東方十能力   作:nite

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三百六話 岩滑り

ルイズと戦った翌日、俺たちはパンデモニウムにいた。

ルイズと戦って、疲れた体で魔界を飛んでみたが、残念ながら特筆するようなものは何もなかった。途中で、過去に魔界に迷い込んできたときに辿り着いたであろう場所は見つけたが。

あ、でも少し使えそうなものは見つけたな。

 

「そろそろね」

「だな」

 

そして今日、俺たちはとある時間を待っていた。

実は、今日は妖夢と一緒に剣術訓練をする日なのだ。妖夢が魔界に来た事あるのか知らないが、いつもと違う環境で訓練することも何かしら意味があると思う。

紫に言えば俺が白玉楼に行って、いつも通りに訓練することも可能ではあるけど、折角魔界に拠点があるのだからということで、こちらですることになった。ちゃんと神綺にも確認をとっている。

 

「あ」

 

ユズが声を出す。目の前に紫のスキマが開いたのだ。

そして、その奥から妖夢…そして、なぜか幽々子が現れた。

 

「今日もよろしくお願いします」

「ああ、それはいいんだが…なぜ幽々子もいるんだ?」

 

幽々子は出て来てすぐに、キョロキョロ周囲を見渡している。幽々子も来た事ない場所なのだろうか。

 

「折角合法的に魔界に来れるんだから、来ないと損じゃなーい?」

 

と言っているが…

 

「幽々子様を白玉楼に残したままだと不安だったので、ついてこさせました」

 

と言うのは妖夢。ついてこさせた…ってそれなんか力関係逆転してないか?

幽々子は特に気にしていないようだけど、妖夢に仕切られる主というのは如何なものだろうか。白玉楼の食事事情を妖夢が握っているので、意外なことでもないのかもしれない。

 

「じゃあ妖夢はここで。定晴さん、よろしくねー」

 

そう言ってフワフワと飛んでいく幽々子。神綺に挨拶でもしに行くのだろうか。それとも、ご飯をねだりに行くのだろうか。

幽々子がここに来ることは伝えていなかったので、問題が起きるかもしれない。

 

「ルーミア、申し訳ないが幽々子について行ってくれないか?」

「はーい」

 

ルーミアを幽々子監視役に任命。幽々子だって子供じゃないので、そう簡単に問題が起きるとは思わないけど、もしかしたらというのがあるので。

妖夢としても、幽々子を一人にさせておくのは不安だろうから、ルーミアをついて行かせたのは正解だと思う。ユズだと、幽々子相手に強く出れないしな。

 

「じゃあ、妖夢は教練ってことにしようか」

「はい!よろしくお願いします!」

 

いつも通り、軽い運動から教練を開始する。

妖夢がランニングをしている間に、俺は用意しておいたものを準備する。

 

「ふぅ…終わりました。よろしくお願いします」

「了解。じゃあ、手始めにこれを斬ってみようか」

 

俺が用意したのは、人の大きさくらいの岩だ。勿論ただの岩ではなく、魔界産の特殊な岩である。それを、少しばかり球状に整形したものを用意した。

 

「岩を…?分かりました」

 

妖夢は不思議そうな顔をしながら、岩に向かいあった。

地上の、普通の岩であれば妖夢は斬れるのだ。刀の質もそうだが、妖夢は岩を斬るくらいのレベルには到達している。俺と出会ったときには、既に岩くらいは斬れるようになっていた。

今更どうしてだろうと思うだろうが、まあ見ていて欲しい。

 

「せいっ!」

 

妖夢は刀を振り下ろし、岩を斬ろうとした。

しかし、刀は岩を斬ることなく、滑るように岩の表面を動き、そして地面に到達した。

それを見て、妖夢は驚いた顔をしている。

 

「え?真っすぐ振り下ろしたはずなのに…」

 

岩には傷一つついていない。

 

「この岩は、摩擦係数がやたらと高い。真にまっすぐ振り下ろさないと、滑って弾かれるんだ」

 

野菜の皮剥きのときに、刃が入らずに滑ってしまったという経験をしたことがある人はいるだろうか。

それは、包丁を寝かせすぎているという単純な問題なのだが、この岩ではその[寝かせすぎている]判定がシビアなのだ。俺でもたまに失敗するくらいである。

 

「中々手強い相手ですね…」

「魔界らしい相手だろ?剣筋をブレさせないことは、とても有意義な練習だ。取り敢えず、自分なりに模索してみろ。俺も隣で練習するから」

 

魔界に来ている理由を忘れない。俺もレベルアップをしなければ。

この球状に加工した岩は、幻空の中にまだまだ入っている。ルーミアの闇の能力を使えば、簡単に加工することができたのだ。

俺もこれで練習をする。

 

「せいっ!せいっ!!」

「ふっ!」

 

妖夢は極稀に斬れる程度。俺も、五回に一回は斬りそこねてしまう。

五回に一回の頻度であれば十分だと思う人もいるかもしれないが、その一回が隙となるのだ。そして、戦いにおいて、隙を作ったら即ち負けである。

この隙を囮にする戦い方もあるが、剣筋のブレは囮に使いにくいので、やはり矯正していく他ない。

 

「はぁ、はぁ…定晴さん、難しいです」

 

肩で息をしている妖夢が、始めてから一時間くらいしたときにそう言った。疲労もあってか、極稀の切断も起きなくなっている。

 

「こういうのはイメージが大切だ。例えどれだけ真球に近くとも、それが百パーセント丸いのではないのであれば、確実に面という概念がある。そして、面があるなら垂直に斬るのは簡単だ…と、思えればな」

「むむむ…私もいつか概念を斬りたいものですが…」

 

俺の場合は、無効化で常日頃概念と向き合っているので、イメージは簡単だった。

この岩に対しても、[球であること]を無効化すれば、多分いつもと同じ感覚で斬れる。見た目では変わってなくとも、無効化の能力によって岩には球という概念がなくなるのだ。

これを、イメージだけでやり遂げる。頭の中で、これは球ではないのだと思い込む。

 

「定晴さんはよく斬れますね」

「たまに失敗するけどな。これ以上の真球を作ることができれば、更に練習できるのだが…」

 

俺がそう言った途端、パンデモニウムの扉が開いた。この裏庭と本館を隔てる扉だ。

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

そう言って出てきたのは幽々子。

 

「やるのは私じゃない…」

 

そして続いて出てきたのが神綺。夢子とルーミアも一緒だ。

 

「どういうことだ?」

「神綺ちゃんは魔界の神様なのよ?その岩を、更に整えることだって出来るわ」

「何であなたがそんなに得意気なのかしら」

 

神綺にツッコまれている幽々子。得意気なのは確かに気になるが、それよりも…

 

「幽々子、ユズを驚かせるようなことをするな」

 

突然大きな音を立てて開いた扉と、大きな声の幽々子に驚いてしまい、ユズは近くに木の後ろに隠れてしまっている。

音の正体が幽々子だと分かった今でも、顔だけ出している状態だ。

 

「あ、ごめんなさい。本当に」

「い、いぇ…」

 

消え入りそうな声で返事をするユズ。ユズの人見知りも、少しはここで改善できたらいいのだが…

 

「えっと、それで…神綺がするのか?」

「本当は面倒だからしたくないんだけど、やらなきゃここの食料全部食べると脅されて…」

「幽々子様!」

「あなたのためよ、妖夢」

 

そんな幽々子はちょっと不満そう。さては神綺がやらなきゃ、本当に食い尽くすつもりだったな。

神綺は渋々ながらも、俺が持ってきた岩を加工し始めた。これでもっと上達できるようになればいいのだが…

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