「えー!お兄様いないのー!?」
私はこっそり紅魔館を抜け出し、お兄様の家までやってきた。しかし、訪ねても誰もいなかったので、お隣さんである博麗神社に来てみると、お兄様はしばらくいないらしい。
「どこにいるのかしら」
「あなたが知るところじゃないわ。諦めなさい」
「えー!会いたいよー!」
折角新しい日傘を差してやってきたのだ。お兄様の姿を見なければ…
「…あなた、いつからそんな恋焦がれるような表情をするようになったの?」
「はい?!」
恋焦がれてなんて…して、る、けど…そんな表情に出るような無様なことはしてないはず。
私は、お兄様への想いを再確認したあと、中々会うことができずに悶々としていた。確かに、恋焦がれてもおかしくはないし、今も頭の中はお兄様のことでいっぱいだけど、まさかそんな…
「ともかく、定晴さんはしばらくいないから、諦めてちょうだい」
「しばらくって、どれくらいよ」
「分からないわ。あっちの都合だし」
霊夢は意地悪だ。お兄様がどこにいるのか知ってるくせに、それを私に教えてくれない。
紅魔館に戻ったら、勝手に出て行ったことをお姉さまに怒られるのだから、お兄様に会って私のモチベーションを上げないとやってられないと言うのに…
霊夢としばらく問答をしていると、別の子が博麗神社にやってきた。
「霊夢ー!あたいが遊びに来たぞー!」
「失礼します、霊夢さん」
チルノと大妖精だ。たまーに、霧の湖で一緒に遊ぶのでよく知っている。
「お、フランもいるのか!一緒に遊ぶかー?」
チルノは私を下に見下している。私の方が絶対年上なんだけど…
でも、それで怒ったりはしない。ここで微笑ましく対応するのが、本物の大人ってわけよ。約五百歳の貫禄を見せてあげるわ。
「私は、お兄様…定晴さんに会いに来たのよ」
「さでゃ!?」
なぜか、チルノが固まった。そしてみるみるうちに顔が赤くなっていき、大妖精の後ろに隠れてしまった。あれ?
「あははぁ…チルノちゃんは、今はちょっと定晴さんに対して複雑なので…ごめんなさい」
…んー。
なんとなーく、同類の気がするけど、どうかな。恋敵に敏感だとかなんだとかを小説で読んだことがあったけど、その感覚を実感してる。
でも、お兄様はロリコンじゃないからチルノや私が一気に詰めるっていうのはできないので安心。いや、私に関してはあまり安心できないけど、そんな急速な発展は望んでないので。まずはこの兄妹という形から、異性として意識してもらうまで頑張らないといけない。
「…遊ぶなら別のところに行きなさいよ…」
霊夢が、ため息をついていた。
幽々子様が西行妖の様子を見に行かれている間、私は白玉楼の庭で鍛錬の時間となる。
本来は、ちゃんと護衛をしないといけないのだけど、正直言って冥界だと私よりも幽々子様の方が何倍も強いので意味がないのだ。祖父くらい強くならなければ護衛などやっても無用の長物となってしまうだろう。
「五百六十三…五百六十四…」
私はひたすら素振りをする。すべての基本は踏み込みと素振りから。
定晴さんは現在魔界というところにいるらしい。私の修練はしばらくそこで行うのだという。魔界に行くのは初めてなので緊張してしまう。しかし、今までとは違う特殊な環境での修練にも重要な意味があるので、これを機にしっかりと引き締めるつもりだ。
私よりも強い定晴さんは、未だに発展途上なのだという。彼が目標としている人物は、ミキさんらしい。ミキさんとは、辻斬り的に戦ったことがあるけど、確かにあれは化け物だ。ミキさんは魔法を使えるらしいけど、私は体捌きと剣術だけでなすすべなく圧倒されたのだった。
私ももっと精進しなければならない。
「五百九十九…六百!」
素振り、六百回を終える頃、幽々子様がお戻りになった。
「妖夢ー」
「幽々子様、どうされました?まさか西行妖が…?」
「あ、そうじゃなくて」
何やら妙にニコニコしながらこちらに近付いてくる。
「妖夢も、魔界の方で生活しない?」
「はい?」
何を言っているのだろう。
「ほら、紫に毎回頼むのも申し訳ないじゃない?魔界で暮らせばすぐに教練できるしー、いつもと違う環境だから…」
…
「私がいないときは勝手におやつを食べないように鍵をかけておきますからね」
「酷いわ妖夢!それじゃ意味がないじゃない!」
そんなことだろうと思った。
確かに、いつもと違う環境での教練というのは新鮮だし発見もあるだろう。しかし、それで庭師かつ剣術指南の私が白玉楼からいなくなってしまうのはだめだ。私の矜持に関わる。
「行きませんからね」
「えぇ~」
「ルナ、あの人に会った?」
「会ってないわ。怒られるってわけじゃないならいいんじゃない?」
「サニーが怖がるのは分かる。なんか怖かったよね」
博麗神社の裏山の中にあるとある木の幹。そこに私たちは集まっていた。異変を起こす前に人間によって阻止された妖精異変の反省会をするためだ。
「そもそも私たちを殺すことなんてできないんだから、心配しないでいいわよ」
「一回休みの特権だよね」
「でも怖かったよね…」
サニーが怯えている。
あの時私たちには協力者がいた。クラウンピースを連れてきたのも彼女だ。
その人と話すときは、逆らう気が一切起きなかった。怖かった…と今の私たちは思っているけど、当時はあまり怖いとは思っていなかったような気もする。でも、私たちは妖精らしくなく、一切反抗せずに計画を受け入れたのは事実なのだ。
「あの人のことはいい!今度はあの人間に邪魔されないような計画を立てるわよ!」
「たしかに」
「あの人間強かったもんね」
とはいえ私たちは妖精。過去のことは振り返らない。
あの堀内定晴とかいう人間に邪魔されないためにもっと計画を練らなければいけない。私たちの悪戯はまだ失敗していない!
「アリスー、遊びに来たぞー!」
私は、広く見積もったときのお隣さんであるアリスの家に来ていた。
美味しいお茶でも貰えれば今日の目的は達成だぜ。
「アリスー、いないのかー?」
アリスが出かけていることは少ない。行先も、香霖堂か紅魔館かくらいである。
なので呼びかければ出てくるんだけど…居留守かー?この魔理沙様に向かって居留守を使うなんて舐められたものだぜ。
「マスパを家にぶつけるぞー!」
脅しだ。脅しだけど、出てこないなら本当に撃つつもりだ。
私が脅すと、やっと扉が開いた。しかし、出てきたのはアリスではなく人形だった。しかもアリスが操っているものではなく、命令された動きを繰り返すタイプみたいだ。
「なになに…魔界に行ってます…?なんじゃそりゃー!」
面白いことになっている。
にしても今更魔界なんて…里帰りか?アリスは幻想郷に住むようになってから魔界には行ってないっぽいけど、たまに帰りたくもなるか。私は実家に帰りたくなる感覚なんて分からないけどな!
まあ私も知らないところじゃないし…
「今行くぞー!」
私は箒に跨りなおして、すぐさま魔界に向かって出発したのだった。