いから」

 

俺が疑問に思っている間に、紫は家の扉をノックしている。アリスは在宅だったらしく、すぐに出てきた。

 

「八雲紫?それに定晴さんじゃない」

「香霖堂で会った時振りだな。布を分けてくれて助かったよ。外の世界の布は活用できたか?」

「ええ。面白い子も作れたわ」

 

それはよかった。

クッションとしての世間話をしたところで、紫が本題に入った。

 

「アリス、あなたのお母さんに連絡を取りたいんだけど」

「………なんで?」

「少々問題が発生してね。幻想郷の存続に関わる問題よ」

「それは少々とは言わないでしょ…分かったわ。仕方ないわね。あと神綺様はお母さんじゃないわよ。お母さんみたいなものだけど」

 

そう言うとアリスは家の奥へと入っていった。

神綺…?ああ、そうだ。外の世界に行ったときに、迷い込んだ世界にいた人だ。確かあそこは魔界だったな。魔界なら条件は満たしているが…大丈夫だろうか。

アリスは水晶玉みたいなものを持ってきて紫に聞いた。

 

「あなたならスキマ使って魔界にも行けるでしょ?」

「過去に問題があったからね。まああとあれよ、たまには親に連絡しなさいな」

「だから親じゃないって…っと、神綺様?」

 

どうやら水晶玉は通信器具だったようだ。いいな、それ俺も欲しい。電波がない幻想郷で遠距離通信方法というのは限られているからな。ルーミアとユズになら式神通信でなんとかなるんだが…

 

「これってどこに繋がってるんだ?」

「魔界のどこかよ。でも神綺様は魔界の神様だから多分これで繋がるはずなんだけど…」

 

待つこと数十秒。水晶玉から声が聞こえた。

 

『アリスちゃん!アリスちゃんね!元気だった!?』

「ええ、元気よ。用があるのは私じゃないのよ」

『あらそうなの?じゃあだぁれ?』

「私よ神綺。元気そうね」

 

俺が知っている神綺に比べて随分と声が溌剌としていた。久しぶりに子供に会えた喜び、なのだろうか。

 

『紫じゃないの。何か?』

「ちょっと頼みたいことがあるのよ…」

 

紫は現在の幻想郷の状況と、目的を話した。一応会ったことはあるけど、俺のこと覚えてるのか?

 

『いいわよ。別に減るもんじゃないし』

「助かるわ」

『交換条件として、アリスちゃんも連れてきて!それじゃ』

「ええ!?神綺様!」

 

水晶玉から声が聞こえなくなった。神綺が移動したのだろう。

アリスが無言だ。そして真顔である。急に来た紫に急に要件を伝えられて、そして急に魔界に戻ることになったとなればそうなるのも無理はない。

 

「ええっと…じゃあアリスには定晴の魔法の修行の手伝いもしてもらおうかしら。お礼に外の世界の布をあげるわ。上海とかオランダの本場の布も欲しくない?」

「…はぁ、仕方ないわ。こうなればヤケよ」

「すまんなアリス」

「気にしないで」

 

こうして俺とアリスは、魔界に行くことになったのだった。

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