三十話 男性の友人
なぜ幻想郷には女の子が多いのだろうか。勿論幻想郷の総人口を比べたら同じくらいなのだろうが、俺が言っているのはそこではない。力を持っているのがなぜ全員女の子なのかを問うているのだ。
妖怪の賢者、博麗の巫女、さいきょーの妖精、寺子屋の先生、その他諸々。知り合った人妖はそのほとんどが女子なのだ。
つまるところ俺は男性の友達が欲しい。人里の人達にも何人かいるが、人里の中でしか話すことが出来ない。こう、なんというか…人里ではないところでの出会いというのを求めている。
前置きが長かったが、俺は男性の友達を探すために幻想郷の空を飛んでいる。
「あちー…アイスが欲しくなるな」
幻想郷の夏はともかく暑い。都心の方はもっと暑いが幻想郷の暑さは、久しぶりに田舎に帰ってきたときの暑さと同じように蒸し暑いのだ。
しかも俺は空を飛んでいるので通常よりも多くの日差しを浴びており、しかも太陽にも近い。なぜイカロスは太陽の近くまで飛ぼうと思ったのか。暑いだろ絶対。
「まだ七月だぞ。もっと暑くなるんだろうな…」
それにしても本題の友達探しだが一向に見つからない。
というか探し方もよく分かっていないから適当に空を飛んでいる。幻想郷の地理を完全に把握しているわけではないのでこうやって徒然と飛ぶしかないのである。
「おや?」
そこは魔法の森の入り口。人里側の方に一軒の建物を見つけた。大きさはそれほど大きくないし周囲もごちゃごちゃしていているが、洗濯物が干してあるところを見ると、未だに誰かが住んでいるらしい。人間ではないだろう、なんせ人間ではここで生活するのは少々厳しすぎる。
俺は建物の前に降り立つ。建物には看板が立て掛けられていて、屋根のところにも同じように看板が付いていた。
「香霖堂?」
入り口の上にはでかでかと店名を主張するように香霖堂と書かれていた。所々掠れて消えているが間違いないだろう。一応立て掛けられていた看板に物の修理、製作やっています。と書かれているので店なのは分かる。ということはこの周囲のものも売り物か?
俺は扉を押して中に入った。
カランカランと心地のよいベルの音は鳴るのだが、店の中は凄いことになっていた。壁にも天井にもところ狭しと物が並んでいて、塔のようになっているところもあった。インテリアにしては少し過激ではなかろうか。
「いらっしゃい。初めましてかな」
そして店の奥から出てきたのは…俺が今まで待ち望んでいた男性だった。感じる力は妖力と霊力。どうやら慧音と同じ半人半妖であるようである。
「ようこそ。香霖堂へ。僕は森近霖之助、ここの店主をやっているよ」
「俺は堀内定晴、宜しくな」
ヤバい。ちょっと泣きそう。どんだけ店が汚くても俺にとっては男性の知り合いが増えるだけで十分なのだ。適当に飛んでいても目的地にはつけるものなんだな。
「君が定晴なんだね」
「俺を知っているのか?」
「天狗の新聞に書いてあったよ。取材に応じてくれる優しい人だってね」
文はそんなことを書いていたのか。流石に自分が載っている新聞を読むのはこっ恥ずかしいので今回の新聞は読んでいないのだ。変な事を書かれていないかチェックすべきなのだろうか。
「はは、そんなに俺は優しい奴じゃないよ。さて、折角だしなんか買っていきたいんだが」
「君はやはり優しい人だ。霊夢や魔理沙はここで何も買っていかずにのんびりしているからね」
店に来て何も買わずにダラダラするだけなんて迷惑行為以外の何ものでもない。博麗の巫女としてそれはどうなんだ霊夢…魔理沙は諦めてくれ。
「この店には外の世界の物が沢山置いてあるんだな」
「うん。そういえば君は外来人なんだってね」
「ああそうだ」
「じゃあちょっと頼みを聞いてもらえるかい」
ふむ、まあ折角の男性の友人だ。仲良くするためにも依頼は達成するとしよう。
「店に置いてあるのは僕が拾ってきた物なんだが、使い方が分からなくてね。僕にも能力があるんだけど、物の名前と用途しか分からないんだ。早苗とかにも聞いているんだが生憎彼女は幼くてね、流れ着くのが一昔前の物だから彼女じゃ分からないものが多いんだ。だから教えてもらえると助かるんだが…」
一気に色々言われた。要は外の世界から流れ着いたものの使い方を教えてくれというわけだな。
「使い方を教えるくらい御安い御用だ。」
「それは助かる。例えばこれ。名前…ラジオ、用途…音を聴く」
「ああこれか。よりにもよって幻想郷でこれか…。これは幻想郷では使えないんだ」
俺がそう言うと霖之助は不思議そうな顔をする。
「これは外の世界に流れている電波をキャッチして音を聴くからな。幻想郷には電波がないから。一応電池が入ってるぽいから、こうすれば外の世界では声が…」
俺はダイヤルを回す。これは小さいラジオで、外の世界でも昔に使われていたやつだ。確かに早苗はこれ知らないだろうなぁ…
まあ元々幻想郷じゃ使えない…
『ど…そうきょ…です。』
ん?声が聞こえてきた…?急いでダイヤルを合わせる。霖之助は声が聞こえたことに驚いているようだ。
「幻想郷では使えないんじゃ無かったのでは?」
「そのはずなんだが…」
実は幻想郷にも電波があったのかもしれない。しかし、ラジオを持っている人なんてなかなか居ないから、ラジオをしても意味無い筈だ。
ダイヤルを回していたらとうとうはっきり聞こえるようになった。
『こちら司会はゆかりんでお送りしています。幻想郷ラジオ、次はお便りのコーナーにいきましょう』
「こ、これは…」
「この声は八雲紫だね。どうしてこんなことをやっているのだろう」
しかもどうやら今回に限った話では無いらしく、紫はお便りを読んでいる。もしかして紫以外にもラジオをしているのだろうか。
『次は厄神さんからのお便り。どうもこんにちは。はいこんにちはー。いつも楽しく聞いています。ありがとうございます。最近楽しいことがありまして、私は訳あって他の生き物と触れることが出来なかったのですが、最近私の厄を気にしないで接することができる人が出来たんです。私も他の人と触れあえるのは嬉しいです。ゆかりんさんは嬉しくなった体験はありますか?とのこと。いやーまずはおめでとうございます。で、私の嬉しかった事なんですけど、私の式神がケーキを焼いてくれたんですよ。それがとても美味しくて、もう嬉しかったですね!』
とても感度が良い。凄くはっきりと声が聴こえる。だがそれにしても何故ラジオをやっているのだろうか。
「なあ霖之助、誰かにラジオを売ったことはあるか?」
「ん?ああ、河童に一度売ったことがある。河童は科学技術が凄いからね。修理したのかもしれない」
「なるほどな」
そういえばにとりも河童だったな。河童の科学技術がどんなものかは知らないが、ラジオを修理できるのか。もしかして量産したことにより幻想郷でもラジオ放送をしているとか?
にしてもラジオか。家にあったっけなぁ…幻想郷じゃテレビを見れないのでラジオを聞くというのもいいかもしれない。
「このラジオ買って良いか?」
「ああ。僕も使い方が分かったし、少し安くして…このくらいで良いかな?」
「よし。買った」
「うんありがとう。さて他にもあるんだが…」
俺達はこの後も色んなもの説明をして過ごした。
男性の友人が増えるのは本当に良いことだと思うよ。うん本当に。周囲に女性ばかりというのは疲れるのである。